最前線を超え、第二章へ。KANA-BOONの新たな船出
「売れた」あと、バンドはどこへ向かうのでしょう。特にKANA-BOONのように、刹那的なことを歌うアーティストはこの問題にしばしば直面しているような気がします。サーキットイベントでトリを務めるようになり、ミュージックステーションに出演し、大阪城ホールや日本武道館にも立ちました。『シルエット』の無敵感は無敵でない人が歌うから表出するのであって、『盛者必衰の理、お断り』はモテない人が歌うから大いに共感するのであります。KANA-BOONが武器にしていたのは、弱者のルサンチマンでした。
ところが、彼らは売れました。その意味では、売れてしまったと言っても良いかもしれません。
KANA-BOON – 『シルエット』
本当に無敵になってしまったし、盛者になってしまいました。かつてアジカンのコピーバンドであった若者4人が、実際にアジカンと共演する――。しかも「対バン」という極めて対等な形で。レアル・マドリードに憧れ続けていたサッカー少年が、将来C・ロナウドやモドリッチと肩を並べるようなものです。
サッカーもそうですが、実は最も大変なことは夢を叶えた先で待っているのです。持たざる者ほど大胆に出られますが、何かを手に入れてしまった人はそれを守らなければいけない。あるいは、革新のため意図的に手放さなければならない。そのような試行錯誤、苦悩や葛藤を、近年のKANA-BOONは持っているように思いました。
「アジカンは最強やからな。僕らが勝てるとこなんか、若さぐらいしかないんでね。(中略)僕らもアジカンと同じくらい長く続けられるバンドになれたらと思ってます」(谷口鮪)
かつては純粋に音楽に惹かれ、アジカンのコピーに勤しんでいた彼らだが、今はバンドマンの先達としてアジカンを尊敬しているのだと思います。先に述べた「新しい音楽が素晴らしいバンドが一番カッコイイ」という谷口の言葉には、その真意が潜んでいるのでしょう。ちなみに、KANA-BOONの待ちのBGMにはGotchの『Good New Times』(2016年リリース)がかかっていました。
で、今回のライブではKANA-BOONの新曲もいくつか披露されましたが、それら新曲にも彼らの意思は現れているように思います。
KANA-BOON – 『彷徨う日々とファンファーレ』
最新EP『アスター』に収録されている、『彷徨う日々とファンファーレ』。ラブソングを身上とする彼らですが、この曲に関しては自分たちの現在地のメタファーであるような気がしました。「ただ宛もなく彷徨う日々からはさようなら 君のもとへ走るバスに飛び乗って」。読み過ぎと言われればそれまでですが、やはり歌詞の節々には彼らの強い意志を感じるのです。
そしてアンコールではGotchが再登場し、アジカンの2枚目のシングル『君という花』(2003年リリース)を谷口と共に歌い上げるサプライズも。「高校生のときに一番カバーした曲」と語るように、KANA-BOONにとっては人生のベストワンとも言える楽曲です。
アジカンが『ソルファ』を再定義したことで前に進んだように、KANA-BOONもまた自分たちのルーツ・オブ・ルーツとなったバンドと共演することで前進したかったのかもしれません。そう考えると、『アスター』を同じタイミングで出すことは半ば宿命だったのだろうと思います。それをライブで披露した今回の対バンツアーも、KANA-BOONの新章到来を高らかに宣言する、極めて重要なものでした。
邦ロックのDNAはこうして受け継がれてゆく――。そしてその矛先は、この日のライブを観ていたオーディエンスにも向けられていると思います。
東名阪対バンツアー「Let’s go TAI-BAAN!!」東京公演
出演:KANA-BOON、ASIAN KUNG-FU GENERATION
日時:2018年5月30日
場所:Zepp Tokyo
<特設サイト>
http://kanaboon.jp/feature/5th_season2
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