「安かろう悪かろう」とか、「タダより高いものはない」とか、日本語には昔から「安物買い」を揶揄する言葉があります。しかしながら、やはりどんなモノにも例外はあって、まさに音楽はその典型だと思います。特にビジネス面。音楽へのお金のかけ方、昔に比べて随分変わりましたよね。それこそタダで音楽に接する機会は、ここ10年のうちに爆増しました。個人的な話になりますが、僕はCDやレコードを買いながら、Spotifyも使い倒しております。
で、そのような時代の変化に対応すべく、なんと「タダ(ドリンク代別途)」でライブを開催し続けるイベントがあるのです。それが、CINRAと音楽アプリ「Eggs」が共同で主催する『exPoP!!!!!』。驚くべきは、この企画がマンスリーイベントであること。更に驚くべきは、今回(3/30開催)で95回目を迎えること。並大抵の企画力(と体力)ではここまで続けられません。しかも出演アーティストがまた良い。過去には、Suchmos、雨のパレード、WONKなど、多くの注目すべきアーティストが名を連ねています。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのSuchmosですが、現在ほど知名度のなかった2015年の5月、このイベントに出ているのですね。要するに、本イベントを一言で説明するならば、「タダで夜明け前のアーティストを観られるトンデモ企画」ということです。
Suchmos – 『Fallin』
Eggs × CINRA presents『exPoP!!!!! volume95』
95回目を迎える今回も粒ぞろいですよ。エモーショナルなミディアムテンポが心地良い『Sentimental boys』、ネオ昭和歌謡とでも言うべき『バレーボウイズ』、疾走感溢れるファンクバンド『踊る!ディスコ室町』、艶やかなシンセが印象的な『PAELLAS』、先行シングル<Mobile>が話題の『DATS』。いやはや、耳の早い人たちが飛びつきそうなラインナップです。
ここからはそれぞれのバンドにフォーカスしたいわけですが、この手のイベントの醍醐味の一つは「予期せぬ出会い」にあるとも思いまして、ともすればあえて予備知識を入れない楽しみ方も考えられます。そのような考えをお持ちの方々は、ここで本稿を読むのを止め、ぜひともこちらの予約フォームに飛んで下さい。きっと、何かしらの素敵な出会いがあるはずです。
…よろしいですか? では!!まずはSentimental boysをご紹介します。
Sentimental boys
長野県は上田市出身の4人組ロックバンド。大規模音楽フェスティバル『りんご音楽祭』にも出演経験があり、着々と活躍の場を広げています。公式サイトのバイオグラフィーにもありますが、このバンドの特色は曲から表出する「景色と色彩」にあります。
Sentimental boys – 『metro.』
地方出身の東京在住者は、自分たちの故郷を相対的に見てしまうところがあるのです。遊び方も、恋の仕方も、風紀の乱れ方も、東京とは全然違いますから。ところが、しばらく東京で暮らしていると、その相対的な見方すらも忘れてしまうのですね。いつでも帰れると思っていた場所に、いつの間にか帰れなくなっている。いや、身体的には帰れますよ?でも何だか、見慣れた景色が色あせてしまうというか、よく知っているはずの街がどこか別の場所のように見えるのです。家族も家族で、「ところでお前、いつ帰る(東京に戻る)んだ?」とか言ってくるし。まぁ、そう言われる頃には、こちらもそれに対する違和感は無くなっていますが。
Sentimental boysは、そんな感傷を思い起こさせてくれるのです。「アイツやあの人は、元気にやっているんだろうか?」なんてことを考えてしまう。彼らが見せてくれるのは、そんな原風景。
バレーボウイズ
突然ですが、僕は『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』という映画が好きです。というか、皆好きです。「岩井俊二の作品で何が一番好きか?」というテーマで人と話すと、大抵本作の名が挙がります。元々はテレビドラマとして放映されたわけでして、その時点では1993年。思春期に片足を突っ込んだ小学生たちの一夏の物語なのですが、その時代独特の空気感はあれど、現在にも通じうる普遍性があります。ちなみに、本作は今年の夏に劇場版アニメ作品としてリリース予定です。
