東京から片道約8時間のロードトリップ。目的は、兵庫県丹波市にあるキャンプ場「丹波悠遊の森」で行われるキャンプインフェスイベント『スパイスだもの。』の取材。1日だけあらわれる「森のなかのまち」にはうまいメシと人々のざわめき、そして街の中心からは音楽が響き渡る——そんなイベントのようだ。折しも前週末に上陸した台風21号が日本各地に甚大な被害を及ぼした。そしてまさかの翌週末、つまり『スパイスだもの。』開催日付近にも台風22号が発生。フェス開催自体が危ぶまれるなか、ぼくらを乗せた車は静かに西へと走り出した。
Photography_Reiji Yamasaki
Text_Satoru Kanai
『スパイスだもの。』とは。
まずはキャンプインフェスイベント『スパイスだもの。』とはどんなイベントなのか。こちらの記事を是非。
1日だけの「森のなかのまち」は雨だった。
東京から丹波へと続く道は気持ちいいほどの秋晴れで、「この天気が明日も続けばいいのに」と、幾度となく誰ともなく口にする。
8時間ほぼノンストップで走り続け、会場の近くまでたどり着く頃には、とっぷりと日が暮れていた。途中、ロードサイドのお好み焼き屋に立ち寄り腹ごしらえ。外観からは想像できないほどの混雑ぶりで、味も絶品だった。しかし、今回のお目当ては関西名物の粉ものではない。『スパイスだもの。』のタグラインにも記されている音楽とカレーだ。
いま、関西圏ではスパイスカレーが一大ブーム。以前に東京カリ〜番長改めカレースターの水野仁輔さんに取材した際、関西のカレー文化は関東圏とはまた違った発展を遂げていると聞いたことがある。森のなかで音楽を聴きながらカレーを食らう。これ以上、何を望むというのだ。いや、イベントのコンセプトが「森のなかのまち」であるのなら、イベント参加者という住人によって街は発展していくもの。あくまで今回はスタート地点。足りないのは当たり前。あらたな街が生み出される瞬間を捉える。それこそが、この取材の意義であり、楽しみと言えよう。
Iターンの視点で知った地元・丹波の魅力
「スパイスだもの。」のコアメンバーは5人。その中心となったのが、ともに丹波出身の西脇和樹さんと吉竹惠里さん。そもそもふたりは1年前くらいまで、お互いのことを知らなかったという。
吉竹さんは「最近、丹波市にIターンで移住される方もすごく増えているんです。私たちは地元のよさが全然わからなかったんですけど、Iターンの方と関わることで逆に丹波のよさを教えてもらえて。一度は出ているからこそあらためていいなと思った部分と、移住者と関わることによって知ったプラスのよさ。それをどう表現したらいいかじゃないけど、和樹くんがもともとフェスを開催するのが夢だったので」と、スパイスだもの。がはじまった経緯を教えてくれた。
「吉竹さんが大阪で、ぼくは東京。ふたりとも地元にUターンしてみたら、風景やふとした瞬間がいいよねって話になったんです。丹波出身の僕からしたら、好きじゃなかった丹波にIターンしてまで、なんでわざわざ移住してくるんだろう。ああ、でもよくよく考えてみると、確かに魅力的な部分も結構ある。ぼくが生活の拠点を丹波に移したのも、まさにそこなんですよね」と、西脇さん。
そうして話をしてみれば、共通する部分も多かった。西脇さんが吉竹さんのひとつ上の世代で、出身も丹波市内の同じ町。それでも学生時代に絡みはなく、一度は飛び出した地元に戻りふたりは出会い、地元での音楽フェス実現に邁進することになる。
(トレモノ)
「昔から郊外型の野外フェスが好きでした。自分でバンドもやっていましたし、サラリーマン時代はフェスでビール飲むのが一番幸せやなと思っていましたから」(西脇)
「私も昔、バンドをやっていたので音楽イベントをやったら? とずっと言われてて。一度だけ、今回も出演されている丹波出身の小南泰葉さんのライブを主催したんです。ただ、集客にめちゃくちゃ苦戦して……。それでIターンの方を中心に相談したらものすごく協力してくださって、残り10日間でライブチケットが全部売れたんですよ。あの思いを、もう一度体験してわかち合いたかった。西脇さんは、最後にいろんな想いを共有できる人なんかなと思って。もし誘ってもらったらやろうかなって思ってました(笑)」(吉竹)
(左から西脇和樹さん、吉竹惠里さん)
構想開始は、なんと今年の2月末。西脇さんは「今年中にやろう」と言っていたようだが、吉竹さんは来年の開催だと思っていたらしい。そう思うのも当然だ。コンセプトも詰めないといけないし、キャスティングやそれ以外のコンテンツはどうするのか、運営体制は、などなど膨大な考え事が必要なのだから。しかしその3日後には市の補助金に応募。運よく通ったものの、最初は西脇さんも「何をしたいの?」と、周囲からかなり詰められた。そうして、「ああでもない、こうでもない」とコンセプトを練っていく。
イメージは温泉街。森のなかに街を作る。
コンセプトはどのように決まったのかと尋ねると、西脇さんは「ぼくは単純にフェスがしたかっただけだったので、コンセプトが全然なくて」と、コアメンバー各自が、いいと思うものを出し合いながら決めていった経緯を語る。
「前提として開催場所が森なので、ロケーションを生かしてなにをしましょうかと。じゃあ、森でキャンプinフェスがしたい。自然の中でたき火を見るだけでも楽しいじゃないですか。まあ、今回は雨でたき火はできなかったですけど。で、キャンプと言えばカレーでしょ。いつでも食いたいし、みんなでつくってワイワイしてる感があっていいなって」(西脇)
「でも、カレーでひとを呼ぶって、カレーは都会で食べればいいし、そもそも地方の音楽フェス自体が難しいっていう話になったんです。じゃあ、どうやって丹波に集客するかを考えてイメージしたのが、「温泉街」でした。温泉街は温泉を目当てに行くんだけど、そこに宿泊する方もおれば、温泉街をぶらりと日帰りで楽しんで帰るひともいますよね。要は音楽が温泉で、キャンプ場が宿泊施設。他のアクティビティは温泉街に来た方が非日常を味わうものっていう立ち位置。カレーは、そこの名物料理みたいな感じの意味合いです。そうして複合的に呼ばないと集客が難しいかなと思いました」(吉竹)
その流れで「せっかくだから合コンもして、出会いも求めよう」と、スパイス合コンなるコンテンツも出来上がった。当日はカップル成立こそしなかったが、めちゃくちゃ盛り上がっていた。
「合コンで出会って連絡先を交換して、『今度ごはんでも行こう』とか『今度キャンプ行こう』『フェスに行こう』ってなってくれて、いつかはお子さんを連れて来てくれたらいいですよね。これは最初から変わらないんですけど、ぼくは朝霧ジャムやライジングサン、福岡のサンセットライブみたいなフェスが好きなんです。誰が出演するのかはあんまり関係なくて、この日は朝霧ジャムの日だから空けておこうって思ってもらえるようなフェスにすることが目標で。10代の子でも楽しめるし、ファミリーでも楽しめる。参加した子どもたちが大人になった時にも楽しめる。そういうフェスができれば一番いいなと思っています」(西脇)
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