The Lagerphones(ザ・ラガフォンズ)のライブレポート&インタビュー。
音楽は自由だけれど、音楽を奏でる環境はまだまだ自由とは言えない日本。けれど、そんな状況をもろともせずに活動するバンドがいる。
彼らの名前はThe Lagerphones(ザ・ラガフォンズ)。メルボルンで活動する6人組のジャズバンドだ。これまでに3度の来日を果たし、カフェやホステルなどをバラエティ豊かな会場でライブパフォーマンスを行なってきた。4度目となる2018年の来日公演、その名も「4次会」では関東・関西で20本ものライブを敢行した。
ミーティアでは、普段は演奏をすることのない場所に音楽を届け、みるみる人々を魅了していく6人のインデペンデントな活動を取材。メルボルンのバンドがなぜ日本で20本もでライブができたのか? その裏側には今回のツアーのオーガナイザー、ヴォーンさんの存在があった。幸せに満ち溢れたライブの様子と、メンバー&ヴォーンさんのインタビューをどうぞ。
Photography_Noriko Kutsuna
Interview&Text_Yukari Yamada
音楽とお酒が共通言語。ボーダーレスなラガフォンズのライブ
この日はツアー3本目、溝の口のシェアオフィス・レンタルオフィス〈nokutica(ノクチカ)〉が会場。ライブを開催すること自体、今回が初めてなんだそう。
平日だというのに大広間にはお客さんが大集合! いよいよライブが始まる。
トランペット、トロンボーン、クラリネット、バンジョー、コントラバス、パーカッション。軽やかで陽気なメロディが会場を包んでいく。
今回は4枚目の新作アルバムを引っ提げてのツアー。来日を重ねるごとに日本語曲のレパートリーも増えている。
The Lagerphones「Sukiyaki」。坂本九の名曲を英語でカバー
彼らの日本語で歌う代表曲「Sukiyaki」や「YOPPARAI」など、実は母国語の曲も含め、テーマはお酒のことばかり(笑)。飲むことが大好きなラガフォンズは音楽とお酒を共通言語に日本のお客さんとの距離を縮めていくのだ。
ラガフォンズのメンバーが付けているのがこの日ゲスト出演したジャグバンド、The Worthless(ザ・ワースレス)のグッズの付け髭。何人か逆さまになっていたけどとにかく楽しそう。
こちらの楽器がバンド名にもなっているラガフォン。ビール瓶のフタを鳴らすと鈴のような音色が響く。これだけのビールが誰のお腹に収まったんだろう……。
満員御礼のフロアライブということもあり、バンドの目の前までお客さんが。もはや誰がメンバーかわからなくなるほど。ここには国境の垣根すらない。
とにかく自由。楽器を置いて、突如お客さんと踊り出したりも。
初めてラガフォンズを観る人も、以前観てファンになった人も。フロアにあふれる笑顔が印象的なライブだった。
ライブのほとんどは投げ銭制ということで、カゴを手に会場をまわるオーガナイザーのヴォーンさん。メンバーたちの交通費は集まったかな……?
ラガフォンズ&ヴォーンインタビュー
ライブ終了後、メンバーとヴォーンさんにインタビューをお願いした。
左からベンさん(ボーカル、トランペット)、ジョンさん(クラリネット)、オーガナイザーのヴォーンさん
――どうやってバンド名は決まったんですか?
ベン : オーストラリアの楽器名でバンド名を考えていて、それでラガフォンズになったよ。僕とジェームズとジョンで飲んでいて、ラガフォンを作ろうということになったんだ。ビールのキャップで作るから、たくさん飲まなきゃいけなくて、しょうがなくみんなで飲んだんだ(笑)。
――そうだったんですね(笑)。4回目の来日はどうですか? 日本には慣れました?
ベン : 慣れることはないと思う。毎回マジックが起こるからね。予想できないことがいつも起こるんだ。
――そもそも、なぜ日本でツアーをやりたいと思ったんですか?
ベン : オーストラリアでずっと活動しながら、いつかは海外でやりたいと考えていて、日本は近いし行ってみたかったんだ。だから最初に飛行機を予約しちゃって、そのあと日本に住んでいるヴォーンに連絡したんだ。ヴォーンは「1回くらいならライブができると思うよ」と言いながら、1年目からたくさん企画してくれて。その年から日本が大好きになったよ。
ヴォーン : ラガフォンズのメンバーはそれぞれが素晴らしいミュージシャンなんだ。ラガフォンズはこれからもっと有名になる予定だけど、でもこのバンドでアルバムを出してツアーをするということは一つの賭けだった。ベン、ルイ、マーティはsex on toast(セックス・オン・トースト)という有名なバンドをやっていたり、ジェームズはオーストラリアで一番大きいジャズの大会で優勝していたりするんだ。
でも、日本ではまだまだ知られていないバンドが2週間で20回近くライブをすることはおかしいんじゃないか?と思われたと思う。1年目はお客さんが来るかなとかいろんな心配があったけど、今はそういう不安がまったくなくなったよ。
――1年目は何回ライブをやったんですか?
ベン : 12回だね。
ヴォーン : 以前からジェームズ(トロンボーン)がやっていた他のバンドのマネージャーをしていたから、ジェームズから日本に来たいって話は聞いていたんだよね。それで、ライブ会場になりそうなところに連絡したらみんながやりたいって言ってくれた。ノクチカもライブをやるということ自体、今日が初めてだったんだよ。
――ライブの話に乗ってくれた友達はどんな人たちだったんですか?
