フジロックとグラストンベリー
日本最大規模の野外音楽イベント「フジロックフェスティバル」。今や海外からのオーディエンスたちも押し寄せる、日本が世界に誇るフェスティバルです。フジロックのモデルとなったのは、UKの「グラストンベリー・フェスティバル」であります。圧倒的な大自然の中で行われるフジロックとグラストンベリーの共通点といえば、やはり天候。凄い時は本当に凄い。2005年のグラストンベリーは今もなお“泥の祭典”と語り継がれるほどです。数時間のうちに2か月分の降雨量だったというのだから慄然とします。テントの間をカヌーに乗って進めるほどだったのだとか。けれどもグラストンベリーのお客さんは荒天には屈しません。そういうオーディエンスのメンタリティもフジロックにはしっかり継承されているように思います。
ちなみに下の動画は今年グラストンベリーでヘッドライナーを務めたThe Killers(ザ・キラーズ)のライブの様子。
友人がひとり現地におりまして、30日の朝(日本時間)に電話がかかってきました。「これ以上のライブはもうない。今日でライブもフェスも引退する(嗚咽交じり)」。朝早くからまったくもって騒々しい電話でしたが、確かにコレを生で観た日にはどうにかなってしまいそうですね。ジョニー・マーもいますし。
フジロックもグラストンベリーも、「天候を含めた何かしらの困難を乗り越えて、最後の最後にヘッドライナーが鎮座するメインステージにたどり着く」というドラマチックな構造を持っているような気がします。ヘッドライナーでなくとも、自分が追い求めていたアーティストのライブが困難の末にあったとき、それは抗いようもなくドラマチック。一昨年のThe XX(ザ・エックス・エックス)やBonobo(ボノボ)などは、時間帯も相まって感涙ものでした。
“自分が追い求めていたアーティスト”によるわけですから、もちろんドラマチックに見える場面は個人差があります。そんな十人十色のメモリーたちを存分に想起させてくれるのが、フジロックの公式アフタームービー。数あるフェスのアフタームービーの中でも、個人的にはフジロックのが一番好きですね。「アフタームービー世界選手権」なるものがあればグランプリ取れる。
FUJI ROCK FESTIVAL’18 Aftermovie
フジロックフェスティバル2019にみるアーティストたちの歴史とドラマ
フジロックフェスティバルは1997年に始まりました。もう20年以上続いているんです。これまでに積み重ねられた歴史も相当なもの。オーディエンスである僕たちはもちろんですが、出演するアーティストにも歴史やドラマがあり。1日目のヘッドライナーであるThe Chemical Brothers(ケミカル・ブラザーズ)は今回が6度目の出演で、彼らのYouTube公式チャンネルにもフジロックでのライブ映像がアップされています。常連中の常連。
The Chemical Brothers – Star Guitar (Live from Japan)
最後に出演したのが2011年ですから、もう8年前ですか…(遠い目)。最近のThe Chemical Brothersのセットリストから察するに、「Star Guitar」はプレイしないかもしれませんねぇ。…と見せかけてやるのがフジロック。昨年のN.E.R.D.(エヌ・イー・アール・ディー)がそうだったように、海外の大物アーティストですらもフジロック仕様のセットリストを組むことがしばしばです。頭の片隅に「『Star Guitar』やるかも…?」と入れておきましょう。
で、3日目のヘッドライナーであるThe Cure(ザ・キュアー)に至っては、今年のグラストンベリーでヘッドライナーを務めたばかり。つまり、苗場では最も仕上がった状態の彼らを観られるわけです。今年5月30日にはシドニーのオペラハウスで『Disintegration』(80年代屈指の名盤)30周年記念全曲再現ライブが開催されました。以下、当日ストリーミング配信された映像。
彼らは3度目のフジロックですが、前回出演した2013年の記憶が鮮明に残っているファンも多いのでは。驚異の3時間ライブ。いくらヘッドライナーとはいえ、例年では2時間でもかなり長いほうなのに、3時間ともなればもはや単独公演であります。単独でも3時間は長い。ちなみにフジロックは、The Cureサイドから「日本ではぜひフジロックで!」と逆オファーされたそうです。
最後にSia(シーア)。中日である土曜日に出演する彼女ですが、フジロック出演はこれが初めてではありません。Sia名義では来日自体がそもそも初めてですけれども、別のバンドプロジェクトで過去に苗場の地を踏んでおります。それが、ヘンリー・ビンズとサム・ハーデイカーの2人から成るユニット、Zero 7(ゼロ・セブン)。Siaは客演でした。今でこそ顔を隠して活動しておりますが、当時は客席(レッドマーキー)からも表情がしっかり見えておりました。
Sia – 「Alive」
したがって、彼女もまた凱旋公演なのです。紛れもなくフジロックの物語。
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