大阪を拠点に活動する3人組・Cö shu Nieがメジャーからの1stアルバムであり、自身初のフル・アルバムとなる『PURE』をリリースした。めくるめく変拍子と手数や音数のダイナミクスで魅せるカオティックなサウンドあり、今のオルタナティブやポップ・シーンと共鳴するインダストリアルやR&B、ジャズの進化系あり。持ち前の音楽的な振れ幅はさらに豊かに、そのなかに一筋光る中村未来の絶対的な歌も、ますます眩い輝きを放っている。今回は、そんな現在進行で個性を拡張するリアルな姿が詰め込まれた作品の魅力に迫るべく、インタビューを決行した。
時代に流されてるというよりは、時代のうえに私たちは存在する
――フル・アルバムというサイズ感でCö shu Nieの音楽に触れ、あらためて積み重ねられてきた膨大なインプットとそれらを消化するセンスに驚きました。なかでも、昨今のインダストリアルの呼び戻しとも重なる「who are you?」や、R&Bやエレクトロの世界を一歩前に押し進めたような最新シングルの「iB」や「inertia」、「gray」といった、現行のポップシーンと共鳴するエッセンスの入った曲が、新たな引き出しとしてすごく印象的でした。
中村 : 私、モードによってやりたい音楽性もどんどん変わっていくんです。2曲目の「asphyxia」をシングルとして出しのたが2018年の6月。アルバムには、その頃の曲から最近作った曲まで、1枚のアルバムとしての世界観を考えたときに、あまりにもかけ離れてしまう曲は省きつつも、ここ2年くらいで起こった変化は、滲み出てるように思います。
――その更新されていく影響源とアウトプットの関係性の流れを、話していただけますか?
中村 : 影響を受けた音楽って、もとを辿るとルーツ・ミュージックからどんどん派生したり交わったりしたもの。それらがさらに私というフィルターを通して混ざって音になってくことの繰り返しなんで、「この曲は当時〇〇を聴いていたことがきっかけで……」みたいに、特定の何かを指してわかりやすく話すのは難しいんですけど、インプットもアウトプットも、増えるほどに自由度が増していってるような感覚です。
――では、中村さんのリスナーとしての遍歴を教えてもらえますか?
中村 : ギターを持ち出した中学生の頃はすごく閉じた人間で、外の情報を自分から入れることはなかったんですけど、曲を作り出したりバンドをやるようになったりしてからは、たくさんの音楽に自ら触れるようになっていきました。高校生の頃は、東京事変をコピーしたりもしてましたね。リード・ギターとボーカルパートという今考えたらかなり難易度の高いパートで(笑)。大きな出会いとなると、Bjorkが主演の映画『Dancer in The Dark』。日常の音が音楽になってる感じで、リズムもノリも、今までに聴いたことないようなものが流れていて、すごく影響を受けました。そこからエレクトロ二カの世界にも興味が湧きましたし、オルタナティブ・ロックも好きですし、比較的最近だと、Robert GlasperやThundercatといった生楽器のプレイヤーや、Flying Lotusのような、ジャズやファンクの空気感を引き継いだ新しい音楽も好きです。ほかにはFKA TwigsやArcaとかもよく聴きますし、いろいろですね。
――現在進行で積み重ねられている背景が感覚的にミックスされ、どんどん変化してるということですね。
BjorkもArcaも、世界観として腑に落ちる部分はありますし、Robert Glasperを思わせるアンサンブルやフレーズもアルバムには入っているので、とても興味深いです。ただ、そういった自らの背景を話すことで先入観を持たれたり、そのイメージベースで比較されたりすることは避けたい。
中村 : いえ、それはまったくないですね。もし“Robert Glasperっぽいな”とか思われたとしたら、恐れ多いですがめちゃくちゃ嬉しいです。この間もメンバーみんなで、ライブを観に行きましたし。
――では、同時代性についてはどこまで意識してますか?
