最高のカムバックを果たした、Hiatus Kaiyote
3日目ともなると、オーディエンスの審美眼もだいぶ厳しくなっております。世界最高峰の実力者たちが立て続けに出てくるわけですから、通しでフジロックに参加している人たちの音楽的な基準はぐんぐん上がってゆきます。3日間のプログラムがすべて終了した後にベストアクト系の記事が多く上がってくるのは、それほどそこで目撃したパフォーマンスを人に伝えたいからなんです。厳しくなった我々の基準を余裕で超えてくる。
その典型的な例がHiatus Kaiyote。
何が凄いのかって? 全部です。バンドのステータスを五角形のグラフで表現するなら、彼らはすべて振り切ってる。技術、知識、ライブ、曲、カリスマ性…。ものすごい量の知識と超絶なテクニックを持つ彼らですが、そのライブは特定のジャンルに対してリテラシーを持たなくとも我々の心に刺さってきます。個人的な話をすると、2016年の「Greenroom Festival」で彼らのライブを観ていなければ、書き手になろうと思わなかったかもしれません。文字通り、その実力は人の人生を左右するほど。
今回のフジロックは、我々ファンにとっていつも以上に特別な意味を持っておりました。ネイ・パームは昨年の暮れ、自身が乳がんを患っていることを告白。SNS上には衝撃が走りました。摘出手術の後に病室でカーティス・メイフィールドの「The Makings of You」をカバーする様子をYouTubeに上げるなど、ポジティブな動向も見受けられましたが、その後の経過を懸念していたファンは多かったと思います。フジロック出演が発表されたものの、「本当に大丈夫なのだろうか…?」と気をもみました。
ライブではそんな不安を一蹴。中盤の「All The Words We Don’t Say」あたりから怒涛の展開。その姿はいつものスーパーバンド、Hiatus Kaiyoteでした。ネイ・パームの声もよく通っていたし、相変わらずギターも巧み。「Molasses」の完成度たるや、Greenroomの時よりも上を行くようでした。術後以来、日本公演はこれが初めてでしたが、彼らをフジロックで観られて本当によかった。戻ってきてくれて、どうもありがとう。
KOHHが革新するロック観
フジロックに出演するアーティストは、ロックミュージシャンだけではありません。ここ十数年の間で音楽シーンもずいぶん様変わりしまして、様々なアーティストがヘッドライナーを張るようになりました。“Jay-Zがグラストンベリーのヘッドライナーを務める”と言って議論が紛糾していたのも、今は昔です。その結果覇権を握ったのがヒップホップなわけですが、そうすると過去にロックが担っていたことをやり出すラッパーも現れ始めました。KOHHは実際にロックフェスにも呼ばれますが、その好例だと思います。
ステージでの立ち振る舞いや、身にまとう雰囲気がロックスターのそれです。「Hate Me」から「Leave Me Alone」の流れは、何だかカート・コバーンを彷彿します。体中の全生命力を使い、ラップにしているような。KOHHのライブではライゾマティクスによるリアルタイムARも導入されていたのですが、その実験的な様相も彼の危うさに拍車をかけているように見えました。苦しみ悶えるようにラップする姿が、機械的に記録され、スクリーンに映し出されてゆく。
時代の変化に応じてシーンも変わってきました。主役もその時によって様々です。グラストンベリーの話に戻ると、今年のヘッドライナー3組の内の1人は、ブリティッシュラッパーのStormzyでした。一方日本でもKOHHが革新的なテクノロジーでもって退廃的なロックスターを想起させるようなパフォーマンスを見せる。日進月歩で変貌する音楽シーンですが、フジロックは日本でその革新性を10万人規模で提示できるただひとつのフェスだと思います。
SHARE
Written by