ヴォーン : 最初のツアーはライブハウスの人が多かったかな。下北沢のスリーと440(フォーフォーティー)、八丁堀の七針、新宿のバー・サムライ、渋谷のアンダーバーとかだね。最初の年は半分くらいライブハウスでやったんだけど、あとの半分はライブを普段やらないところをブッキングしたよ。
――ライブハウスじゃないところでやってみてどうでした?
ベン : オーディエンスからの反応が直接返ってくるのが面白い。とても距離が近くて、歌ってる僕の顔の横にお客さんの顔があるときもある(笑)!
――今日もお客さんが近かったですね。
ヴォーン : 昨日はもっと近かった! 誰がバンドメンバーが、僕も分からないよ!(笑)
――境目がなかったですね(笑)。メルボルンでライブをやるとき、こういうことはありましたか?
ベン : ないからこそ日本のライブは特別だね。1、2回はメルボルンのストリートパーティーでこういうことがあったけど、ライブ中もお客さんは自由に話しているし、距離もある。「本当に聴いてるかい!?」って思うときもあるよ。それは単純に文化の違いや、ジャズという音楽のジャンルゆえかもしれないけどね。日本だったら拍手したり一緒にダンスしたり、観客の様子は全然違うよ。
――でも、日本でも珍しい光景だと思います。
ジョン : そうだね。だからマジックだと思う! 僕たちが日本で演奏することに対して興奮してる気持ちがお客さんに伝わって、それを返してくれるという良い循環が起こっているよね。
ベン : 初めて日本に来たとき、「スーダラ節」という日本の曲を演奏してみて、日本人とぎゅっと繋がれた気持ちになった。そのときの日本人の反応が印象深くて。日本の曲は1年目は1曲しかレパートリーがなかったんだけど、今は全部で6曲くらいあるんだよ。
――ライブ会場は、ライブハウスに限らず今までライブを開催したことのない場所でもブッキングすると聞きました。
ヴォーン : 知らなかったり、初めて行ったりしたところに突然企画を持ち込むのではなくて、もともと行ったことのある場所に頼むことが多いね。イベントによってやり方も全然違う。
四谷にあるロンは60年くらい歴史のある喫茶店なんだけど、5年くらい通って、ライブやりたいって言い続けたんだ。店主には「コーヒーとタバコとタマゴサンドのお店だからライブはやらないよ」って言われたけど、最終的にライブをやらせてもらえることになったんだ。そして嬉しいことに、今はそこで月一回ライブが企画されるようになったんだ。
ロンでのライブの様子。お客さんたちの笑顔が溢れている
ヴォーン : ノクチカは半年前にコーヒーメディアの取材で来たときに、場所が気に入ってライブを持ちかけたんだ。だって建築が素晴らしいでしょ? 最初はライブをやったことがないって言われたけど、今日も成功して良かった。今度やる千鳥文化も、建築がすごく面白いコミュニティスペースなんだよ。
Webサイト「GOOD COFFEE」のライターも務めるヴォーンさん。仕事のなかでできたコネクションが今回のツアーのブッキングに生かされている。ラガフォンズの他にもさまざまなアーティストのライブをオーガナイズしている
角田(翻訳) : ヴォーンは毎日たくさんの人に会っているから、そのつながりで頼める人が多いのかもね。
――日本だと近隣にお店や住宅街もあって、そもそも簡単に音楽を鳴らせる環境じゃないのに、ここでできたのはすごいことだと思います。
ヴォーン : 夜の10時から朝の5時までのライブをやろうと思ったけど、そのときは流石に警察が来て止められちゃいました(笑)。
中央右:マーティさん(コントラバス)登場。日本が気に入って今年から移住している。日本でも今後ライブ活動をするそう
――ライブやる前に挨拶させてもらったとき、みなさんすごくフレンドリーでびっくりしました。
ヴォーン : 僕もいろんな音楽を観に行くけど、たいていはバンドから冷たい印象を受けるんだ。例えばツアーやるとき、どの街でも同じセットリストでやるなんてことがよくあって、なんでどこに行っても同じライブをやるんだろうと思った。もうちょっと、面白いことができるんじゃないかなって。ラガフォンズのみんなはお酒とコーヒーと人が好きだから、ライブが終わってもすぐに帰ろうとはならなくて、お客さんと自然におしゃべりが始まって、オープンな雰囲気になるんだ。僕もいろんな活動をやってるけど、ラガフォンズがいる2週間は毎年一年で一番楽しい時期だよ。他のバンドも呼んでるけどこういう風にはならない。
角田 : 私もそう思う。ふつうミュージシャンは楽屋にいることのほうが多い。
――それはオーストラリア人だからなんでしょうか?
ヴォーン : いやー、どうなんだろう。でもふつうのアーティストはお客さんと友達にならないよね。
――やっぱり、魔法で距離が近づくのかも(笑)。最後になりますが、ライブを通してどんなことを伝えたいですか?
ベン : 自分の状況がどうであれ、一音一音に意味を持たせて、届けることかな。
ジョン : 僕たちは演奏することを楽しんで、お客さんは聴くことを楽しんで、その場にいる人がどこの出身とかは関係なく、一つになることです。
独自の活動で国境や環境のハードルを乗り越え、着実に日本のファンを増やし続けるラガフォンズ。本人たちの人柄や演奏力はもちろん、ヴォーンさんによるメンバーとライブ会場・お客さんとの絶妙な橋渡しがすべて結びついているからこそ、これだけ活動の幅を広げてこられたのだと感じた。来年の「5次会」の開催にも期待しよう!
The Lagerphones
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ヴォーン
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