the pillows結成30周年!
the pillowsが結成30周年の記念公演「the pillows 30th Anniversary Thank you, my highlight Vol.05“LOSTMAN GO TO YOKOHAMA ARENA”」を開催した(10月17日/神奈川県・横浜アリーナ)。
1989年に結成されたthe pillowsは、90年代以降のオルタナティブ・ミュージックの影響を強く受けながら、独自の音楽性を確立。リアルな感情を反映させ、詩的にしてポップな世界を描きだす歌詞、山中さわお、真鍋吉明、佐藤シンイチロウのプレイヤビリティがひとつになった独創的なアンサンブルを含め、その楽曲は高く評価されている(Mr.Children、GLAY、STRAIGHTENER、ELLEGARDEN、BUMP OF CHICKEN、UNISON SQUARE GARDEN、SHISHAMOといった数多くのバンドがthe pillowsへのリスペクトを表明していることもまた、このバンドの素晴らしさを示している)。そして、この記念すべき30周年ライブで彼らは、自分たちが信じた道を貫き、日本におけるオルタナティブ・ロックの可能性を切り開いた功績を改めて証明してみせた。
メンバー3人の生い立ち映像から始まったアニバーサリー公演
オープニング映像は、メンバー3人の生い立ちの紹介。幼少期から10代の頃の写真が映し出され、それぞれの母親が“どんな子供だったか”“音楽を始めた頃はどんな様子だったか”“30周年についてどう感じているか”などについて話した。3人の母親がthe pillowsが30年続いた理由を「ファンあってのこと」と語る場面も心に残った。
映像が終わると、“聞こえてくるのはキミの声 それ以外はいらなくなってた”という山中さわおのボーカルがアカペラで響き渡った。オープニングナンバーは、代表曲のひとつ「この世の果てまで」。赤い幕が左右に開くと、そこにはメンバーの姿が。会場を埋め尽くした観客(アリーナはスタンディング)も拳を上げ、早くも大合唱が生まれる。さらに「MY FOOT」「Blues Drive Monster」を曲の世界観とリンクしたCG映像とともに演奏。ふだんのライブではここまで映像を使うことはなく、この日のライブが特別仕様であることがはっきりと感じられた。最初のMCで山中は「集まってくれてありがとう。俺たち、30年間ロックバンドを続けてきたんだ。今夜はその集大成。俺たちの音楽を受け取ってくれよ」とコメント。会場全体から凄まじい歓声が沸き起こった。
その後も「アナザーモーニング」「スケアクロウ」「Please Mr.Lostman」「No Surrender」といった30年の活動なかで生まれた名曲を次々と披露。メンバーの3人にサポートベーシストの有江嘉典を加えたアンサンブルも素晴らしく、横浜アリーナのスケール感に相応しいステージが続く。その中心にあるのはもちろん、山中のボーカル。鋭利な攻撃性と繊細な感情表現を併せ持ったボーカルは、やはり唯一無二だ。
オルタナティブ・バンドとしての進化を実感
ライブ中盤では、the pillowsの本質や原点につながるような楽曲が演奏された。
まずは「永遠のオルタナティブ・クイーンに思いを馳せて」(山中)というMCに導かれた「Kim Deal」。タイトルの“Kim Deal”とは、90年代前半のオルタナティブ・ロックを牽引したバンドのひとつ“The Breeders”のキム・ディールのこと。山中はThe BreedersやPixiesといったアメリカのバンドに大きな影響を受け、the pillowsの音楽性を進化させてきたのだ。続く「ぼくは かけら」は山中が10代のときに書いた曲。モータウン的なビートとロックンロールを結び付けたサウンドは、The Jamあたりの音楽性を想起させる。UK/USのさまざまなバンド(パンク、ギターポップ、オルタナ、グランジなど)にインスパイアされながら、卓越したソングライティングセンスによってthe pillowsの音楽を拡大し、更新し続けるーーだからこそ彼らは、結成から30年経った現在も瑞々しいロックミュージックを体現しているのだと思う。
また、「1989」「雨上がりに見た幻」も強く心に残った。この2曲はどちらも、いまから10年前、結成20周年の年に発表された。「1989」はバンド結成当初の感情、つまり、不安と恐れ、その先にあるはずの希望を描き、「雨上がりに見た幻」からは、山中が抱える孤独、そして、それでも自らの信じた音楽を貫き、誰にも阿ることなく進んできたという矜持がまっすぐに伝わってきた。the pillowsは決して、順風満帆にキャリアを重ねてきたバンドではない。その音楽性の高さが音楽ファンに浸透するまでにかなり時間がかかっているし、不遇とも言える時期もあった。しかし、メンバー3人は自分たちの音楽にプライドを持ち、the pillowsを守り、確実にリスナーを増やし続けてきたのだ。30周年の横浜アリーナ公演の成功は、彼らの音楽の素晴らしさはもちろん、理想の姿に近づこうともがき続けた、メンバーの強靭な意志がなければ実現しなかったはずだ。
メンバー紹介を挟み(真鍋の「メンバーやもちろん、スタッフや関係者のみなさん、BUSTERS(the pillowsのファン)のみんな、30年間付き合ってくれてどうもありがとう!」という言葉、沁みました)、ライブは後半へ。感涙のバンドソング「Swanky Street」、ファンに向けられたアンセム「LITTLE BUSTERS」、そして、極上のロックンロール・ナンバー「Ready Steady Go」で本編は終了した。
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