キンモクセイは、1998年の春に相模原の仲間同士が集まり、アジアンオールスターズとして活動をスタートした。しばらくしてバンド名をキンモクセイに改名。伊藤俊吾、佐々木良、後藤秀人、白井雄介、張替智広の現5人となり、2001年の秋にメジャー・デビューを果たす。ほどなくして2002年1月にリリースしたセカンド・シングル「二人のアカボシ」がスマッシュ・ヒット。その年の紅白歌合戦にも出場する。CDのセールスとテレビ出演がヒットの象徴だった時代。お茶の間を目指し活動する多くのアーティストやバンドのほとんどは、大手レコード会社との契約することすら夢のまた夢で終わっていくなかを、彼らは瞬く間に駆け上がる。しかし、結果的にその躍進が引き金となり、2008年に活動を休止。以降メンバーはそれぞれの道を歩むことになるが、あれから10年以上が経過した2018年、状況は大きく動き出す。10月に地元の相模原で開催されたイベントへの出演オファーを機に、本格的な再始動を決意した(ことの詳細については、当レポートとともにおこなった彼らへのインタビュー参照)
そして2019年10月には、同じく相模原の市民会館ホールにて「キンモクセイ ちゃんとしたワンマン2019」をおこなう。さらに12月25日には約14年ぶりのオリジナル・フル・アルバム『ジャパニーズポップス』をリリース。12月27日には彼らの原点的ライヴハウスである下北沢GARAGEで、レコ発ライブを開催した。
キンモクセイが10年以上の時を経て完全復活。
セットリストはすばり、その『ジャパニーズポップス』の完全再現ライヴ。1曲目の「セレモニー」に始まり、ラストの「今夜」までを順番に、ほぼ全曲解説付きで演奏した。「キンモクセイだからこそ出せるグルーヴがある」と話す伊藤の言葉通り、彼のロングトーンが冴え渡るヴォーカル、その歌メロをより輝かせるような佐々木のギター、伊藤の声とともにキンモクセイらしさを前面で感じさせてくれる、後藤のギターが描くサウンドスケープ、キンモクセイの“良質なポップス”たるを担保する正確性を軸としながらも、ときにどこのガレージ/R&Bバンドかと思うほどに熱くてパワフルなプレイが炸裂する張替のドラムと、それ単体でどこまでも躍らせてくれる白井のベースもお見事。それらの要素の化学反応は、そもそも長年の仲間である5人が紆余曲折を経て再び結束したことと、それぞれが休止している約10年以上の間も音楽活動を続けていたことにより、確実にアップデートされていることがわかる。
各曲の解説も絶妙。あくまで軽快にパーソナルな想いを打ち明けつつ、工藤静香をイメージしたという「あなた、フツウね」、チェッカーズに近づけるために伊藤がサックスを買って練習したエピソードとともに、この場でも吹いてみせた「ない!」、佐々木が「これはもう、BOØWYですね」と話し、曲中で伊藤が同バンドの「NO NEW YORK」を挟んで歌った「エイト・エイティ」など、リファレンスの風呂敷をおしげもなく広げ、日本を彩ったポップスへのリスペクトを示しつつフロアをニンマリさせる、大人の超真面目なユーモアはさすが。そして、5人全員がポップスという名のもとに、強い個性を持ったソングライターであることの強みが凝縮された、今のキンモクセイだからこそ作り上げることができたアルバムがこの『ジャパニーズポップス』だと強く感じた。
アンコールでは、往年の人気曲「二人のアカボシ」、「東京タワー」、「さらば」、「僕の行方」を演奏。「二人のアカボシ」がヒットしたことによりバンドにのしかかった重圧に、もっともさいなまれたフロントマンの伊藤が「やっぱり楽しい。なんで休止したんだろう(笑)」と話したことに、白井が「おめえだよ(笑)」と突っ込めるくらいに、時間の経過とともに、それぞれの人間性やプレイアビリティも大きく成長したのだろう。こうして再び5人が集まって1枚の作品を作り上げたことへの喜びと、白井が「ほんとうにみなさんのおかげです。これからもいいペースで続けていきたいんで、よろしくお願いします」と語ったように、そのサウンドをファンの前で奏でシェアできる感謝が、超満員のフロアに充満し続けた、あっという間の約2時間だった。
リリース情報
キンモクセイ 5th album
「ジャパニーズポップス」
¥3,000+税
BVCL-1052
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