一杯300円の牛丼を空腹時にかきこむのは恍惚だし、30000円のガストロノミーでは脳みその未知の領域に電気が走る。食が持つ振れ幅は広く、その両極のあいだには、たくさんの個性的な料理やお店が存在する。
この広大な「食」と、どういう姿勢で付き合うべきか。東京におけるひとつの正解は、お気に入りの「行きつけ」をつくることだと思う。食べることはハレである前に、ケである。よく足を運ぶ街に行きつけのお店を見つけ、日常的に話したりふざけたりする仲間を増やし、日々を実りあるものへ変えてゆく。東京をしなやかに生き延びるために、そんな姿勢を意識してみたい。
Photo_Asami Nobuoka
Text_Taiyo Nagashima
行きつけのお店は、大手チェーンだっていい。匿名性とセットの安心感を僕らは知っている。けれどそればかりでは味気ない。ちょっとだけ背筋が伸びるお店もリストの中に加えておこう。空間と料理を味わいながら、それを形作る人たちの思想に触れるとき、きっと心身に滋養がもたらされる。
今年6月にオープンした「Sta.」は、日常のなかに打たれる、美しい句読点のようなお店である。円山町と松濤のはざま。クラブとラブホが連なる猥雑なエリアと、住宅やビストロが並ぶ瀟洒なエリア、そのちょうど中間に「Sta.」は位置する。初めて店のドアをあけたときは戸惑った。打ちっ放しの壁の無機質な硬さと、活けられた花の有機的な美しさ。そのコントラストを横目で拾いながら階段を上ると、二階はカウンター、三階にはテーブル席のフロアが広がる。緊張感のある美しさと、身を落ち着けたくなる雰囲気が同居しているのが、この店の独特なバランスだ。
いい空間で、ちゃんとしたものを、日常的な価格で食べてもらえるお店
「駅には、さまざまな人がそれぞれの目的を持ってフラットに集いますよね。ここもそういう場所になればいいと思っています。ひとりでご飯を食べる。お酒を飲む。友達と大事な話をする。もちろんデートでもいいし、打ち合わせだって大歓迎です。さまざまな用途に応えられるような空間とメニューを意識しているんですよ」
オーナーはお店のコンセプトについてこう説明してくれた。なるほど、「Sta.」は「station」の略か。それにしても、なんて読むんだろう。
「正式な読み方は「エスティーエー」です。でも、「スタ」って呼ぶ人もいるし、「ステーション」でもいいです。呼び方自体も自由でいいと思っているんですよ。」
肩の力の抜けたコンセプトの背景には、「気軽に立ち寄れて、ちゃんとした食事ができる店が欲しかった」というオーナー自身の生活の中から得た実感がある。
「いい空間で、ちゃんとしたものを、日常的な価格で食べてもらえるようなお店があまりなかったんですよね。カジュアルとラグジュアリーの間に位置するような場所をイメージしています。駅ってどこにも所属しないけれど、人がたくさん集まる場所。それがいいなって思って。かける音楽のジャンルも偏らないように、ポップスも、民族音楽も、テクノも、いろいろ。様々なものの中間に位置するようなイメージなんですよ。」
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