海外への輸出なんて考えていなかった
――2015年末のタイミングまでは、日本にカスカウィンを入れるルートはなかったんですよね。カスカウィン側からすると、日本のマーケットに自社商品を売るなんて景田さんとの出会いがなければ考えもしなかった。
景田 : ずっとローカルで生きてきたブランドなので、全くなかったと思いますね。テキーラの最大消費国はアメリカなので、「アメリカに輸出したい」っていう方は多い。ただそこもインポーター次第なので、(お金に)がめつい人もいればちゃんとテキーラのクオリティを評価してくれるところもありますし。カスカウィンはずっと家族企業なので、インポーターのような外野からとやかく言われるのをすごく嫌がるんです。アメリカを飛ばして日本で始めるのは、テキーラ業界ではかなりイレギュラーな順番ですけど、小規模でクオリティを守ってやってきたからこそ、自然な流れだったのかなと思います。
――日本とは商習慣も違うと思いますが、実際に輸出するまでに、どんな点で苦労されましたか?
景田 : 日本人だと(ビジネスで)誰もやってないことに興味を示される方が多いですよね。メキシコ人は、なんでそんなことをわたしがやらなきゃいけないの? って話になってしまう。チャンスはあげるし、君が日本からやってきて頑張っているのは分かるけど、それを事業にするかどうかは、お金を目にしないと動かない、と。
(現金を得てからというのは)確実な方法ではあるんですけど、そもそも先行投資という概念がないんです。リスクを取らないので安全には生きていけるかもしれないけど、それぞれへの還元や投資ができない。日本的なビジネスルールで考えるとクエスチョンなんですけど、それで何十年と続いてきてはいますからね。
――景田さんが大手の蒸留所に出会っていたら、また状況は違ったのかもしれませんね。家族経営の小規模な蒸留所だからこそ、プロセスや製造方法、細かいところまで最初から関われた。
景田 : そうですね。大前提としてわたしが一番知りたかったのが「プロセス」でしたからね。
――今後も、しばらくはメキシコでテキーラをつくリ続けるのですか? それとも、何か別のステップに踏み出すのでしょうか?
景田 : いまは現状のままで考えていますが、経営陣が日本輸出で感覚をおぼえて、アメリカに輸出しよう、オーストラリアに輸出しようなど考え出すと、自分自身としてはまだ分からないです。さきほどちょうど4年と言いましたが、「たった4年」なんですよね。来年には永住権の申請ができるので、そこをひとつの目標として、将来的には自分のレシピでテキーラを製造してみたいとは思っています。
ストレートで飲んでいるメキシコ人は、ほとんどいない
――カスカウィンの美味しさを表現するとすれば、どんな言葉になるのでしょう?
景田 : テキーラは、法律上1パーセントまで甘味料等を添加することが許されています。加えたとしても(表示としては)アガヴェ(編註:テキーラの原材料となる竜舌蘭)100パーセントなんですね。わたしたちはそういうことはやらずに、昔ながらの「余計なものは加えない」シンプルなスタイルでつくっています。そうして、アガヴェの蒸された香りを液体にまでちゃんと残せていること。且つ、良心的な値段設定というのが魅力だと思います。「もう一杯飲みたいな」と思えるようなテキーラを作るのが目標でもありますね。
テキーラビジネスで一番大事なのは「アガヴェの甘味とそのうま味」なんです。そこを活かしつつ、最後に製造地であるアレナル地区の水とバジェス地方のアガヴェとのコンビネーションによる、次につながるフィニッシュ感もカスカウィンの特徴かなと。これは、ブランコ(編註:オーク樽による熟成をしないもの。もしくは、熟成しても60日未満のもの)について、ですね。
そこから短期熟成のレポサド(編註:最低2ヶ月間のオーク樽による熟成を経たもの)や長期熟成のアニェホ(編註:最低1年間のオーク樽による熟成を経たもの)・エクストラアニェホなどは、古から伝わる熟成樽で熟成後に認証を経て、さらに安定化させることで「甘すぎない」バランスが出ているのかなと思いますね。
※詳しくは、カスカウィンのテキーラ ラインナップ一覧から
――ちなみに、「どれを一番多く飲む」とか「こういう飲み方を自分はする」といったものはありますか?
