2005年のメジャーデビュー以来、J-HIPHOPのシーンを牽引してきたラッパー、SEAMOが通算10枚目のアルバム『Wave My Flag』を完成させた。今作はデビュー15周年を記念したアニバーサリー・イヤーのリリース第一弾と位置付けられており、前作『Glory』の発表からわずか8カ月という非常に短いスパンでのリリースとなっている。
15周年、10作目という節目のアルバムには、どのような想いが込められているのか? 長く続けてきたからこそ辿り着いた境地と、その道中にあった苦しみや悩みについて、SEAMO本人が包み隠さず語ってくれた。
Photography_Yuki Aizawa
Text_Akihiro Aoyama
通算10枚目のアルバム、テーマは「今までのSEAMO」
――今年2月にリリースした前作『Glory』から数えて8カ月、というスピードでのアルバム・リリースとなりました。この早いタイミングでアルバムを作った理由を教えてください。
SEAMO:今年から来年にかけて活動15周年の年なので、レコード会社のスタッフも含めてアニバーサリー・イヤーの企画を考えていたところ、この時期にアルバムのリリースを入れたいという話になりました。最初はミニアルバムのようなボリュームでもいいかとも思ったんですが、15周年だし10枚目だし、ちゃんとオリジナル・アルバムとしてカウントできる作品までいけたらいきたいなぁ、と思っていたら、いけたということですね。
――では、制作自体はかなりの短期間で行われたのですか?
SEAMO : かなりタイトなスケジュールではありましたね。2・3曲くらいはちょっとしたデモがあったんですけど、その他は6月・7月に新しく作ってレコーディングしたものです。
――短期間で集中して作られたからこそ、アルバムとしてのまとまりがある作品になっている印象を受けました。
SEAMO : まさにおっしゃる通りだと思いますね。今回は何かのタイアップに向けて作ったというわけではないので、昔の自分に回帰するような、オールドスクールなテイストにしたいなと思っていました。
――確かに今回のアルバムには、「オールドスクール」というキーワードが一つあると思います。そのコンセプトにフォーカスした理由は何ですか?
SEAMO : 結局、自分が一番得意なところを考えてみると、そこなのかなと。自分なりに今のトレンドを追いかけたり、アルバムの中で新しいビートに対するアプローチを試してみたりということはあったんですけど、今回は15周年だし、自分が一番しっくりくるモノを出したかったんです。今の若い人達と接していると、オールドスクールなヒップホップを逆に新鮮に聴いていたりもするんですよね。そこに興味を持って聴いてくれるなら、僕たちも得意とするオールドスクールなモノを自信持ってやらせてもらおうと。
――活動15周年ということで、リリックも長く続けてきたからこそ書ける内容が多くなっているように思います。そこは意識して書かれたのでしょうか?
SEAMO : 最初は意識していなかったんです。でも、制作を進めるうちに「あれ?これってアルバム10枚目だよね?」って気づいたという(笑)。スタッフも誰も気づいてなかったんですよね。15周年だし、10枚目だし、節目だよなぁということが頭の中に漠然とあって、知らず知らずのうちにそうなったんだと思います。前作・前々作は「今のSEAMO」を描いていたんですが、今回のアルバムは「今までのSEAMO」と「これからのSEAMO」を強く描いたということですね。
15周年だからこそ書けた、続けることの重み
――アルバムタイトル『Wave My Flag』は、近年ではお馴染みになっているSEAMO×Crystal Boy×KURO×SOCKSという面子でのポッセ曲「Wave Your Flag」から取られていますね。このタイトルに決めた意味を教えて下さい。
SEAMO : もともと、HOME MADE 家族のKUROに、ラグビーワールドカップもあるし、スタジアムで鳴るような応援歌を作ろうって話をしたことから始まった曲なんですね。この曲は応援歌なので「Wave “Your” Flag」なんですけど、このタイトルをアルバムにも付けようと思った時に、このアルバムは「これまでのSEAMO」を描いた俺のアルバムだしなぁと思って。俺イズムを語るというのはヒップホップの醍醐味でもありますし、自分の人生を語っている曲も多いので、大いに自分の旗を振らせてもらおうと考えて「Wave “My” Flag」にしました。
――この曲ではそれぞれがヴァースのリリックを書かれていますが、皆さんに共通して「年月を経た重み」が表れています。これは意図的ですか、それとも偶然ですか?
