渋谷WOMBは怪しく輝く。
インディーレーベル『術ノ穴』が主宰する、『ササクレフェスティバル』。このたび8回目を迎えた同フェスですが、相変わらずのカオスぶりでした。色で言えば極彩色ですね。ピンクもブラックもホワイトもブルーも、全部混ざっている。ヒップホップを中心としていながら、それだけに終始しない多様性を持っています。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのDOTAMAも『術ノ穴』に所属していますが、彼もステレオタイプなラッパーではないですよね。サラリーマンのルサンチマンを武器にラップするという。なおかつ彼は自分の良さを殺さずに、どんな色にも染まることができます。今回のササクレフェスでも、客演のため右へ左へと大車輪の活躍でした。
さらに今年は谷口崇や大島智子のライブペインティングまであり、体一つでは足りないぐらいでした。
さて、ライブレポに移る前に当日のタイムテーブルを今一度眺めてみます。
WOMBに入った瞬間、ファースト・フロアからはコールドプレイの『Something Like This』が聴こえてくるし、4階に上がればQuviokalがヒップホップとベースミュージックを繋ぐようなプレイを展開していました。初っ端からササクレフェスの縮図を見ているようです。音楽の選択肢が本当に豊富で、フェス自体にもそれを許容する懐の深さがある。そんな場の作用もあり、この日観たどのアーティストもその才能を遺憾なく発揮していました。
新メンバー(MONICO)のデビュー戦!ますますバラエティに富む禁断の多数決
まずはメインステージのトップバッター、『禁断の多数決』。
DJ、歌手、コスプレイヤーとして活躍するMONICO。マルチな彼女の加入によって、禁断の多数決は10人体制となりました。初めて彼女たちを観た(あるいは知った)という人たちの目には、彼女たちの姿はどう映ったでしょう?筆者が初めて禁断の多数決を知ったとき、「新しい」と思いました。と言うのも、アイドルというフォーマットが単なる「仮の姿」に見えたからです。もちろん、アイドルであることを軽視していると言いたいのではありません。ステージでの振る舞いや歌唱法は、間違いなくアイドル・ポップのそれです。
禁断の多数決 – 『ちゅうとはんぱはやめて feat.泉まくら』
けれども、「アイドルであること」以上に、彼女たち一人一人が独立したキャラクターとして存在しているように思います。「禁断の多数決」はつまるところ、『アベンジャーズ』なのでは。「地球を救う」とまでいかないまでも、彼女たちの音楽を求める人のために結集し、ステージに上がる。しかも、その音楽も極めて歪(最大級の賞賛を込めて)です。例えば、今回MONICOの加入に合わせて披露された新曲『Goodbye My Cinderella』。
禁断の多数決 – 『Goodbye My Cinderella』
ドラムンベースを下敷きにしたアイドルポップなんて他にありますか?フューチャー・ベースの音使いも耳を引きますから、昨今のクラブ・ミュージックを通過して作られたトラックであることは間違いありません。アングラなサウンドとアイドル。実験的な試みながら、見事にまとめ上げていますね。
今後どのように進化して行くかはまるで未知数ですが、ぜひとも彼女たちには音楽シーンをかき回し続けて欲しいです。
禁断の多数決 – 『透明感』
宅録系アーティストのホープ、ZOMBIE-CHANG
モデルの一面も持つメイリンのソロプロジェクト、『ZOMBIE-CHANG』。見ての通り、可愛い。その上「宅録」という制作スタイルを採用しているとあって、無条件で大絶賛したくなってしまいます。けれども、そういう贔屓目を抜きにして、彼女が作る音楽は可能性に満ちていました。
以前より音源は聴いていましたが、筆者はこの日が彼女のライブ初体験。サンプラーとパッドを巧みに操り、全ての音を一人でこなす彼女からは、原体験の豊かさが窺えました。
ZOMBIE-CHANG – 『I CAN’T GET TO SLEEP』
ときに彼女は「和製グライムス」と形容されることがあるのですが、その理由もよく分かりました。オーディエンスを翻弄するかのような演奏スタイルに、音楽の奥に言いたいことが透けて見えるしたたかなパンク性。確かに重なる部分は多いように思います。
けれども、ZOMBIE-CHANGがグライムスのコピーだとは思いません。しっかりアジアを鳴らし、歌詞にも僕らに馴染みのある風景が出てきます。無国籍のように見えて、実は太い芯がある。その意味では、電気グルーヴにも通ずるものがあるような気がしますね。「ライブ巧者」という意味でも、それは言えそうです。
ZOMBIE-CHANG – 『LEMONADE』
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