人口の8割が超常能力という“個性”を持つ世の中で、その力を悪用するヴィランと戦うヒーローたち。そんなヒーローになることを夢見ながらも、そもそも“個性”のない緑谷出久を主人公とした、TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」第4期のエンディングテーマ「航海の唄」を、さユりが書き下ろした。彼女を知る人ならば、“ミカヅキ”を“どこか欠けている自分”とし、それでも前に進もうとする気持ちを歌った、1stアルバム『ミカヅキの航海』と繋がる曲であることは、そのタイトルだけでも想像できるが、実際にさユりは、何を思いこの曲を作ったのか。彼女の真意やいかに。
Photo_Keiichi Ito
Text_Taishi Iwami
みんなそれぞれ、他人には見えない問題を抱えてる。さユりが「僕のヒーローアカデミア」に感じた魅力とは
――さユりさんは、ご自身のなかにある属性を可視化して、2次元と3次元をクロスオーバーさせるアーティスト。いきなり私事で恐縮なのですが、実は幼少の頃、自分の部屋になぜかいつもいた男の子と遊ぶのがすごく楽しみだったんです。でも彼はもう一人の自分だったって、分別のつく年齢になってはっきりわかりました。そんな過去の感覚が今もどこかに残っていて、さユりさんの状況とはまた異なると思いつつ、一方的にさユりさんの表現に共感していて。
さユり : それは“3人のさユり”がいることに近いものがあるようにも思います。
――振り返って考えると、私が彼を生んだ要因は、周りに馴染めないことへの不安。私はアーティストではありませんが、おそらく表現することも、怒りや絶望といったネガティブな感情に発することが多いと思うんです。そこで訊きたいのが、さユりさんのアーティストとしてのエネルギーの源もまた、ネガティブな感情なのかどうか。あるいはポジティブなのか、ニュートラルなのか。
さユり : 曲を作っているときの精神状態はニュートラルなことが多いんですけど、根本には「なんでこんなことになってるの?」と思ったこととか、世界に対する疑問とか、何かしらの苦しさを形にしたい思う気持ちがあります。そこには、話し言葉だと伝えられない、言語化できないものが確実にあって、自分のなかに芽生えたそれらをなるべく正しく表したくて、曲にしたり可視化しているイメージです。
――今回のシングル「航海の歌」は、TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」第4期のエンディングテーマのために書き下ろした曲ですが、どんなモードで作曲したのですか?
さユり : そこは、今言ったネガティブとかニュートラルとはまた別軸の感情ですね。原作の漫画は前から読んでいて、そのTVアニメのエンディングテーマということで考えました。仲間や街の人たちを救うために、主人公の出久(緑谷出久)が修練してヒーローになる。そんな物語から感じたこと、主人公や登場人物の勇敢さを表現したいと思って、作り始めました。
――今作は2015年のデビューシングル「ミカヅキ」~2017年の1stアルバムアルバム『ミカヅキの航海』と繋がった曲だとうかがいました。その意識はどこで芽生えたのですか?
さユり : 最初はアニメのエンディングテーマのために作っていたのですが、1コーラスが完成した段階で、どこか欠けている自分を投影した“ミカヅキ”が“後悔”しながら“航海”していく『ミカヅキの航海』というアルバム全体の世界観やそのときの気持ちを、1曲で表していることに気が付いて。それでタイトルを「航海の唄」にしたんです。
――「ミカヅキ」や『ミカヅキの航海』を作っているときに、いつか続編が完成するような予感がなんとなくあったとか、そういうことはなかったですか?
さユり : 先の作品を思い浮かべて作ることはないのですが、今回は、「航海の唄」を作っていく中で、あ、繋がってるんだなと自分でも気づいた、という感覚でした。
――『ミカヅキの航海』はおっしゃったように、欠けているご自身が後悔しながらも航海に出る、すなわち“それでも前に進みたい”という想いが表れたアルバム。今回は視点がまた違いますよね。一人称も出てきませんし。
さユり : 今回は、僕のヒーローアカデミアを踏まえたうえで、テンポ感やコード感や主人公、登場人物の勇敢さをどう表現するかを考えました。外からの視点で作っていったことは、大きく違うところですね。
――原作は以前からお読みになっていたということですが、どういうところが好きだったんですか?
さユり : 子供の頃は、ヒーローというのは最初からヒーローになるべくして存在してるんだろうな、と思ってたんです。でもヒロアカの主人公・緑谷出久はそうじゃなくて、ヒーローになるための学校に通うところから始まる。その設定がすごく新鮮で、興味が深まっていきました。
――出久は、その世界に住む8割の人が持つ“超常能力=個性”がなく、そもそもヒーローになれる素養がないと突き付けられたにもかかわらず、それでもヒーローを目指そうとしますが、その姿に共感したというこですか?
さユり : “個性”がないと突き付けられて、それでも前に進む。そんな出久の姿に共感したのと、他の登場人物にもすごく惹かれました。“個性”は持っているけど、他人の”個性”を羨んだり、自分の“個性”の使い方に迷ったりしているところにリアリティを感じたんです。
――それはどういうことですか?
