インターネットの申し子「神聖かまってちゃん」
なにかとお騒がせなロックバンド「神聖かまってちゃん」。フェスや動画配信や、はたまたNHKで大暴れし、数々のスキャンダラスな事件を起こしては炎上してきました。かと思えば、代表曲『ロックンロールは鳴り止まないっ』は映画化され、主演は今や実力派人気女優の二階堂ふみ。また川本真琴と『フロントメモリー』でフィーチャリングするなど、数々のアーティストとコラボし、音楽面でも高く評価されています。
インターネットからメジャーシーンへと飛び出した、インターネットの申し子・神聖かまってちゃん。その波瀾万丈な事件史を振り返りつつ、魅力を追ってみます。
補導、出血、放尿、なんでもアリのサクセス事件簿
“インターネットポップロックバンド”と冠のつく神聖かまってちゃんは、の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の4人組からなります。そのうち、の子、mono、ちばぎんは、幼稚園の時の同級生。前身バンド「びげるばげる物語」「うっそぴょん」と改名を重ね、2008年より「神聖かまってちゃん」として活動を開始します。
注目を浴び始めたのは、ボーカルの「の子」を中心にインターネットで情報を発信したことがきっかけでした。2007年頃から、2ちゃんねる、Stickam、peercast、ニコニコ生放送などのリアルタイム動画配信、YouTubeへのPVアップロードなど露出を重ねました。その映像は、音楽としてだけでなく、スキャンダラスなものとしても話題を集めていきます。
2007年にYouTubeにアップされたライブ映像『かおりちゃん』では、の子が顔面から血を流して熱唱。(この時は「うっそぴょん」として活動中)
また、秋葉原のメイド喫茶でネット配信しようとして追い出されたり、渋谷の交番前でヘルメット姿で路上ライブし補導されるまでを配信する行為を繰り返したり、新宿のタワレコでゲリラライブして店員さんに追い出されたり、ライブ中に全裸になったり放尿したり、ライブ中にカミソリで額を切り大量出血したり、ネット配信中に何度もメンバー同士でマジ喧嘩を繰り広げたり……エピソードは尽きません。
出展:YouTube
はい、こちらの映像でも、ガチで怒られています。
その後テレビ出演が増えてきても、態度を改めることはありません。生放送で歌わずに、口に含んでいたナルトを吐き出しテレビカメラに貼付けたりと、お茶の間もビックリです。その自由奔放で“頭のイカれた”振る舞いに中毒になるファンが続出。数々の芸能人も「ハマっているバンド」として各地で紹介するようになりました。
代表曲『ロックンロールは鳴り止まないっ』は二階堂ふみ主演で映画化され、バンドとしても映画『モテキ』に出演するなど、活動の幅を広げます。また、数々のアーティストともコラボし、ファン層を広げてきました。
出展:YouTube
クセになるメンヘラ歌詞
ド派手なパフォーマンスがなにかと話題となった神聖かまってちゃんですが、音楽の評価も高いのです。大きな魅力は、の子が自身のいじめや引きこもり経験を元にしたという歌詞でしょう。
死ねよ佐藤おまえのために
死ねよ佐藤きさまのために
おまえはいつでもやってくる
知らない嘘をついて
「夕方のピアノ」
出展:公式サイト
学校に行きたくない
学校に行きたくない
計算ドリルを返して下さい
計算ドリルを返して下さい
「学校に行きたくない」
出展:YouTube
学校に居場所がない
1学期からすでに僕は
空気を吸ってつまらせて吐き出すゲロにまみれてます
「学校」
このように思春期の憤りや不安にまみれた攻撃性をまき散らす歌詞を書いたかと思えば、ラブソングもあります。
放課後僕と君
掃除当番同士少し喋りました
優しくしようとして先帰っていいよ
なんて言っちゃいました また僕は
「ちりとり」 (アルバム「ベストかまってちゃん」収録)
出展:ワーナーミュージック・ジャパン
書かれた言葉や情景はダイレクトでありながら、説明しすぎてトリハダが立つような寒さもなく、言葉のセンスを感じます。さらにこれをライブでは、汗だくに走り回りながら、時おり金切り声でシャウトします。イカれた(ように見える)歌い方と、おそらく多少は冷静に組み立てられた歌詞表現。静と動が混在することで、聞く人はなぜだか胸が引き裂かれるように共感してしまいます。
また、歌詞にもメロディにも、の子の中にある『躁(そう)と鬱(うつ)』がそのまま現れています。病的さと冷静さの両方を抱えているからこそ、人間のあやうさを的確に描けるのだろうと思います。本人はとても苦しいでしょうけれど。
キチガイのフリした凡人で何が悪い!!
僕は特別になりたいんだ!
他になにもできないし何もないし
結婚もできないし人生なんてなにもない!
音楽がなかったら本当になーんもないんだ!!!!
底辺じゃない!
お前のが間違ってると僕は思う!
お前のが僕より劣ってるよ!!!
音楽家としては貴様のが劣ってるよ!
はやく引越し!引越し!君じゃぁ物語なんかはじまらねぇ!
『2ちゃんねるに の子 が書き込んだ言葉』(2008年)
結成10年を前にして 〜三十路のロックンロール〜
2010年頃より、各地で話題性を振りまいていた神聖かまってちゃんですが、少しずつメディアへの露出は落ち着いてきたように見えます。しかし30歳を越えた彼らは、2016〜2017年にかけて過去最大の全国15カ所ワンマンツアー「めちゃめちゃ魔法をかなえてツアー」を開催。勢いは止まりません。
出展:YouTube
ことあるごとに彼らは「ロックだ!ロックを伝えたい!ロックは終わらない!」と叫んできました。時には「俺はロックが嫌いだ。だから世間的にはロックだ」という自己分析をしたりと、ロックが好きなの?嫌いなの?どっちがどっちかわからないツンデレ(?)も発揮。ロックに対しても、ロックな姿勢を崩しません。まさにロックンロールは鳴り止まない様子です。
しかしその歌詞は、いじめや引きこもりではなく仕事に対するものへと変化してきました。2016年に出した初のミニアルバム『夏.インストール』のリード曲「きっと良くなるさ」では、「きっと良くなるさ!Yeah!」と歌っていて、怒りややるせなさをまき散らしていた頃からの変化も感じられます。今後、何に対して彼らはロックンロールを叫ぶのか。若さとはまた違う、30代の神聖かまってちゃんのロックを目撃したいです。
出展:YouTube
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