エンターテイメントの国で腕を磨く男、BIGYUKI
音楽を取り巻く状況が変わっても、ニューヨークがエンターテイメントの聖地であることは事実であります。いや、ニューヨークに限らずアメリカは格が違う。ルイジアナのちょっとしたジャズバーに入れば、超絶アーティストたちがしのぎを削るシーンに出くわすでしょう。息をするようにセッションが行われる様子を見ると、この国では音楽がいかに日常レベルで存在しているのかが分かります。ニューヨークはそのトップオブトップが集う場所です。
かの地で孤高に輝く日本人の姿がありました。それがキーボード奏者のBIGYUKI。日本でも近年はネオソウルやインディーR&Bが隆盛を極めており、90年代から活躍するアーティスト(ディアンジェロやエリカ・バドゥ)が再評価されている傾向があります。中にはダイレクトに影響を受けている日本人アーティストもいるでしょう。しかしBIGYUKIは“影響を受ける”という次元を超え、実際に共演しているのでした。
BIGYUKI Boiler Room New York Live Set
たとえばこの動画でドラムを叩く男性は、チャールズ・ヘインズ。彼はカニエ・ウエストやエド・シーランなどのポップスターとツアーを回っています。ギタリストはランディー・ランソン。彼もまたネオソウルシンガーBilalのバンドの一員として活躍しており、揺ぎ無き一線級なのであります。
さらにBIGYUKIのディスコグラフィーには、名だたるビッグネームが並んでいます。楽曲提供ではA Tribe Called Quest、ベン・ウィリアムス(グラミー賞受賞ベーシスト)。サイドアーティストとして演奏に参加した曲に至っては、もはや枚挙に暇がありません。タリブ・クウェリのバンドにはアルバム数作にわたって参加し、USでプラチナアルバムとして認定されたJ・コールのアルバム『4 Your Eyez Only』にもクレジットされています。ド級の経歴。名門バークリー音楽大学在籍時から猛者たちに囲まれて活動してきた彼ですが、その後はワールドスターたちと共演する未来が待っていました。ちなみに大学時代の同級生には、クリスチャン・スコット(エスペランサ・スポルディングやトム・ヨークと共演するトランペッター)やケンドリック・スコット(名門ブルーノート・レーベル所属のドラマー)らがいます。もう、我々からすると会っただけで卒倒するクラスのアーティストですね。
A Tribe Called Quest – 『The Space Program』
↑の曲でキーボードを弾いているのはBIGYUKIとQ-Tipです。
こうして振り返ると、やはり彼はジャズとヒップホップが連結したネオソウルのアーティストのように思われます。が!更に掘り下げてゆくとその範疇に止まっていないことが分かります。誤解を恐れず言えば、ここまでが前置きなのではと思えてしまうほど彼のレンジは広く、豊富なアイデアを持っているのでした。
BIGYUKI – Changes/Soft Places
凄すぎてワロてまう。Bilalが客演で参加する「Soft Places」は、BIGYUKIの最新アルバム『Reaching for Chiron』にも収録されていますが、このLive Ver.では全く様相が違います。モチーフは決して複雑ではないのですが、そこに乗ってくるリズムとグルーヴが手練れのそれ。バンドのメンバー全員がエレクトロニクスを使うってどういうことなの…。流石はワールドクラス。逆説的に言えば、このレベルにならないとA Tribe Called QuestやJ・コールまでたどり着かないということですね。果てしない…。
聖地ニューヨークで戦うとはどういうことなのか、彼のライブパフォーマンスを見ると少しばかり分かるような気がします。
日常に素晴らしい音楽を。OPRCTが展望する音楽の未来
そしてこの記事ではもうひとつだけ、今回のBIGYUKI来日に関してお伝えしたいことがあります。それは会場であるOPRCTについて。1月19日、BIGYUKIとAnna Wiseの共演によって同施設はオープンするわけですが、ここがクリエイターたちの新たな拠点としてものすごく可能性を秘めているのです。ビルを一棟丸々使用したイベントスペース。各フロアにはOPRCTの文字をそれぞれ配置し、「O」「P」「R」「C」「T」の5つの階層に分かれています。こういう場所が欲しかった。
以下、OPRCTの公式サイトより引用。
「OPRCT」はオランダ語で「心から」「正真正銘の」などを意味する“oprecht”からの造語で、本物志向のクリエイターたちを軸に企業や消費者を繋ぐハブである「クリエイターズスタジオ」となることを目指しています。音楽、写真、絵画、動画、パフォーマンスなど様々な形態の作品を手がけるクリエイターの創造性を発揮できるよう、豊富なシチュエーションを誇る撮影スタジオ、イベントスペース、ライブスペースなどを1つのビル内に完備。さらに玄関口となる1階にはコミュニティスペースを設け、多ジャンルのクリエイター同士や企業、近隣住民などが日常的に繋がれる空間を目指します。
今はあらゆるコンテンツがインターネットを介して繋がれるようになりましたが、それをリアルな空間で実現できる場所が日本には圧倒的に少ない印象があります。OPRCTはその問題に立ち向かう第一歩になるかもしれません。ひとつの建物に人やモノが集合し、インプットもアウトプットもできる。しかもキャパシティは一番大きなフロアでも200人と、程よい。
OPRCT誕生秘話はこちらから!
「代々木上原から世界につながるビル「OPRCT」のつくりかた vol.1」
クリエイティブな国としてよく名が挙がるアイスランドを例に考えます。かの国では、必然的に人が一か所に集まると言います。冬でなくとも、夜に外出すると寒すぎて最悪の場合死に至るのが理由であると。屋内に居るより他ないのですね。そうすると嫌でもコミュニケーションを取らなければいけないので、会話を積み重ねてゆくうちに物作りに繋がってゆく。そうやって、アイスランドのクリエイションは形成されてゆくそうです。つまり創作が日常から自然発生していた。上の引用のうち、もっとも重要な部分は“多ジャンルのクリエイター同士や企業、近隣住民などが日常的に繋がれる空間”なのではないでしょうか。(違ったらすいません)
2019年の現在に行きついた先が、「日常的なコミュニケーション」。未来的な何かを追い求めると、期せずしてアナログな場所で答えに出会うことがありますが、「OPRCT」もその類かもしれませんね。
何にせよ、オープニングイベントを飾るのがBIGYUKI。幸先はすこぶる良い。
最後にBIGYUKIのブルックリンのご自宅で行われたスペシャルインタビューをご覧ください!
■ BIGYUKI LIVE IN JAPAN 2019 Feat. Anna Wise
DATE: 2019.01.19 sat.
TIME: 16:30 (open) / 17:30 (start)
PLACE: OPRCT (渋谷区上原1-29-10 OPRCT)
CHARGE: ¥5,000 (adv) / ¥5,500 (door) + 1 drink
CONTACT: info@sweetsoulrecords.com ☎︎03-6416-8690
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