“ライブもイベントもすぐ終わっちゃうんで おもいっきり感じてってください(奇妙礼太郎)”
(奇妙礼太郎)
たしかに、会場にはファミリー層が多かった。印象的だったのが、子どもを抱えながら最前列で奇妙礼太郎のライブをたのしむ女性の姿。ちいさな子どもは母親の腕のなかですやすやと眠っていた。奇妙礼太郎のうたごえを子守唄にするかのように。
(チプルソ)
また、チプルソからまっすぐにライムを浴びせかけられていた少年。彼は、あの場でなにを思い、なにを感じたのだろう。アーティスト/ミュージシャンの和田永は、幼少期に旅したバリ島で遭遇した奇祭が鮮烈な印象を残し、それがいまの活動に繋がっているとインタビューで語っていた。
“こっからはみなさんが題材 少年 観ておくといい イカれた脳細胞 みんな言うぜ 今日サイコー”というチプルソのパフォーマンスに遭遇した少年にとっても、いい意味でのトラウマになったのだろうか。音楽に身を委ね、身体を揺らしながら、ふとそんなことを思った。
フェスの根幹でもあるアーティストのブッキングはと言えば、吉竹さんの元バンドメンバーが溺れたエビ!に所属していたり、(小南)泰葉さんも知り合いだったりという身内からスタート。
(溺れたエビ!)
溺れたエビ!ヲサ(剥き身)meets 百福「溺れた海老カレー」!
グギャギャ!!!#スパイスだもの。 pic.twitter.com/1uDzRT8li9— 溺れたエビ! (@DrownedShrimp) 2017年10月28日
「音響さんも泰葉さんが地元でライブした時に来てくれた方で、且つ(溺れた)エビ!のクルーでもあったので、最初に相談した時に『エビやったら興味持つかもよ』ってご紹介をいただいて。HAPPYは京都のバンドなんですけど、丹波のライブハウスでよくライブをしていたので縁があって出演してくれました。でも、基本はぼくの好みです」(西脇)
(AFRICA)
オープニングアクトを務めたAFRICAがよかったと伝えたところ、「かっこよかったですよね。アフリカは大学の後輩なんですよ」と、吉竹さん。また、ほかのスタッフと酒を酌み交わしながら話を聞けば、同じく東京からきたという撮影班は西脇さんの大学時代の友人たちだった。地元を盛り上げようと立ち上がった仲間のために、手弁当でみんなが力を貸す。そうした結果がイベントの大きな柱となっているのだ。
しかし、最終ラインナップで“奇妙礼太郎”という名前が記されたときは、正直驚いた。地方のフェス、それも初回でなかなかのネームバリューに。やはり、ブッキングは最後まで難航したという。「おとぎ話さんとか奇妙(礼太郎)さんは、どぶ板営業みたいにスケジュールをチェックしました。『27日に関西方面来て、28日空いてるな。これもしかしたら、いけるんじゃないかな』とダメ元でメールを送ったら返信をいただいて」という西脇さんの言葉に次いで、吉竹さんも「全部、ギリギリやったね」と笑う。
また、「3カ月前くらいまで(出演者も)3組くらいしか決まってなくて。目標は500人とか言っているのに、2カ月前まではチケットも10枚しか売れてなかった(笑)」という裏話も飛び出した。しかし、結果的には400枚ほどのチケットをさばいた。目標枚数には届かないものの大健闘とも言える数字だ。
架空の街は実在する街のハブとなる
前日の設営からイベント当日、そして撤収まで。会場には多くのスタッフの姿も見受けられた。なかには、東京からきたボランディアもいたとか。
【ボランティアスタッフ大募集!】 森と音楽とカレーの野外フェス『スパイスだもの。』では、この刺激的な一日を共につくりあげてくれるボランティアスタッフを大募集!https://t.co/dhhZHf7WaU pic.twitter.com/DVoVdRzBFa
— スパイスだもの。 (@spicedamono) 2017年9月10日
「東京の大学でフェスを研究している学生や、このフェスが始まるきっかけを知りたいっていうボランディアの方とか。いろんなところから応募がありましたね。お客さんもそうですけど、よく見つけてきたなって逆にぼくらが思うくらい」と西脇さんが言うように、潤沢な予算のない広報活動はホームページとSNSだけ。
2017/10/28 兵庫 丹波市 悠遊の森で開催された「スパイスだもの。〜森と音楽とカレー〜」に行ってきました!コンセプトも明確、音楽ライブも充実してるし、楽しめました!ただただ雨だけが残念!
