タラ・ジェイン・オニールが移ろう先は・・・
先日、来日公演を終えたばかりのタラ・ジェイン・オニール。自身の名が冠された最新アルバム『Tara Jane O’Neil』を引っ提げてのジャパンツアーでしたが、その内容がすこぶる良かった。トータスからツアーメンバーとしてジョン・ハーンドンが参加し、各ライブにはそれぞれ豪華ゲストが登場する破格ぶり。
タラ・ジェーン・オニールは作品によって音像を変えてくるタイプのアーティストです。というのも、彼女は「場」の変遷と共にアイデンティティが移ろうからですね。
Tara Jane O’Neil – 『Blow』
こちらは最新作『Tara Jane O’Neil』から。本作の半分はアメリカを代表するオルタナティヴ・ロック・バンド、ウィルコのスタジオ(シカゴ)で、そして残りは彼女が現在住んでいるロサンゼルスにて制作されました。ケンタッキー州はルイヴィルで生まれた彼女は、これまでにもニューヨークやポートランドに移り住んでは様々な音楽を作ってきました。そのたびに変わる音像。
最新作である『Tara Jane O’Neil』もまた、移住の影響を色濃く反映しています。音響派然とした前作『Where Shine New Lights』に対し、本作はカリフォルニアの自然に囲まれて作ったような長閑さを持っています。今の彼女はシカゴの雪化粧よりも、西海岸の陽光がよく似合う。
アメリカの音楽メディア『Stereogum』が今年の6月に発表した「The 50 Best Albums Of 2017 So Far(上半期ベストアルバム50選)」に堂々のランクイン。
オルタナ・フォークの旗手、デヴェンドラ・バンハート
今年の12月にnever young beachと対バンすることが決定しているデヴェンドラ・バンハート。ゼロ年代初頭に頭角を現し、2005年にリリースされた4枚目のアルバム『Cripple Crow』が彼の名声を確実なものとしました。上の写真は本作のジャケットに使われたものですが、さながらビートルズの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』のようですね。アルバムの内容もそれらしいところがあって、サイケデリックな音像が耳を引きます。
実に見事なソングライティング能力ですが、彼の優れているところは曲だけでなく世界観にもあると思います。このジャケット写真よろしく彼の音楽は極めて様々な要素を持っていますが、「デヴェンドラ・バンハート」というフィルターを通すことによって一本化されてゆく音の世界。
Spotifyによるデヴェンドラ・バンハートのプレイリスト
どのアルバムにも一貫してアメリカのフォーキーな精神がありますけれども、その内容は混迷を極めています。サイケはもちろん、アメリカーナはあるし、民族音楽まで出てくるし・・・。その上スペイン語で歌われる曲までありますから、いよいよ迷宮入りです。長く彼の音楽と付き合っているリスナーは、アルバムがリリースされる度に既成概念をぐしゃぐしゃにされていることでしょう。
一風変わった「土着」の在り方ですが、この奇妙な世界観を一度知ってしまえば、そこから抜け出すことは不可能です。
暗闇から届けられた歌。半径ゼロメートルで鳴り響く青葉市子の音楽
この記事で言えば、青葉市子はリンダ・パーハクスに近いかもしれません。その圧倒的な世界観は彼女自身から醸成される。
アコースティック・ギター一本で語られる物語はどれも暗く閉ざされた印象を受けますが、その全てに神秘性と優しさを感じます。特にデビュー作『剃刀乙女』から数えて三作目(『うたびこ』)までは、内省的という言葉では生ぬるいほどパーソナルな質感を放っていました。それから最新作の『マホロボシヤ』に至るまで、彼女は他者との関係性を構築しながら、独自の音世界を築き上げます。
青葉市子 – 『ゆさぎ』 『マホロボシヤ』
祈りのようでもあるし、絶望のようでもある。あるいは、これといったテーマ性は存在しないのかもしれません。それでも僕らは彼女の歌に救いや共感を求めてしまうのです。矛盾するようですが、青葉市子にはそんな魔法にも似た力が備わっているように思います。
以下、筆者による『剃刀乙女』~『うたびこ』までのプレイリストです。それぞれに違う物語がありますから、ぜひ自分の感覚で解釈してみて下さい。
ちなみに筆者は『うたびこ』が一番好きです。何度聞いたか分からないほどに。
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