SEAMO : お互いによく知っている面子なので、今年が僕の15周年だということとか、色んな状況をよく知ってくれているんですね。同時代を一緒に戦ってきた仲間だからこそ、僕が集大成を作ろうとしていることを理解してくれて、そういうリリックにまとまったんだと思います。実は、僕からそういうオーダーをしたわけではないんですよ。最初に僕が自分のヴァースとサビのリリックを提出して、書けた順に足していったんですけど、他のやつが書いたモノに次がどんどん引っ張られて、こういった内容になりました。
――特に、SOCKSさんのヴァースで「Continue」が引用されている箇所は、ファンにはたまらないでしょうね。
SEAMO : そうですね。そんなことまでしてくれてありがとう、って思いますね。彼は僕らから見て一世代若くて、といってももう中堅ですけど、僕のことをそういう風に見てくれているんでしょうね。続けていくことの鉄人、みたいな。それは素直にありがたいなって思います。
――アルバム全体としても、「Continue」で歌っていたことの10年後、という印象があります。
SEAMO : あの曲を書いた当時は、まだ何も分かっていなかったというか、今振り返ると入口の入口だったと思います。ただ、あの曲を間口にしていろんなことを経験して、今また歌う「Continue」とか、さらに10年後に歌い「Continue」も説得力が出てくるのかなって。最初は何も分からずに歌っていた「Continue」ですけど、偶然にもそれからずっとあの曲を体現しているんですよね。ずっと穴をあけずに続けることができている。それは僕が唯一自慢できることなんです。今回のアルバムでいうと、「時に逃げることも覚えた」っていうリリックは自分的にセンセーショナルで。たまには横道にそれたり、根ばかり詰めずに力を抜いてやることも必要なんだよって言えるのは、まさにずっと続けてきた今だからこそ書けるフレーズなんじゃないかと思いますね。
――15年も続けていた今だからこそ書けるリリック、というのは全編表れているように思います。例えば、「日々労働」のようなワンテーマの曲だって、若い人間には書けないし、もし歌っても説得力が出ないんじゃないかと。
SEAMO : その通りだと思いますね。「ゆとり世代」とも言われてた若い世代の人たちは、僕たちの世代と比べて労働に対する向き合い方が全然違うんでしょうね。僕たちの頃には考えられなかったような高時給で募集してもアルバイトが来ないとか、叱られたらすぐに辞めてしまうとか、僕らからすると自分に甘いと思うこともあるけど、若い人からするとそんな時代じゃないんだという考えになる。ブラック企業とか、定時に帰れないとか、そういう話を聞いていて、でも僕らの仕事はそもそもそういう時間で縛られる仕事じゃないんだよなぁとか思いながら書きましたね。僕の仕事に対する向き合い方はこうなんだ、という内容になってます。
――「一口馬主Lovers」のようなコミカルなテーマの曲にしても、若い子が書けるような内容じゃないですよね。
SEAMO : 僕はこういうニッチな曲を割と得意としてきたんですね。この曲は最初に語っていることが全てで、全く飽きることのない趣味、という。飽きるどころか、むしろ過熱しているくらいに僕がハマっていることではあって。それは15年も凌駕するくらいなので、節目にはこういう曲もいいかなと思って入れました。良い意味で言えば、ニッチなテーマでも曲を作ることができる。悪く言えば、こういうニッチなことでも曲にしないとやっていけないんです。ヒップホップのアーティストって、大体1枚目・2枚目の作品が名盤で、そこからは良くないとされることが多い。その理由の一つとして、そんなに言いたいことなんてこの世の中にないという。言いたいことは最初の数作で言ってしまうんだけど、生業としていくにはその後も曲を作っていかなくてはいけない。
――なるほど。ヒップホップで良く言われる「リアル」であることが足枷のようにもなっていく、と。
SEAMO : 今の若い子って、メモ感覚でリリックを書く人も多くて、その辺すごく上手いんですよね。でも、僕らは結構マジメなんで、かっちりとテーマを固めて書かないと書けない。でも、こういうニッチなところまでテーマを広げればまだ書けることが出てくる。チューブを絞って絞って、搾り切るような感覚ですけどね。僕の中では2枚目くらいでもうチューブを絞り切ったけど、それでもハサミを入れたりして、何とか15年間やってきた。でも、こういうところまで手を広げればまだまだいけるなって、今は自分の得意なところで楽しんでやれるようになりました。
悩みながらもがいている自分もエンターテインメントに
――「大人になりました」の「40を超えて いい事ばかり続かない」というヴァースにも、そういった苦しみが表れていますね。この時期の苦しさというのは、どういったものでしたか?