景田 : 大前提として、ショット(ストレート)で飲んでいる人はほとんどいないですね。ですが、まずはストレートでお召し上がりいただいて、それで一気に飲みたければ(ショットで)飲んでいただいてもいいですし、カクテルにも合わせてもいいですし。その先の飲み方は、本当に自由だと思います。わたし自身はライムを入れずにブランコを炭酸水で割る飲み方が多いですね。カスカウィンをストレートで飲むなら、レポサドが好きです。あとは、たまにカクテルでアニェホを使います。
――日本では、どこで買えるのでしょう?
景田 : 「フィデア」(独占契約で輸入している日本向けインポーター)というインポーターさんからご購入いただくのが、いまは一番いいのかなと思います。
海外に出たほうが絶対にいい
――最後に、僕が以前に景田さんとテキーラバーでお話させて頂いたときに感銘を受けたのが、日本からの距離感や勇気が必要な土地柄に、タイミングと周囲のサポートはありつつも、実際に飛び込んでいった行動力をすごいなと思ったんです。飄々と話されていましたが、なかなか出来ることではないですよね。そういったところも踏まえて、読者に向けて何かアドバイスを頂けるとうれしいです。
景田 : そうですね。あまり無責任なことは言えないですけど(笑)、やっぱり海外に出たほうが絶対にいいですね。メキシコではみんな「明日は違う日だよ」って言うんです。基本的に「明日は来る」んですよ。日本には「備えあれば憂いなし」という素晴らしい文化がありますが、メキシコではほとんど通用しません。「言葉がわからない」とか「外に出るの怖い」とか、海外に行かない理由は色々あると思うんですけど、チャンスがあったらまず動いてみる。若い方はとくに「まず動いてみて、考える」ということが必要なんじゃないかなと思います。
いまは色々な情報がネットで検索できるけど、それ(ネットの情報)に沿って動いてみると、プランがなかったときに得られる感動よりもレベルが低くなる気がするんです。人にアドバイスなんて言える立場でもないんですけど、明日のことを考えずにアクションを起こしてみる。まずそこからかなと。
わたし自身、ひとりでやってこられているかっていうとそうではなく、周りに応援してくれる人がいたり、相談に乗ってくれる人がいたりしたからこそいまがある。そこで、ちゃんとお世話になった人たちに感謝する気持ちが芽生えたなら、それは素晴らしいことですよね。何か実現したい目標があるなら(周りにどんどん)話をしてみたらいいと思います。話をするときにお酒が飲めるのならばテキーラで「サルー!(乾杯!)」ってやってもいいですしね(笑)。
わたしもバーテンダーとしていろんなお酒を扱ってきましたが、テキーラを飲むと(人と)話したくなったり、元気になったりするんですよ。
――分かります! テキーラは、ほかのお酒と比べても「人と話したくなる」という側面がありますよね。
景田 : テキーラ使いになってみて思うのは、と、申しますか、何でもそうですが、自分が飲むものを選ぶところが最終的なネックになるのかなって。それが消費者目線でもあり、生産者側もその目線をもっていたら変なものはつくれないはずなんですよね。日本の場合だと中身は知らなくて、ただ飲んで「テキーラ!」って騒ぐところがほとんどじゃないですか。だけど、テキーラの良し悪しを知って、自分で選んだものを飲むと、一気飲みするものじゃないってことに気づくわけです。
わたしもそうでしたし、小杉さんが興味を持たれたように、もっとテキーラを美味しく飲んでくださる方や興味を持ってくださる方が増えたらいいなと思います。
――アメリカで「好きなブランド」のなかにNikeやAppleと並んでテキーラブランドが入っていると知ったのが驚きで、僕もテキーラにハマりました。そこから自分が思っている以上に幅広い飲み方があることを知って、多様性に惹かれていくんですよね。
景田 : シャンパーニュと同じ「原産地呼称」なので、限られた土地で限られた方法でしか作れないお酒であるという製法にも興味が繋がっていきますよね。メキシコには、そうした面白い土地があるんだってことを知っていただくひとつのきっかけがテキーラであり、カスカウィンだったらうれしいですね。
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