ソビエト時代の宇宙飛行士が映し出された『革命前夜』での綾斗はギターを弾きながらまるで月面を歩くようなステップで、スキンヘッドのNatsukiはエイリアンにしか見えなくなってくる。さらに『新世代』では、バロックからピカソの時代までの肖像画が、グニャグニャ変化していく背景と歌詞の世界観が融合。シンセベースのうごめきともマッチして新しい体感をもたらせてくれた。
驚異的な集中力から一転して、軽く「はい、どうも。これは配信されてるんですよね? 今日は僕の四国のおばあちゃんも見てくれてるし」と綾斗。Natsukiに「なんで坊主にしたの?」と聞くも、サンプラーで冒頭の「こんにちは、Tempalayです」や「夏だね」を出すだけで答えようとしない。その様子もシュールだ。ファンに感謝を述べつつ、後半のタームへ。
『テレパシー』では、ラップパートでAAAMYYYがハンドマイクでステージ前方に出てくると、チャットも彼女の名前を呼ぶ書き込みが続出。そしてサイン波のようなシンセの音から『深海より』に移ると、インディーテイストのサイケであると同時に歌メロのポップさが際立つ曲であることに驚く。跳躍力のあるポップなメロディラインを歌いきり、歌詞がしっかり掴める事はTempalayにとって大きな武器だ。この曲でも形のないものへの憧憬や愛情を強く感じた。考えているのは人間だけじゃないな、という思いを抱かせる『カンガルーも考えている』は、そういうニュアンスを持ちつつ、イントロはまるでNew Orderみたいなベースと冷たいシンセなのが面白い。メロディと歌という軸があるから、かなりどんなサウンドでも融合できるし、メンバー全員の演奏や佇まいにまで及ぶ厳しさと、ある種の人間的な優しさがこの異種混交を成り立たせているとも言える。ほんとにいいメンバーだ。
ビッグバンのような怒涛のエンディングからノイジーなイントロに繋がり、『大東京万博』へ。東京タワーをはじめとするお馴染みの夜景がハッキングされたように歪む映像が感覚的に今、しっくりくる。東洋的なメロディラインからケチャに乗せての“ラッセーラ!”。会場もチャットも同じように声を上げている。なんなんだろう、この新たな一体感は。そして本編ラストはサイケデリックかつ日本の懐かしい光景や夏の温度や湿気も彷彿させる『そなちね』。奪われてしまった今年の夏を成仏させるような感覚に囚われていると、綾斗の歌う声に情念と叫びも加わって、エフェクトで鳥の声のように空間に飛ばして行った。人間の声や形から自由になれる唯一の方法、それが彼にとっての音楽なのかもしれない。
ライブではグッとダイナミズムを増した曲を味わい、時に振り回されているうちに本編が終了。会場のアンコールを求める拍手の音が存外大きい。早々に再登場した4人。再びNatsukiに坊主にした理由を綾斗が訊くと、「ある朝、曲ができるみたいに、“坊主にしよう”と」思ったという。ちょっと笑ってしまったが、Natsukiのシュアでデッドなドラムが自在に伸縮する上物の持ち味を強化していたのは間違いない。そして綾斗が改めてファンや映像チームに感謝を述べ、最後にモニター越しのファンにも「これからも相思相愛で、これからの人生にも幸あれ!さよなら!」と告げ、音楽に対する愛しさ、もっと言えば世界の誰かと繋がる可能性に満ちた音楽という魔法を体現するような『New York City』、『ラストダンス』を披露。『ラストダンス』の“会って話したい”を思い切り歌う表情に、今はただ言葉通りに受け止めた。たとえこの曲が違う意味で描かれたとしても。
アンコールも終えてバックステージに戻ったメンバーは映像チームと乾杯。そこでさりげなく文字でワーナーミュージックからのメジャーリリースと、ニューシングル『EDEN』が12月9日に配信リリースされることが告知された。いかにもTempalayらしいやり口である。この一見、掴み所のない、だがハマると自分の脳内から新たな物質をとろけ出させるバンドに夢中になる人が続出することを願ってやまない。
<セットリスト>
00.SE
01.脱衣麻雀
02.SONIC WAVE
03.のめりこめ、震えろ。
04.タイムマシーン
05.どうしよう
06.Festival
07.革命前夜
08.新世代
09.テレパシー
10.深海より
11.カンガルーも考えている
12.大東京万博
13.そなちね
En01. New York City
En02. ラストダンス
『EDEN』
Tempalay
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