【Q】「Susie Q」(を含む細野さんがこれまで演奏してきたカバーについて)
【Q】で取り上げるのは、「Susie-Q」(“S”じゃねえか!というツッコミはもちろん甘受いたします)。ロックンロール創成期に活躍したデイル・ホーキンスの1956年のヒット曲ですが、この曲のカバーを細野さんはアルバム「Vu Ja De」(2017年)に収録しています。このアルバムにはリトル・リチャード、エルヴィス・プレスリーなどもカバーした「Tutti Frutti」、ジャンプ・ブルースの名手、ルイ・ジョーダンのブギウギ・ナンバー「Ain’t Nobody Here But Us Chickens」、ナタリー・コールの歌唱で知られる「Angel On My Shoulder」なども収録。いずれも20世紀半ば、ミッドセンチュリーの楽曲です。
2000年代に入った頃から細野さんは、20世紀前半〜真ん中あたりのブギウギ、ラテン、ジャズ、ロックンロールなどをカバーすることに力を注いでいました。高田漣、伊賀航、伊藤大地などのバンドメンバーとともに、20世紀の音楽を探求し、豊かで奥深い演奏とともに(主にライブで)体現する——アルバム「Vu Ja De」(“デ・ジャ・ヴ”=“知らないはずなのに知っている気がする”の反対)を聴けば、知った気になっていた20世紀の本当の素晴らしさを“発見”することになるでしょう。
【R】レコーディング(自宅スタジオ、機材について)
最新アルバム「HOCHONO HOUSE」もそうですが、細野さんは録音、ミックス、マスタリングまですべて自分自身の手で行っています。「HOSONO HOUSE」を埼玉県・狭山市にあった自宅でレコーディングしたことからはじまり、キャリアを通して細野さんは、“どんな音楽をやるか”と同時に“どんな音で録るか”に拘ってきたのです。
常々「10年に1回くらい、大きなサウンドの変革がある」と語っている細野さんですが、2010年代の後半、それは再び訪れました。「HOCHONO HOUSE」を打ち込み中心のサウンドにしようと思い立ち、最新の音楽をチェックした細野さんは、映画、CM、ポップスを含め、世の中のサウンドの作り方が大きく変化していることに気づきます。もっとも顕著なのは、“音楽から音圧が消えたこと”。以前はキックが鳴るとスピーカーが揺れたり、ドン!という音が腹に響くことが“音圧”だったのだが、現在は脳内で音圧を感じさせるシステムが完成し、すべてがバーチャルになっている——というのが、細野さんの見解です。“なんのこっちゃ?”と思う方はぜひ、細野さんの言葉を意識しながら、最近の洋楽(エド・シーランとか)を聴いてみてください。バーチャルなサウンドの意味がわかれば、音楽を聴くことがもっとおもしろくなるはずです。
【S】サウンドトラック
映画にも造詣が深く、数々の名作に音楽を提供している細野さん。その原点とも言える作品が、1985年の劇場用アニメ映画「銀河鉄道の夜」。宮沢賢治の原作の世界を色濃く反映させながら、大人の鑑賞に堪えるエンターテインメントとして成立させた本作において、独特のエキゾチズムと郷愁を感じさせる細野さんの音楽は、大きな役割を果たしています。(2018年にはサウンドトラックに未発表音源を収録した音源集『銀河鉄道の夜・特別版』がリリースされています)
00年代以降も「メゾン・ド・ヒミコ」(2005年)、「グーグーだって猫である」(2008年)などの音楽を手がけてきた細野さん。最近では、第71回カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを獲得した「万引き家族」の音楽でも大きな注目を集めました。大げさなオーケストラなどは一切なく、アコースティックギター、ピアノ、マンドリンなどの生楽器に電子音を加えたサウンドによって、ドキュメンタリータッチの映像を静かに(控えめに)彩る音楽は、劇伴作家・細野晴臣の真骨頂と言えるでしょう。
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