2010年2月26日、一人の天才トラックメイカーが36歳の若さで夭逝しました。今日はちょうど命日です。彼の名はNujabes(ヌジャベス)。交通事故により他界してから7年が経つ今も、多くのリスペクトを集めています。実は昨晩も、原宿のVENTにて彼の死を悼むトリビュートイベントが開催されていました。ちなみに追悼イベントは間欠的に開かれており、毎回名のあるアーティストが集結します。死してなお、彼の音楽は人々の心を動かすのですね。筆者と同世代(二十歳そこそこ)かそれ以上の方々からは、「何を今更」という声が聞こえてきそうですが、今一度彼が創り上げたものを振り返ってみます。「Nujabes節」とでも形容できそうなほど独特なサンプリング術、完成までに12年の歳月をかけた『Luv (Sic)』、時代劇とHIPHOPがクロスオーヴァーした『サムライチャンプルー』。あらゆる領域の境界線が曖昧化した今こそ、彼の功績は貴重な文化的参照点となりうるでしょう。
まずは、「Nujabesが打ち出した金字塔『JAZZY HIPHOP』は何が新しかったのか?」について考えてみます
破格の美しさを纏ったJAZZY HIPHOP
繰り返しますが、彼の音楽はJAZZとHIPHOPを掛け合わせた「JAZZY HIPHOP」と呼ばれます。これは、かつてA Tribe Called Quest(以下、ATCQ)らが打ち出したサウンドとは少々異なり、必ずしも「黒さ」を纏うものではありませんでした。ATCQは徹底的にブラックミュージック然としていたのに対し、Nujabesのサウンドは室内楽の趣を取り入れた、どこかアンビエントな雰囲気も感じさせます。また、多くのHIPHOPアーティストがそうであるように、彼もまたサンプリングを多用します。が、そのセレクトの方法論が独特でした。例えば、彼のセカンドアルバム『Modal Soul』に収録されている『reflection eternal』はその典型です。この曲は、ニューエイジ系ピアニストの巨勢典子の『I Miss You』をサンプリングして作られました。
『reflection eternal』 – Nujabes
『I Miss You』 – 巨勢典子
当時のHIPHOP周辺の状況を考えてみると、Nujabesが如何に異質な存在だったのかが理解できます。『Modal Soul』がリリースされたのが2006年で、この頃は「ULTIMATE MC BATTLE」が開幕した影響もあり、ラップ周辺のカルチャーがいわゆる「不良文化」として認識されていました。そんな中、Nujabesが主宰するレーベル「Hyde Out Production」の面々は、この通り流麗なサウンドを生み出したわけです。MC漢やダースレイダーが言葉の応酬を繰り広げている横で、彼らは別次元の世界を作り上げていました。時には音響派アーティストのHaruka Nakamuraをも巻き込みながら、HIPHOPシーンにおける耽美派を貫いたのです。Nakamura氏の3rdアルバム『MELODICA』に収録されている『Lamp』は、そんな世界観の最高峰と言って良いでしょう。
『Lamp feat.Nujabes』 – haruka nakamura
音楽の女神に宛てて書いた手紙
Nujabesがビートを刻み、盟友のShing02が言葉を紡いだ、全六部に渡る超大作『Luv (sic)』。2000年に出会ってからNujabesがこの世を去るまで、彼らはこの一大絵巻物に心血を注いで来ました。残念ながらNujabesの生前にリリースできたのはPart 3まででしたが、彼の死後、後半のPart4〜Grand Finaleも、Shing02らの手によって日の目を見ることができました。コンセプトは「音楽の女神に宛てて書いた手紙」。大作ゆえ、ここでは紹介しきれませんが、これら一連の作品はぜひ歌詞を読みながら聴いていただきたいですね。
今こそ『サムライチャンプルー』に光を!
「セルアウト」という言葉が認知度を高めたのは、Nujabesが活動していたゼロ年代からであったと記憶しています。HIPHOPはアングラでなければいけないし、ロックバンドはテレビに出てはいけない。今思い返すと全く生産性がありませんが、当時はこれが金科玉条のように守られていたのです。その中にあって、Nujabesはあろうことか、深夜アニメにトラックを提供します。それが『サムライチャンプルー』でした。本作は時代劇という形式を採用しながら時代考証を完全に無視し、サムライの世界とモダンなカルチャーを掛け合わせた、大変アヴァンギャルドな世界観を持っていたのです。で、全編通して物語の根底に漂っていたのがHIPHOPでした。Nujabesは主題歌を提供するだけでなく、劇伴の制作も担っていました。
『Departure (Samurai Champloo OST)』 – Nujabes/Fat Jon
今でこそ、サカナクションが『バクマン』のサントラを作り、RADWIMPSが『君の名は。』の音楽を担当する等、領域を超えた創作スタイルはある程度確立されました。Nujabesはそのパイオニアの一人と言えるでしょう。何しろ、「セルアウト」大合唱の時代にそれをやってのけたのですから。その意味で、本作は今日のポップカルチャーを考える上で非常に重要な存在なのです。『サムライチャンプルー』に関しては、監督の渡辺信一郎氏の手腕によるところも非常に大きいのですが、これはまた別の機会に。
不慮の事故による突然の死から丸7年。時代や国境を越え、彼の音楽は依然として世界中で愛されています。トリビュートイベントに参加したアーティストのラインナップは、その根拠になりうるでしょう。過去に開催されたものまで含めれば、Shin02を筆頭にFunky DL、Uyama HirotoやLee Ayurなど、錚々たる面子です。Nujabesが打ち立てた金字塔は、これからもきっと継承されてゆくでしょう。もっとも、彼自身が紡ぐサウンドが聴きたかったことは言うまでもありませんが。
■ Nujabes ディスコグラフィー
Amazon: https://www.amazon.co.jp/Nujabes/e/B00197I744/ref=dp_byline_cont_music_1
Tower Records: http://tower.jp/artist/365611/Nujabes
HMV: http://www.hmv.co.jp/artist_Nujabes_000000000215042/
iTunes: https://itunes.apple.com/jp/artist/nujabes/id679712483
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