さユり : 私も、きっとみなさんもそうだと思うんですけど、自分自身の抱えている問題って、そんなにわかりやすいものでもないと思うんです。ヒーローになれる“個性”を持っていることと強さや幸せは、必ずしもイコールではないんじゃないかと。そうやって、みんなそれぞれ、他人には見えない問題を抱えてる。それに対して、「こんな”個性”の活かし方がるんだ」とか、「こうやって勝てるんだ」って、そういう気付きを与えてくれることにグッときますね。
自分自身でも気づかなかった曲の一面が見えてた
――連続放送のテーマ曲は、物語が進むとともに曲が育っていくことも大きな魅力だと思うんですけど、いかがでしょう。
さユり : それは今までテーマソングをやらせてもらったときにも感じたことです。話が進むにつれて、聴こえ方が変ってきて、作った自分ですら気付かなかった曲の一面が見えることがよくあります。だから今回も、自分の手を離れたこの曲に何が起こるのか、すごく楽しみです。
――思いもしなかった曲の一面が見えた、具体的な出来事を教えていただけますか?
さユり : 「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマで選んでいただいた「ミカヅキ」が私にとって初めてのテーマソングだったんですけど、そこで感じたことは、すごく大きかったです。最後に“次は君の番だと笑っている”っていうフレーズで放送を締めるんですけど、その歌詞を書いた私自身はそこにポジティブな気持ちしか込めてなかった。でも、怖いと感じた人も少なくなかったんです。
――シチュエーションによって表と裏のあるフレーズだと思います。
さユり : 言葉とメロディーが物語と合わさることで、真逆じゃないですけど、聴こえ方ってすごく変わる。でも、話が進むと、最初は恐怖を感じていた言葉から希望が見えてきたとおっしゃってくださる方もいて。作った私自身が何もアクションしてないところで、曲の表情が変わっていくのは、初めての体験でした。
――そういった体験を重ねることで、さユりさんの表現にどんな影響をもたらしましたか?
さユり : すごく不思議であると同時に、いろんなとらえ方があると身をもって体験したことで、私自身も言葉や音楽に対して自由になれたと思います。また、メロディーに乗せて歌った言葉には不思議な力があって。今回作った「航海の唄」も、“信じるそれだけでいい”とか“臆せず 歩き出せ”って、言葉だけ見ると力強く言い切ってるけど、それらをメロディーに乗せたことでより伝わる力を帯びたように思うんです。
――まさにそう思います。“信じるそれだけでいい”は、すごく響きました。ストレートな強さに加え、さユりさん独特の温度感のある曲だからだと思うんです。例えば、サビで転調するじゃないですか。ポップス然とした明快な強調や景色が開ける効果ではなくて、生々しさやスリルがあって。
さユり : 綺麗なポップスの理論からは外れている転調の仕方だと思います。そこは、歌っていてもっとも気持ちを乗せられるキーがそこにあったからなんだけど、”信じるそれだけでいい”というフレーズに向かってる自分もいたのかもしれないですね。
――さユりさんにとって“信じること”の大切さとは。
さユり : 実は“信じること”に力はいらないんじゃないかなって。迷っているときって、信じられない自分の弱さを責めたり強くなろうとしたりする。でも、信じる気持ちって、そうやって勝ち取ろうするものじゃなくて、自分の心の中に静かに存在し続けるものだと思ったんです。だからこの曲は、すごくストレートで熱量のある曲なんですけど、“信じる強さ”というよりは“信じる静けさ”、“赤い炎”というよりはというよりは“青い炎”みたいなものをイメージして、コードやメロディーをつけていきました。
――“信じる静けさ”や“青い炎”という言い方は、すごくしっくりきます。
さユり : 誰かが「自分と誰かや何かとの掛け合わせが個性だ」って言ってたことが残ってるんです。そして、外と繋がりたいからこそ、自己肯定や自己否定が生まれる。そこと葛藤するんだなって。でも大事なものはみんな、心の中に持ってるんだよって、思います。
――そういう人のコアな部分にアクセスしてポテンシャルを引き出せる曲だと思いました。
さユり : 音楽を聴こうとする気持ちがある人にも、部屋の中にずっといて誰の言葉も聞こえないし聞きたくないという人の耳に入ったときにも、響く音楽でもありたいんです。そういう、“世界の隅っこ”っていうか、私もどっちかというとそういうタイプで「隅っこだな私」って思ってたところに音楽があったから。活動を始めた頃に、ライブハウスというみんなの耳がステージに向いてる環境ではなくて、路上を選んだこともそういうことで。そうやって、私は曲を作って歌うことで、自分自身を新しいステージに導くこをができるし、そんな私が書いた曲を聴いた誰かも、そうなってくれたらいいなって、思います。
〈リリース情報〉
2019.11.27 CD発売
『航海の唄』
先行配信中!楽曲ダウンロードはこちら
https://itunes.apple.com/jp/artist/sayuri/id1025773252&app=itunes
《初回生産限定盤》CD +DVD
CD
M1 航海の唄
M2 オーロラソース
M3 トイ-弾き語りver.-
DVD
1st全国ツアー「ミカヅキの航海2017 〜夜明けの全国ツアー〜」
渋谷TSUTAYA 0-EASTライブダイジェスト映像
《特典》
① 3面デジパック仕様
② 酸欠少女さユりキャラカード(3種の中から1種ランダム封入)
価格:¥1727+税
BVCL-1020〜21
《期間生産限定盤》CD +DVD
CD
M1 航海の唄
M2 日向雨-弾き語りver.-
M3 航海の唄- TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」EDver.-
DVD
TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」ノンクレジット(歌詞入り)ED映像
《特典》
①「僕のヒーローアカデミア」アニメ描き下ろしジャケット デジパック仕様
② 初回限定:TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」アニメキャラカード2種封入
価格:¥1545+税
BVCL-1023〜24
《通常盤》CD
M1 航海の唄
M2 フラン-弾き語りver.-
《初回仕様限定特典》:酸欠少女さユりキャラカード(3種の中から1種ランダム封入)
価格:¥909+税
BVCL-1022
※c/wは3形態全てで違う楽曲を収録
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