田んぼ道とロックンロール
駅前の喫煙所にはじまり、古着屋、コーヒーショップ、ライブハウス、スタジオ、楽器屋――。そしてタクシーは、ふたりの通学路であり、遊び場、原風景でもある遊水地へと向かう。地元を巡る旅はクライマックスに近づきつつある。
Sister Tomorrow / ON THE RUN (Official Music Video)
頭のなかでは「Sister Tomorrow」がエンドレスでループしている。そう伝えると、萩本が「うれしいですね。あれは、19歳くらいのときに書いた曲で、前のバンドでも合わせていました。やっと今回のレコーディングで完成したと思います」と笑ってみせた。
***
萩本 : あ、これ俺が働いてたピザハット。デリバリーでひとりになれるから、曲のことを考えるのによかったんだよ。あ、あそこのたこ焼き屋、いつも気になるんだよな。
渡辺 : おれも気になる。毎回通るごとにやってるんだけど、行ったことないな。
萩本 : この時間、(遊水地は)ちょうどいいかもしんないね。
渡辺 : この時間の感じがすごい好き。
萩本 : そう、この夕日の感じがね。マジでエモーショナルな気分になる。あの、ど真ん中のひらけてる通りあるじゃん。そこが、いちばんいいと思うんだよ。(運転手に降車位置を指示しながら)ここらへんで降ろしていただければと。
「エモいですね!」
タクシーを降りて見せられた景色に思わず口を出てしまった。ふたりもこの日一番の笑顔をみせる。バンドの原点であり、Layneの音楽性とも繋がる。取材中のたわいない会話。何気ない風景、屈託のない笑顔。嘘も誇張もなく、つっぱらない。自然体でいること、いられる場所――。
萩本 : あれ、大庭城址公園っていって、昔は城があったんだよね。
渡辺 : 心霊スポットなんですよ。あんまり触れられないようなエピソードがいくつかあるんです。
「そうなんだよな、鉄塔の骸骨もあるし」と萩本がつぶやき、ふたりはレーベルの先輩でもあるGOING UNDER GROUNDの『トワイライト』の歌い出し“鉄塔の骸骨 ネオンのゼリー”と歌う。
夕日が照らす田んぼ道を自転車が通り過ぎ、遠くにはバイオリンを練習する音が聴こえる。雲ひとつない秋晴れの空には、低く飛行機が飛ぶ。抜け道なのか、バイクや自転車がひっきりなしに通り過ぎていく。
「最近は戻ってきてもずっと天気が悪かったから、ずっと来れてなかった」という萩本も、「最高のロケーションですよ」と話す渡辺も、とにかく嬉しそうだ。
ふたりでよく練習していたという高架下のベンチを横切り、川沿いを歩き続ける。久しぶりの地元。今日の感想を聞いてみた。
萩本 : 海もそうなんですけど、藤沢という街のタイム感は曲にもリンクしてくる。あらためて思い出した感覚を楽曲にフィードバックしたいし、大切にしておきたいなと思いますね。
――いまさらながら、Layneとはどんなバンドなんだろう。
萩本 : 表面上のことをいうと、グッドメロディ、かっこいいギターサウンド、うねるベースに、暴れ馬のようなドラム。気の利いたコード進行――いま、“ロックスター”とか“ロックンロール・バンド”って名乗るバンドが少ない気がしていて。そういう存在になりたいです。あとは、The Collectors(ザ・コレクターズ)がこの間30周年を迎えたんですけど、やっぱりバンドを長く続けること、愛され続けてることってすごい。そうありたいですね。
公園に16時30分を伝えるチャイムが響く。12時からはじめた取材は、すでに4時間半も経っていた。
***
藤沢駅まで戻るタクシーの車中。
バンド名に悩んだという話から、Yogee New Wavesへと話題は移る。「(角舘)健悟くんとはPARADE時代によく対バンしたんですよ。彼がまだストックホルムってバンドでドラマーだった頃ですね」
そういうと、ふたりで“目が見えなくとも 姿形色がわかる”と『Climax Night』の出だしを歌い出す。その姿は、なんだか仲のいい兄弟のようにも見える。
渡辺 : 何かの記事で角舘さんがPARADEを知ってるって書いてたな。「ぼくの憧れのバンド」みたいな。
(現サポートギターの吉田)巧ちゃんとの出会いは、昔、巧ちゃんが組んでいたバンドのことが、僕がすごく好きだったんですよ。それはPARADEというバンドだったんですけど。(「Yogee New Wavesその更新と不変 試聴会トークイベント」より引用)
萩本 : まじで! そんなこと言ってくれてたの?
ぼくもこの記事は読んでいた。元メンバーやいまや第一線で活躍するミュージシャン仲間も「満を持してあいつがデビューしたぞ」「やばい、抜かれるぞ」そう思っているのでは。萩本にそう問うてみた。
「圧倒したいですね、やっぱり」
それは、本当にボソリと、さっきまでの笑い声とともに発する言葉のトーンではない、つぶやくような一言だった。前任のメンバーと制作した曲が半数を占める1stアルバムの出来がよかっただけに、現メンバーによる2ndアルバムは否が応でも期待値が高まる。
萩本 : セカンドは、結構大作になりそうですね。バンドサウンド自体は変わらないと思うんですけど、今回のアルバムが色とりどりなロックンロールだとしたら、次はもっと透明なロックンロールにしたい。
バンドでいうとバッド・フィンガーやエレカシ(エレファントカシマシ)のスターティング・オーヴァーとか。アルバム全体に漂う透明な感じというか。建築物の完成予想図がすごいすきで、画像を集めていたことがあったんですよ。ああいうアルバムにしてみたいな。完成予想図に漂う透明感。嘘くさい空の色とか、青々とした木々。ホリデー感もあるし。
――それは、虚構ということなのか。
萩本 : ロックンロールも言ってしまえば虚構みたいなものですからね。この間、ライブに来てくれた友だちが言ってくれたんですけど、レインっていま、至ることろに転べるよねって。それがすごい嬉しかった。3,4枚目くらいでサイケデリックアルバムつくって失敗して、5枚目で「レイン完全復活」って帯が付いてね。
渡辺 : 浮き沈みもこっちで決めて(笑)。
萩本 : オアシスでいうと『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』みたいな感じだよね。
渡辺 : 名盤を引っさげて帰ってきた!
萩本 : これも(バンドの)型だね(笑)。
すすきが生い茂る地元の風景、切磋琢磨した音楽仲間、街のタイム感、非不良性、バンド特有の型。これらが掛け合わさることで生まれるLayneの音像。果たして次はどんな風景を見せてくれるのか。その時が待ち遠しい。
Be The One
¥2,500(TAX IN)YRNF-0004
1.ステイウィズミー
2.ビューティフルライフ
3.SisterTomorrow
4.ゲットイットアウト
5.アドニスブルー
6.スターティングオーバー
7.ベイビーイッツオールライト
8.ビスタライト
9.ONTHERUN
10.スモーキングチャイルドフォーエバー
SHARE
Written by