結成8年目にして新体制となったパスピエ。“音楽第一主義”を主張しながら10年目の扉を叩く
昨年、結成当初からドラムを担当していたオリジナルメンバーのやおたくやが脱退し、5人から4人となったパスピエ 。新体制後に制作されたアルバム「OTONARIさん」「ネオンと虎」では、バンドの作曲を担当する成田ハネダが創り出すハイスペックなサウンドに磨きがかかった曲が出揃い、ポップな仮面が剥ぎ取られたロックバンドとしての新たな魅力に注目を集めている。
バンドの紅一点である大胡田なつきは、作詞以外にもアートワークやMV制作に携わり、音以外のところでアバンギャルドな持ち味を発揮しています。
個性的で独創性に富んだ2人から生まれたパスピエが繰り広げる“摩訶不思議な世界”に迫っていきたいと思います!
パスピエのルーツ。音楽の枠を越えたクロスカルチャー
パスピエが結成されたのは2009年に遡ります。
実家が音楽教室という特別な環境に生まれ、4歳からピアノを習っていた大胡田なつき(ボーカル)が専門学校の友人達と結成した「印象H」というバンドの活動中に成田ハネダ(キーボード)に出会い、この2人が中心となって成田の音楽仲間であった三澤勝洸(ギター)、三澤の同級生の露崎義邦(ベース)、そして初代ドラマーを含めた5人組バンドとして活動をスタート。やおたくやは、初代ドラマーが脱退した後の2011年に加入します。
バンド名の由来は、生粋のピアノ少年であり東京藝術大学でクラシックを学んでいた成田が好きな作曲家ドビュッシーの作品『ベルガマスク組曲』の第4曲のタイトル”パスピエ”から。この作曲家が取り入れていた型にはまらない独自の作曲技法は“印象主義音楽”と称され、そのスタンスに強く影響を受けています。
バンド音楽にあまり親しみを持っていなかった2人でしたが、大胡田がナンバーガールに憧れを持ち、成田が藝大在学時に初めて参戦した【COUNTDOWN JAPAN】を機にクラシックからポップミュージックに転身した事で、パスピエ独自のクロスカルチャーが織り混ざった楽曲スタイルが確立されました。
バンドの音楽性については後ほど掘り下げたいと思います。
パスピエの摩訶不思議な世界その①アートワークがイラスト中心
今となっては顔出しが解禁されているパスピエですが、初の全国流通盤『わたし開花したわ』を発売した当時は、大胡田なつきが描いたバンドメンバーのイメージイラストでした。メンバーの顔がメディアに解禁される2016年までは、イラストや顔の一部が隠されていたり、ぼかしが入った写真が主に使われ、その謎めいた姿から、正体不明なバンドと呼ばれることも。CDのアートワークに関しては今でもイラストが起用されています。バンドのコンセプトとして顔を出さないという事ではなく、たまたまイラストの方を最初のアー写にしただけで、気がついたらこのようなかたちに落ち着いてしまっていたらしいです。
この4枚のアルバムのイラストに限らず、パスピエの全てのアートワークには大胡田が描いた容姿の異なる可愛らしい女の子が起用されています。白バックで描かれたシンプルなものや浮世絵や漫画からヒントを得たカラフルなものまで並んだアートワークを眺めて、作品のイメージを膨らますのもパスピエを堪能するひとつの楽しみ方ではないでしょうか。ライブグッズに関しても、書き下ろしのイラストが元となったデザインのものが沢山販売されていますので、是非公式通販サイトをご覧ください!
パスピエの摩訶不思議な世界その②オリエンタルとテクノポップを融合したサウンド
一度聴いたら耳から離れない歌声とクセのある曲が多いパスピエの根源にあるものは、印象主義音楽からのアプローチだということを冒頭でお話ししましたが、具体的に説明するとこうなります。
クラシック音楽にも「流派」と呼ばれるその時代背景が色濃く反映されているジャンルのようなものが存在していました。成田ハネダが取り入れている印象派というのは、今までのクラシック音楽への反動から生まれた流派で、長調と短調を混同させたり不協和音を多く使われている捻くれた音作りが特徴的な作曲手法です。パスピエの曲を実際に聴いてみると、強く影響を受けていることがわかります。これらの要素に日本古来から伝わる童歌(わらべうた)から派生したオリエンタルな音階とテクノポップが融合したものが、パスピエのコンセプチュアルな世界観に結びついているのです。
MVが無かった為にお聞かせできないのが残念ですが、この「電波ジャック」とともに収録されている『わたし開花したわ』の顔となる曲「チャイナタウン」を是非聴いて頂きたい。ライブのセトリ定番でもあり人気が高いこの曲は、全体的に中国の香りがプンプンする一風変わった面白い構成となっています。曲が先行して楽曲が出来上がり、そこからのイメージを歌詞に落とし込む過程の中で、曲を最初に聴いた大胡田が「中国ぽいなあ」と感じ、全く意識していなかった“チャイナタウン”になっていたことには成田自身も驚いたそうです。
お互いのセンスが時にはぶつかり合いながら摩訶不思議なサウンドが生まれていく。それがパスピエが培ってきた音作りです。
パスピエの摩訶不思議な世界その③お伽話や少女漫画を読んでいるような感情豊かな歌詞
成田ハネダが先に仮歌を作り、そこから感じ取ったイメージから大胡田なつきが感じ取ったものを歌詞として作りあげていく手法を取っているパスピエ。リズム感のある歌詞にはことわざや慣用句、比喩などといった日本語ならではの表現が多く使われ、乙女心をくすぐる可憐で少し陰のある女性らしい言葉の表現には、数多くの文学作品からヒントを得ています。
お気に入りの本の話と、レアな恋バナ(?)トークが繰り広げられた、他のMEETIAライターが行ったインタビュー記事では、大胡田なつきの素顔と魅力が満載の内容となっていますので、合わせてこちらもご覧下さい!非常に興味深いお話が読めますよ。
パスピエの恋愛ソングの多くに共通するのは、アンハッピーエンド。胸を抉られるくらい刹那い物語が目立ちます。この「フィーバー」も精神的に病んでしまっている内容です。泣き喚いているような突き抜けた歌声が耳にチクチクと刺さります。
大胡田が紡ぎ出す少し不可解な歌詞の中では至ってシンプルでわかりやすい歌詞で表現されていて、パスピエの恋愛ソングで一番人気のあるおすすめの曲「最終電車」について少し触れたいと思います。初期に発売された『ONOMIMONO』というアルバムに収録された曲で、ポップセンスが光るキュンとするサウンドと、恋人を最終電車で見送る寂しさが溢れた歌詞が乙女心を擽られます。
最終電車に飛び乗る君の背中がキライよ
黄色い線の内側 境界線なら取っ払って
ああもう言ってしまいたい「今夜一緒にいたいの」
最初で最後のお願いだから ねぇ どうか叶いますように「最終電車」歌詞抜粋
バンド結成10周年を目前としながらも、5人編成から4人編成となったパスピエ。新曲が出揃った最新アルバム『ネオンと虎』ではポップな要素は残しつつもロックの表現を取り入れ、バンドの新境地開拓に向け前へ前へと歩み始めています。サウンドに限らず歌詞にも少しずつ変化が見られ、より内容がストレートに行き届きやすくなったように感じます。次々と新しい世代のバンドが顔を揃える音楽シーンの中でも、パスピエの鮮度の良さはこれから先も変わることなく良い意味で裏切り続けていってくれることでしょう。私たちが忘れてしまっているオリエンタルな風を吹かせながら。
SHARE
Written by