中村 : 「今はこういうのが流行ってるからやってみよう」とか、直接的に意識して曲を作ることはないですけど、確実に影響は受けてます。聴いている音楽も、こうしてインタビューを受けて話していることも、ふだんの生活も、すべてがCö shu Nieの音楽を形成する要素で、そういったいろんな物事や音楽には、”今の空気感”みたいなものがあるじゃないですか。
――はい。
中村 : 時代に流されてるというよりは、抗う部分もあるけど、この時代の上に私たちは存在する。その空気に乗ってる意識はあります。閉じた世界にはもういたくないんで、今の時代とともに音楽をやっていきたいんです。
バンドであることの価値や可能性は無限
――松本さんと藤田さんは、完成した作品をあらためて聴き返して、どんなことを感じましたか?
松本 : 僕らは中村のことを監督って呼んでるんですけど、作品のテーマや曲の根本、全体図は監督が作るので、僕はどんなイメージが出てくるのか、毎回いちばん近いところで楽しみに待ってる感覚なんです。そこで、今回興味があったのは、初めてのフル・アルバムということと、今までのミニ・アルバムのように、テーマに従ってすべての曲を作ったわけではなく、既発のシングルがあったということ。そこに新曲をどう絡めていくのか。
――結果どうでしたか?
松本 : インディーズの頃に出した初期の雰囲気もしっかりあって、そこから現在までのCö shu Nieが詰まった、”これぞ1stフル・アルバム”と言える作品になったと思います。正直、監督のなかで今流行ってるダンス・ミュージックの要素が前面に出てくるんじゃないかとか、もしかしたらラップとかも入ってくるかもしれないとか、そんな想定も遥かに凌ぐレベルで暴走するんじゃないかとも思ってたんで(笑)
中村 : 曲を作ってるときは暴走したなあ。キャッチーのキャの字もない曲もあったから。入れてないだけで(笑)
藤田 : 僕が正式メンバーになったのは2018年の初めで、もともとはぜんぜん違う畑にいたんですけど、二人が僕の好きな音楽とかも積極的に好んで聴いてくれて、今回はそれらの曲と直接的に繋がる作品ではないんですけど、僕を形成するエッセンスをシェアしてくれたことはすごく嬉しかったですね。そういう姿勢で二人がいてくれるからこそ、まだまだ未開拓な部分の可能性が広がる。これからの歩みがますます楽しみになるような制作でした。
――藤田さんがいた畑というのは?
藤田 : ざっくり言うと、ジャズ・ドラマーとしていろんなところで叩いていました。他にもフュージョンや、ブラジル音楽とかラテンも好きでそういったバンドもしていました。
中村 : 「ラテンにもいろんなリズムがあるんだよ」って教えてくれて。
藤田 : ラテンって、ノリはいいんですけど曲的には難しいとか展開が面白くないとか、そういうイメージを持たれがちなんです。でも、二人は僕が好きで薦めた曲を「カッコいいね」って言ってくれて。あとは、室内楽ジャズという音楽があって、僕は先輩に教えてもらったんですけど。
中村 : Billy Childsだ。めっちゃ聴いた。
――藤田さんと松本さんから受けるインスピレーションも大きいですか?
中村 : もちろんです。デスクトップで私一人ができることも日々上達はしてますけど、信頼できるプレイヤーとやることで得られるものが、もっとも大きいですね。だから、二人が感じることはすごく敏感にヒアリングするし、曲に対しても意見を求めるし、そうやってお互いの感覚を共有して演奏したときに出るパワーこそ、バンドの価値。曲は一人で作りますけど、それは1がないと掛け算にもならないから。まずは私が意志を持って作り込んだ曲を、3人で自由にアレンジしていってこそCö shu Nieなんです。そこは、めちゃくちゃ個性的な二人なんで、聴いてもらったらわかると思います。
――“バンド・Cö shu Nie”の真髄は、今回もっとも訊きたかったことでもあります。
中村 : 直接コミュニケーションの温度感や、その場限りじゃない継続性、すなわちバンドであることの価値や可能性は無限だと思います。
――バンドの共通認識として”ポップであること”をどう考えていますか?