好きなアーティストとカレーと野外!ただ最高!
#Festivaltripper pic.twitter.com/aui7FdN9n6— Festival Tripper (@FestivalTripper) 2017年10月29日
「プロモーターにも頼めないし。お金がない中でひたすらTwitterとか地道なことしかできなかったですけど、見てくれる人は見てくれて。これをきっかけに、丹波出身の人が『私も手伝いたいです』とか『こんなイベントあるなんて素敵です』って言ってくれて。『丹波におとぎ話と奇妙さんが来るんだぜ。すごいだろうこのメンツ』みたいなね。どんなかたちであれ、丹波に興味を持ってくれる人がいるのはすごくうれしいですね」(西脇)
「わたしたちが丹波に住んでいた時からは想像もできないことです。地元の人、Uターン、Iターン、さらに外部の人が来たから本当にいろんな意見や価値観が交換できたと思います」(吉竹)
残念ながら、当日は天気に恵まれなかった。それでも、ひとつひとつのコンテンツは盛り上がっていた。カレーも売り切れていたし、合コンには男女各20人が集まったのだから。
「大阪はカレー熱が強いんですけど、僕らの地元のような田舎ではカレーイベントってあんまりなくて。しかもカレー屋さんが出店するフェスってそもそも入場無料というスタンスが多いので、直前まで出店するみなさんは不安に思っていたみたいです。あとは(青空)美容室も準備が行き届かなくて、本当に人が来るかなって思ったら、10人とか15人くらいが髪を切りにきてくれて。みんな、森で髪切りたいんだなって(笑)」(西脇)
「髪、切り行こうぜ」「髪切って、マッサージのコースやな」など、ポジティブな反応もふたりの耳に届いたようだ。
外からの視点で気付かされた内なる魅力
初回で台風。まるでフジロックのようだが、こちらはあくまで手作りのイベント。それでも次を目論んでいるのかという問いに、西脇さんは「開場して昼くらいまでは、二度とやるかって思ってました」と素直な心情を吐露。吉竹さんも「ごめん。私も」と笑ってみせた。
「ただ、スタッフもすごく楽しかったみたいで毎年来たいですといってもらえたのはうれしかったです。いまは来年もやりたいなと、ちょっとは思っています(笑)。楽しかったねで終わっちゃうのもいいけど、それだったら外部の人は絶対来てくれないので。ぼくが好きなフェスはクオリティがトップにある。それだけは徹底しようと。もちろん、できてないこともいっぱいあります」(西脇)
「彼女(吉竹さん)が装飾を全部担当したんですけど、妥協をした点もあるとはいえ最後までちゃんとやっていました。それはお客さんの反応にも素直に表れていたと思います。来てくれた人には満足して帰ってほしいという一心で彼女は必死で準備してましたから。フェスってそういう想いが一番大事じゃなんじゃないかなと思うんです」という西脇さんのことばに、デザインを担当した吉竹さんが素直に喜ぶ姿もほほえましい。もし来年もやるとしたら、やはり秋頃の開催になるのだろうか。
「丹波やこの悠遊の森には魅力的な時期がふたつあるんです。ひとつは、稲穂が水面に映ってうつくしい瞬間や新緑がすごきれいになる5月。それから黒枝豆や栗といった秋の味覚が堪能できる10月。今回は、ぼくが今年中にやりたかったので10月にしました」(西脇)
5月頃には空中分解しかけて、みんなから来年にしましょうと提案されるも「それを言っていたら絶対にやらないから、今年やろうと。スタッフもみんな疲れきっていますけど、いまはなんとか無事に終えられてほっとしています」と話す西脇さんの表情には、疲労と安堵、責任や自信、様々な感情が入り混じっているように思えた。
インタビュー中も常に電話が鳴り止まず、ここからまだ撤収作業も残っている。イベント翌日の方が台風は強まっていた。
「(悠遊の森という)この場所を知ってもらって、ふつうに泊まりにも来てもらってもいいし。という感じかな」。西脇さんのことばで取材は終わり、ぼくらは雨のなか帰路についた。
極端に興奮せず、極端に落胆せず、極端にポジティブでもネガティブでもない。最後の西脇さんの言葉には、どんな想いが込められていたんだろう。
東京から地元に戻り、成し遂げた1つのことは、これからどんな未来に繋がっていくのだろうか。
これからもミーティアは『スパイスだもの。』クルーに注目していきたい。
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