SEAMO : 年も老いて若いままではいられないし、人気も不動のままではない。若い子もどんどん出てきて、自分たちに当たっていたはずのスポットライトが若い子達に当たっていくと、やっぱり嫉妬したり、居ても立っても居られない気持ちになったりもする。頑張ってるのに思ったような結果が得られないという苦しみはありますよね。でも、ある時期から、それも自分との闘いなんだなって思えるようになったんです。それから肩の力が抜けて、他人の動きが気にならなくなりました。そうして自分のできることに集中する方が、逆に他人と良い関係が築けるようになっていくような気がするんです。今も自問自答したり、悩んだりすることはありますけど、30代後半から40代の時期に直面した一つのトンネルは抜けたように思えますね。
――その苦しみから抜け出せたきっかけは何かありましたか?
SEAMO : 自力で引き寄せたという自負はあって、止まっててもしょうがないから今の自分を見せに行こうと思って、動き続けたことが良い結果につながったんでしょうね。悩みながらもがいている自分もエンターテインメントに変えていけばいいじゃないかって思ったんです。若い頃は、弱っちい自分を見せることをどうしても恥ずかしいと思ってしまいがちじゃないですか。でも、年を重ねてくると、そんなのは自分の人生のほんの小さなピースに過ぎないって気付くんです。そういう部分をさらけ出すことで、同じように悩んでいる人を勇気づけられるとしたら、それこそがミュージシャンにとっての最大の喜びだと思うんですよね。
――ボーナストラックを除くと、最後の曲になる「終わり良ければ全て良し」は、これまたかなりオールドスクールなトラックですね。
SEAMO : 僕がビートメイカーに伝えていたイメージは、パブリック・エネミーとかで。他も全体的に古いモノをイメージしていて、90年代のヒップホップとか、僕がデビューした2000年代初めに流行っていたJ-HIPHOPとか洋楽とか、そういうものを聴かせて作っていったんですけど、この曲はまさにそういう曲になってますね。この曲でライブを〆たいという、新たな〆のパターンが出来たなって思います。「終わり良ければ全て良し」っていう言葉は、投げやりにも聞こえるけど、すごく気持ちよくもある。まだこれから凄いこと、ヤバいことが待ってるんだよって思うことで、続けるモチベーションになるんじゃないかなって思ってますね。
――今作から始まる15周年のアニバーサリー・イヤーは、どのような活動が控えていますか?
SEAMO : まずは10年振りのベスト・アルバムをリリースする予定です。あと、そのアルバムにも収録される予定なのですが、今ドキュメンタリー映画を撮っています。僕と関わってくれた裏方の人達とか、一般の人から見ると「誰だろう?」って思うような人が山ほど登場してくれて、僕について語ってくれているんです。シーモネーター時代も含めて、新旧いろいろな人達が出てくれて、ライブ映像もたくさん収録される予定です。あとは全国ツアーですね。
――最後に、「今までのSEAMO」が詰まった今作の後、「これからのSEAMO」をどのようにしていきたいですか?
SEAMO : ありがたいことに、今の時点でいろんな活動を経験させてもらっていて。曲を作るだけじゃなく、芝居だったり、ラジオで話したりもやらせてもらえているので、あとやっていないことはYouTuberになることくらいかもしれません(笑)。今はとにかく、一つひとつの活動をブラッシュアップしてやっていきたいですね。それに、ライブで若い頃に回った県や土地でご無沙汰の場所がたくさんあるので、そういったところにもライブしに行きたいとは思ってます。
〈リリース情報〉
2019.10.09
『Wave My Flag』
初回限定盤 [CD+DVD]
¥3520円 / BVCL-1003~4
通常盤 [CD]
¥2970円 / BVCL-1005
[収録曲]
1.Clap Your Hands
2.Wave Your Flag / SEAMO×Crystal Boy×KURO×SOCKS
3.日々労働
4.アンビリーバブル
5.大人になりました
6.Hey Taxi
7.一口馬主Lovers
8.You don’t Fuu
9.未完の大器
10.どうせなら笑顔で
11.終わり良ければ全て良し
12.スーパー・ストロング・エキセントリック・ボーナストラック「BAD天狗/シーモネーター」
初回限定盤DVD収録内容
「大人になりました」Music Video
「ルパン・ザ・ファイヤー」「Cry Baby」from SEAMO TOUR 2019「Glory」
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