東北への思いが発露した、富澤タクとのデュオ
畠山美由紀は宮城県の気仙沼出身。そして4番目のゲストミュージシャン、富澤タクは福島県いわき市の出身。つまり二人とも東北出身者。この日のライブでは、そんな彼女たちの強い郷土愛を聴かせてもらいました。
まずは富澤タクのソロ曲、『そのさき』から。アコースティック・ギターの音色が主役のフォークナンバー。
富澤タク – 『そのさき』
畠山美由紀とのデュエットで披露されたのは、『予定~福島と宮城に帰ったら~』という曲。震災があってから、様々な形で故郷への支援を続けてきた彼女たちですが、この曲もチャリティー・プロジェクト『予定シリーズ』の一環です。郷土の好きなものや場所の名前が淡々と並ぶ歌詞に乗る声の情感に、涙が止まりませんでした。
今はなかなか時間がなくて叶わないけれど、たまには無理をしてでも地元へ帰ろうと思った。
可憐さとグルーヴを併せ持つディーバ、土岐麻子
次に登場したのは土岐麻子。意外にも、畠山美由紀とはこの日が初共演でした。畠山美由紀とアン・サリーのスタイルが違うように、土岐麻子のジャズ観もまた異なっていて、彼女の場合はより都会的。例えば、この時歌われた『PINK』。東京で生まれ育った彼女は、「地元」や「地方」という概念を持ちません。帰れば迎えてくれるような不変の場所もない。そのため、この曲の題材となったのは「変わってゆく街」だったといいます。
デュエットで披露されたのは、ブレッド&バターの『ピンク・シャドウ』のカバー。この曲がリリースされたのは1974年。過去には山下達郎にもカバーされたけれど、誰かに歌われる度に新しい表情を見せてくれます。畠山・土岐コンビによる『ピンク・シャドウ』は、女性らしさが強く出たシティポップとなっていました。
土岐麻子 meets Schroeder-Headz – 『ピンク・シャドウ』
明らかに難易度は高いのに、するすると耳に滑り込んでくる。心地よい、洗練されたサウンドでした。
堀込泰行流ロックンロールとシティポップ
今回最後に登場したゲストミュージシャンは、元キリンジの堀込泰行。畠山美由紀とは同級生のような関係らしく、MCではまるで本当にクラスメイト同士が再会を楽しんでいるような雰囲気が漂っておりました。
まず披露されたのは『ブランニュー・ソング』。ポップスにもロックにも振り切れる器用さを持つ堀込泰行ですが、この曲では完全にロックンローラー。USっぽい土臭さと、ヴィンテージなギター・サウンドでガンガン引っ張ってゆく。
畠山美由紀とのデュエットでは、堀込泰行が作曲を担当した『若葉の頃や』を披露。「良い曲はだいたい人に取られちゃうんですよ。この曲も気に入ってたんですけどね……。まぁ相手が美由紀ちゃんだったらいいかなって」。曲を提供するにあたってのエピソードに会場はまたもや大爆笑。
畠山美由紀 – 『若葉の頃や』
ゲスト・ミュージシャン、再び
全てのデュエットを終え、畠山美由紀が衣装替えのためにステージ裏へ。その間、これまでのゲスト・ミュージシャンたちが再度ステージ上へ集結しました。そしてここからミニトーク・コーナーがスタート。
トークのテーマは「畠山美由紀ってこんな人」。
「感激屋さんですよね」と語るのは高野寛。そこへSalyuはこう付け加えます。「自分のことをなんでも打ち明けられて、それを受け入れてくれる男前」。
土岐麻子は、そんな畠山美由紀に対して新たな一面を発見した模様。「可愛らしいところもありますよね。今日のライブでもマイク間違えてたし(笑)」。ちなみに、客席からもMC用とライブ用のマイクを取り違える様子は確認できました(笑)。
装い新たに、畠山美由紀が再登場
ゲストのトークが盛り上がったところで、衣装チェンジを終えた畠山美由紀がカムバック。金色に輝く豪華なドレスを着て、少し照れ臭そうにステージへ上がります。ここから再び彼女のソロパートが始まり、新旧織り交ぜた楽曲たちが披露されました。中でも新曲の『会いに行く』のクオリティは凄まじく、聴いていて手に汗を握りました。鈴木正人が弾くうねるようなベースの音、真城めぐみの抜群のコーラス。バンド・サウンドのバランスが最も取れており、なおかつ畠山美由紀のヴォーカルが一番活きていたのはこの曲ではないかと思います。まだこの曲を聴けていない人は、大いに期待してほしいです。
そしてやはり、この日彼女がアンコールに持ってきたのは『わが美しき故郷よ』。さきほども述べましたが、畠山美由紀の出身は宮城の気仙沼。この曲は震災後にリリースされた「故郷への愛」を込めた曲です。15周年を祝う大切な日を締めくくるのにこの曲を歌ってくれたことが、日本人としてうれしかった。
畠山美由紀 – 『わが美しき故郷よ』
終始和やかな空気が包んでくれた1日だったけれど、彼女のアーティストとしての矜持を感じるエンディングでした。大切な節目をこの曲で飾るってことが、彼女にとって大事だったんだろうなあ。僕は東北出身ではないけれど、とても勇気をもらった。やっぱり音楽の力はすごい。そう強く思えました。
ラジオ的コミュニケーションで繋がった、一つの輪
音楽の密度も濃かったけれど、なにより感じたのは人と人のぬくもり。記事の冒頭でもラジオの話に触れましたが、会場の雰囲気は一貫してリラクシング。オーチャードホールは2000席を超える規模のハコなのだけれど、それとは裏腹にコンサートはアットホームな雰囲気でした。緩やかで、近い。その「緩やかさ」というのは、強い信頼とつながりに裏打ちされていて、疑心暗鬼になりがちな僕らが生きる時代において、純粋できらきらした宝物のようにも思えます。そして、その中心にいたのが畠山美由紀でした。Double FamousやPort of Notes時代も含めれば、彼女は15年どころか20年以上のキャリアがある。築き上げてきたのは音楽の素養だけではなく、人と人との絆だったのです。これだけのアーティストが同じ日に、それもたった一人のために集まったのが、何よりの証左ですよね。彼女がステージ上で音楽家として輝けるのは、オフステージのときの彼女があってこそなのでしょう。まずもって、畠山美由紀は「人」として愛されていた。2000席を埋めた15周年アニバーサリーは、音の密度も濃かったけれども、それ以上に人間味に溢れておりました。
Photography_仁礼博
Text_Yuki Kawasaki
Edit_Ado Ishino(E inc.)
■15th anniversary concert 畠山美由紀 ソロ・デビュー 15周年記念 大感謝祭♡
日程: 2017年4月30日(日)
会場:Bunkamura オーチャードホール
畠山美由紀(はたけやまみゆき)
<公式サイト>
http://hatakeyamamiyuki.com/
■コンサート情報
「15th anniversary year」フィナル・コンサート
畠山美由紀 15th anniversary × 仙台フィル~歌で逢いましょう~
日程:2017年7月29日(土)
会場:東京エレクトロンホール宮城 大ホール
■リリース情報
豪華限定商品「畠山美由紀 Special BOX 特設サイト」
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