さて、肝心なライブですが、冒頭でも述べた通りであります。アーバンな音を鳴らすアーティストが一堂に会し、ホテル内各所で伸び伸びと演奏を楽しんでおりました。ライブ会場としては特異な「ホテル」という空間で、実力派ミュージシャンたちは如何にして辣腕を振るったのか。
開拓者Nao Yoshiokaの可能性
今まではトリオ編成のライブしか観たことがなかったけれど、今回はフルバンドセット。総勢6名のメンバーに囲まれたNao Yoshiokaには、突出した存在感がありました。それこそ、ディアンジェロを引き合いに出したいぐらい。いや、彼女の音楽から透けて見えるのは90年代のネオ・ソウルだけではありません。
例えば、一曲目の『Spark』。この曲ではハイエイタス・カイヨーテやテイラー・マクファーレンなど、新世代のジャズ・ミュージシャンたちとも共鳴しています。『I Love When』に至っては、ソウルの過去と現在を繋ぐようなハイブリッド。
Nao Yoshioka – I Love When
ワンマン以外では滅多に観られないという、フルバンドセット。なるほど、コレは確かに貴重です。すごいものを観た。90年代のフォロワーでもなく、新世代のジャズフォロワーでもない微妙なズレ。Nao Yoshiokaの立ち位置は、第三者的視点を持ち合わせている日本人独特の感性なのかもしれません。その意味では、この路線で他の追随を許さない実力を持つ彼女は、まだまだ大いに余白を残しているように思います。世界規模で知られてほしい。
圧倒的シティ・ガールっぷりを見せた一十三十一
ドキドキしてしまった。可愛くて、妖艶で、音楽はディスコライク。これほど色々乗せているのに、なぜかスマート。間違いなく過去を照らし出している音なのに、本体は「今」にあります。『DOLPHIN』や『Serpent Coaster』が良い例でしょう。海外のアーティストで言えば、タキシードなどが近いかもしれません。音楽にリヴァイヴァルは付きものですが、そこには何かしらの新しさがありますね。
一十三十一 – 『Flash of Light』
これを当日はバンドセットで披露してくれたわけですが、ひたすらカッコよかった。サックスの艶やかさが僕は好きです。少し前に、巷で有名な曲は全て「シティ・ポップ」として括られてしまった記憶がありますが、一十三十一こそ正統派シティポップだと思いますね。ブラック・ミュージックから社会性を抜き取り、ひたすら享楽に徹した音像。『恋は思いのまま』には、それが全部詰まっています。
まさに「大人」のステージ。快楽と深さを併せ持つ畠山美由紀
良い意味で力の抜けたライブが展開されました。一曲目からスモーキー・ロビンソンの『Crusin’』をカバーするという余裕を見せつけます。畠山美由紀曰く、「TMCのイベント名にちなんだ」そう。他のミュージシャンの曲を演奏するときって、肩に力が入ってしまいそうじゃないですか。彼女にはそれがない。ニューヨークなんかの地下鉄の片隅に腕の良いアーティストが集まって、勝手にセッションを始めてしまうような、あのイメージに近いと思います。
畠山美由紀 – 『歌で逢いましょう』
『歌で逢いましょう』のようなオリジナル曲も披露されましたが、今回はカバー曲にこそミソがあったように思います。ボサノバのクラシック『カーニバルの朝』も難なく歌えてしまうレンジの広さ。「音楽が好きで音楽をやってます」という思いが、言葉にせずとも伝わるようなパフォーマンスでした。音楽に本質があるとすれば、それに限りなく近いものが彼女のライブにあったと思います。
ブラック・ミュージック伝道師としての韻シストBAND
「ファッションみたいに消費されてこそポップ・ミュージックである」という見方もあるでしょうし、それ自体は否定しません。僕も音楽はそれぐらい気軽に聴けるものだと思っています。けれども、「語り継ぐ」側面も音楽にはある。インターネットによって高速で更新され続ける音楽シーンに、「まぁ少し休めよ」と言いたくなる瞬間があります。韻シストBANDも、そんなスタンスなんじゃないでしょうか。
韻シストBAND – 『Big N』
『Big N』は関西ジャズを代表する存在であった、故 西山満氏に捧げた曲です。先人の功績を讃え、自分たちがそれを語り継いで行こうという思いから作られました。この日の韻シストBANDは、この曲を筆頭にブラック・ミュージックのマナーに基づいた演奏スタイルを展開していました。言葉でもジャズとヒップホップの関係を補完するなど、オーディエンスに根っこの部分から自分たちが鳴らす音を理解してもらいたいという思いが垣間見えました。その姿は伝道師さながら。なんだか、襟を正したくなる思いです。
ラグジュアリーな空間に現れた僕らのダークヒーローズ、SOIL & “PIMP” SESSIONS
SOIL&“PIMP”SESSIONSは社長と言うアジテーター=扇動者がいる世界的にも類を見ないジャズバンド。圧倒的なライブのパワーで、格式の高いパークタワーのステージを一気にライブハウスへと変えてしまいました。『閃く刃』も、『POP KORN』も、多少お行儀の良くない空間でこそ輝きます。場の空気が変わる瞬間って、良いですよね。みんな「何か起きる」っていう期待感を持ち始める。
SOIL & “PIMP” SESSIONS – 『POP KORN』
ラストを飾ったのは、TBSドラマ『ハロー張りネズミ』のテーマソング。つい30分ほど前までは指定席に座って優雅に楽しんでいた紳士淑女も立ち上がって彼らに声援を送る。まるで嵐のようなジャズバンドと、ラグジュアリーな質感を隠さない『ザ・プリンス パークタワー東京』。なんともカオスな光景でしたが、自由なジャズを堪能できました。月並みではありますが、シンプルな言葉で締めたいと思います。楽しかった!
photography_
text_Yuki Kawasaki
■TOKYO MUSIC CRUISE 2017
日時: 2017年8月12日 / 8月13日
会場: ザ・プリンス パークタワー東京
<公式サイト>
http://www.tokyomusiccruise.com/
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