中村 : 人と熱を共有することを前提に曲を作ってるんです。そこでリスナーを置いてきぼりにしすぎたら、今のCö shu Nieではないと思ってます。ポップな作品も、パーソナルでアバンギャルドな作品も、どっちも素晴らしい。そのなかでのバランス感覚を大切にしていますね。なぜ自分たちが今そういう立ち位置を選んでいるのかとなると、今のモードがそうだからとしか言い様がないんですけど。
――そういうモードも含めて、リアルなアルバムだと思います。
中村 : 今までの作品から振り返って聴いてみると、恥ずかしいくらいに、私の心や音楽性の移り変わりがわかるんです。自分がそのとき表現したいことを曲げずに、お客さんと交わる点を増やそうとし続けてたんだなって思います。
――交わる点とは?
中村 : 人を音楽で温めたいっていう気持ちはあるんですけど、私は私って気持ちもある。人って複雑だからいろんな感情を持ってるじゃないですか。インディーズの頃って、お客さんと目と目を合わせて話すことも多くて、そこで思ったのは、ずっと応援してくれる人たちとの間にある、そういう複雑な部分もお互いわかったうえでの関係性がどれだけ素晴らしいかということ。作品やライブハウスを通じて交わる点を、大切にしていきたいんです。
――Cö shu Nieの音楽は、そういう割り切れない想いや、相対する感情がうごめく日々を肯定してくれる居場所であることが肝だと思うんです。
中村 : ありがとうございます。今回のタイトル『PURE』は、行き当たりばったりの綺麗なものではなく、長い時間をかけて向き合ってきたことなんです。
――純粋であることって、そんなに整頓されたものではないですよね。
中村 : おろかなことや、自分自身がわからなくなることって、純粋であるがゆえに引き出される場合もあるじゃないですか。私にとっては、その正体不明な感情を表現する術が音楽で。
――だから、混沌や複雑なロジックが難解に響くのではなく、ダイレクトに胸を打つポップになっているのではないかと。
中村 : ミュージカルみたいなもので、登場人物が一人いて、そこにオケや歌詞が寄っていくイメージなんです。そのなかで、私の癖なのかメロディは最後にできることが多いんですよね。もしくは同時進行。
――感情そのものの純度を突き詰めるから、変拍子が多いような気もします。そこで、4拍子ではなくとも歌もののポップスのように、メロディが際立っています。
中村 : メロディとサウンドが、私にとっていちばん美しい流れになってるんです。例えばメロディはあとでできることが多いって言いましたけど、空でメロディを浮かべても、私の場合、いわゆるポップスらしいポップス的な4拍子ではなくて、8分の6拍子が多いんです。でも、それだと大体がワルツになる。そこから1拍抜くことで焦燥感が出るとか、魂でゲームしている感じ。めっちゃ楽しいですよ。
藤田 : ソウルのようなシンプルなフレーズも好きだし、フュージョンのような手数で見せる感じも好きで、そこはプレイヤーとしてのエゴというより、歌ものであることを大前提に、いい塩梅を探すんですけど、デモの段階で、ドラマーでは思いつかないフレーズがいつもあって、「うわーっ」ってなる、みたいな。そういうことが楽しいんです。
――デモを聴いた段階や曲を完成させるプロセスの中で、演出したい世界観が先行して、演奏技術的に難しすぎてネガティブにはなることはないんですか?
松本 : それはないですね。限界に挑むのが好きなんで、「こんなのできるか!」ってサジを投げるといよりは、「わ~、できねえ~。楽しい!」みたいな。
――ライブで体現することもなお楽しみですね。来年1月24日から、リリースツアーが始まります。
松本 : ライブは音源よりも、さらに曲を表現できるので楽しみにしていてください。
藤田 : スタジオではしかめ面してやってたのが、ライブでは「これ、むず!」って、めちゃくちゃ笑いながらやってると思うんで。
中村 : リリースから時間も空いてるんで、セットリストもしっかり練れるし、いいライブになると思います。ぜひ遊びに来てください。
リリース情報
Cö shu Nie 1st Album
「PURE」
2019.12.11 release
【初回生産限定盤(CD+DVD)】
AICL-3788~9 / ¥3,800(税別)
【通常盤(CD)】
AICL-3790 / ¥3,000(税別)
Cö shu Nie オフィシャルサイト
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