ビバラが打ち出した、2017年の「ロック観」
鹿野氏もインタビューで語っていましたが、今年のビバラは例年以上に日割りごとのカラーが違っていました。そんな中、「今の音」が最もたくさん鳴っていたのが、イベント二日目にあたる5月4日です。
(出典: VIVA LA ROCK’17公式サイトより)
当日のライブの様子を参照しながら、「今の音」について考えます。
水曜日のカンパネラ – 『ユタ』
初っ端から核心部です。みなさんは、「ロック」という言葉でどのようなサウンドを想起しますか?僕はもっぱら、オルタナ系の音を思い浮かべます。実際、フー・ファイターズやクイーン・オブ・ストーン・エイジなどが、かつてのロックの代表選手だったはず。ところが、今は「ロック」の解釈が広がって、「フーファイもロックだけど水カンもロックだよな」という言説に無理がなくなりました。『ナポレオン』や『一休さん』に乗せて、コムアイがジャンルも国籍も完全に無視した音を紡いでゆく。
激情的に、ときにからかうように歌うコムアイ。
cero – 『Orphans』
最近のceroは青天井のごとく進化してゆきます。まさしく国産のグルーヴ・マスター。「グルーヴ」という言葉がロックの界隈で使われるのも、つい最近のことのように思います。以前からロック文脈で使っていたという人も、恐らくその頻度は上がっているのでは。「シティポップ」という定義が曖昧な言葉と共に出てきた彼らですが、この言葉が使われた理由も、ロックの解釈が広がったことと根を同じくするものでしょう。彼らの音楽は、一つの言葉には収まりきらない。『Summer Soul』しかり、『Yellow Magus』しかり。この日は8人編成だったのですが、 大所帯でのバンド・パフォーマンスを「ロック」というカテゴリでやってのけたことにも意義はあったと思います。
新曲の『魚の骨 鳥の羽』は、複雑なプロダクションながらしっかり聴かせる内容です。ceroの独特なグルーヴと、強めのエフェクトが絡み合っていました。
サカナクション – 『目が明く藍色』
私見ですが、今の混沌とした「ロック」を作ったのはサカナクションだと思います。「領域を横断する」というニュアンスが言葉として頻発し始めたのは、『NF』がスタートした2015年前後な気がするのです。そもそも彼らは、デビュー以来から「縦(過去)」にも「横(異なるジャンル)」にも射程を伸ばしていました。『三日月サンセット』から『多分、風。』に至るまで、一貫してそのスタンスを崩しません。かつ、音の核の部分にはちゃんと純粋な「ロック」がある。最後に演奏された『目が明く藍色』はその最たる例です。
『SORATO』〜『ミュージック』に繋がる盤石ぶり。
Gotch & The New Times – 『Taxi Driver』
Gotchこそ、今一番曖昧なサウンド(この記事においては最大級の賛辞)を鳴らすアーティストでしょう。ASIAN KUNG-FU GENERATIONはそれこそロックですが、Gotch & The New Timesでは全く境界線のない音楽を紡いでゆきます。強いて言えば、キーワードは「横揺れ」でしょうか。徹底的にユラユラさせてくれます。そんな力の抜けたサウンドでありながら、音色の充実度が半端じゃない。『The Sun Is Not Down』はスフィアン・スティーブンスの曲だと言われても信じてしまいそうだし、『Wonderland / 不思議の国』にもカオティックなUSインディーの香りを感じます。『Taxi Driver』に至っては、途中でトラップの音使いまで入ってきますし。サカナクションとはまた別のベクトルで、音楽の垣根を取り払おうとしているように思います。
アンコールには『Baby, Don’t Cry』を。
彼らの音楽を、今年のビバラは「今の音楽」として明確に打ち出し、オーディエンスもそれを高いリテラシーを持って受け止めていました。その指標になりうるのが、才能ある若手アーティストの存在でしょう。
ビバラで輝いた若き才能
yahyelとD.A.N.は共に入場規制がかかり、Suchmosが一番大きなSTAR STAGEをパンパンに埋めていました。yahyelに至っては、Twitterでトレンド入りを果たすほど。これ、鹿野氏の想像を超えるほど、既に「今の音楽」が現象化しているのではないでしょうか。
CAVE STAGEでのyahyelのパフォーマンス。
あらゆるカルチャー圏から人が集まるビバラで、入場規制がかかったわけです。そりゃあ、確かに3日間のカラーは分かれておりました。yahyelやD.A.N.の音楽と親和性の高いリスナーも2日目が一番多かったと思います。けれども、この日集まった万人規模の人たちが、同じ文化圏に住んでいるとは流石に思えません。つまり、彼らのパフォーマンスは誰が見ても普遍的に素晴らしかった。
yahyelの次にCAVE
STAGEに登場したD.A.N.。当然のごとく入場規制がかかり、油断していた僕は最後方へ追いやられた。
彼らはいずれも海外の音楽にルーツを持つアーティストです。この点が実は一番重要で、純国産の音楽フェスティバルにおいて彼らのサウンドが許容されるというのは、日本の音楽シーンにとって明るい材料だと思うのです。「ガラパゴス」というレッテルを貼られて久しい日本の音楽が、再び外へ向かおうとしている。しかも同時多発的に。この規模では、フリッパーズ・ギターの全盛期以来ではないでしょうかね。恐らく今の20代から下の世代にとっては、初めての経験だと思います。
威風堂々とステージ上を練り歩くYONCE。
何度も繰り返していますが、今年のビバラは、そんな日本の音楽の現状をフェスとして見せようとしていました。この批評性の高さは、『MUSICA』という母体があるからこそ打ち出すことができたのでしょう。
前半で述べた埼玉の風土性と併せて、今回のビバラの最大の功績だったと思います。
Photography_©VIVA LA ROCK 2017 All Rights Reserved
Text_Yuki Kawasaki
■ミーティア的ビバラ’17ルート
■VIVA LA ROCK’17
日時: 2017年5月3日〜5月5日
開催地: さいたまスーパーアリーナ
<公式サイト>
http://vivalarock.jp/2017/index.html
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