アニメ版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』予告
バレーボウイズの音楽にも、『打ち上げ花火〜』に代表されるノスタルジックな普遍性があるように思います。それを、シティポップ通過後の歌謡曲で表現するのですね。入江陽や本日休演が脇目も振らず昭和歌謡に振り切ったようなサウンドです。歌詞も切なくて、甘酸っぱい。
バレーボウイズ – 『夏休みが終わる』
踊る!ディスコ室町
その名が示す通り、京都の6人組ファンクバンド。が、「ファンク」という名目に目を奪われてはいけません。ドラムやベースはまさしくファンクの文法に則したものですが、ブルージーなギターのフレーズも十分に耳を引きます。すなわち、グルーヴィー。
踊る!ディスコ室町 – 『ODORUYO~NI』
しかしやはり根底にあるのはファンクのマナー。THE BAWDIESがレイ・チャールズやリトル・リチャードの魂を継承したように、踊る!ディスコ室町もジェームス・ブラウン(以下JB)の系譜の上に居るのですね。打算やギミックが一切ない純粋さが好印象。Vo.を務めるミキクワカドの一挙手一投足が、JBのそれです。
PAELLAS
僕が彼らを知ったのは、2015年の『出れんの!?サマソニ!?』です。僕個人の好みも大きく影響しているのでしょうが、それを差し引いたとしても、彼らの成長度合いは抜きん出ていると思います。それは音楽が豊作であった昨年の影響もあって、昨年末にリリースされた彼らの最新作『Pressure』は、まさに2016年を総括するような内容でした。
PAELLAS – 『Fire』
インタビューでもFrank OceanやBlood Orangeからの影響を語っているように、インディーR&B的な要素が色濃く反映されています。PAELLASは以前から海外志向が強かったのですが、ここへ来て自分たちの方法論を確立したようです。
DATS
メンバー4人のうち2人(Vo,Gtの杉本亘、Dr.の大井一彌)がyahyelにも所属。 DATSは、PAELLASとはまた違う意味で大きく舵を切りました。現在、3月上旬にリリースされた『Mobile』が話題を集めていますが、それより前から彼らを知っている人にとっては、本作はあまりに衝撃的でした。
DATS – 『Mobile』
それまでの彼らのイメージといえば、『Candy girl』や『Some boy』に代表されるようなキャッチーなギター・ロックだったのです。そんな背景もあり、僕が初めて『Mobile』を聴いたときは、「yahyel通過後のDATS」と解釈してしまいました。しかしながら、この認識は少々誤っていたようです。音楽情報メディアの「Spincoaster」のインタビューで、杉本はこう語っています。
今回yahyelがちょっと話題になった後にDATSもレーベルを移籍して、音楽性も一新して作品を出します! って流れになっているので、yahyelからインスピレーションを受けたサウンドって解釈されがちですよね。結果としてそれ自体は間違いではないんです。でも、どちらかというとyahyelの音楽自体が元々DATSからインスピレーションを受けてやっていたものなんです。
(出典: Spincoaster)
考えてみれば当然かもしれません。『Mobile』で見せたダンスミュージックへのリテラシーの高さは、「他者を通過したことで得た」というよりも「元々持っていた」と考えたほうが自然です。yahyelを通過したことで手に入れたものがあるとすれば、それは「自由であること」。これだけ大きく舵を切っても破綻しなかったのですから、今後どのように変化したとしても、彼らには期待できるでしょう。
えらく長くなってしまいましたが、最後にまとめますと、「タダより安いものはねぇ!」ってことです。タダでもちゃんと、良い音楽に出会えますよ。
Eggs × CINRA presents「exPoP!!!!! volume95」
3/30(Thu) @TSUTAYA O-nest
OPEN 18:30 / START 19:00
入場無料 (without 2Drinks)
ACT:DATS 、PAELLAS 、踊る!ディスコ室町 、バレーボウイズ 、Sentimental boys(OA)
■チケット予約:
http://expop.jp/95.php
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