Bibio(ビビオ)ことスティーヴン・ウィルキンソンは、イギリスはウエスト・ミッドランドの中枢都市、ウルヴァーハンプトン出身のアーティストである。規模としてはそれほど大きくないものの、芸術と文化の歴史がある街だ。BibioはWarp Recordsに所属するアーティストなのだけれど、そもそもこのレーベルをご存知だろうか?まずはこのレーベルの簡単な説明から記事を進めたい。
奇才が集まる、けれども多様性も担保されたWarp Records。
Warp Recordsは、現在ロンドンを拠点とするレーベルである。テクノやクラブ・ミュージックを追っている人にとってはお馴染みの存在だ。知っている人は、このレーベルの名前を聞いてまず誰を思い浮かべるだろう?僕はここに所属するアーティストが大好きで、それぞれの個性を愛しているのだけれども、「Warpを代表するような音」という点では彼らが浮かぶ。
Autechre – 『Gantz Graf』
Autechreと書いて「オウテカ」と読む。荒々しく実験的なサウンドが印象的だ。僕は彼らを挙げたけれど、人によってはスクエアプッシャーを思い浮かべるかもしれないし、バトルズの名前を出す人もいるだろう。エイフェックス・ツインに至っては、彼一人で複数のキャラクターを持っているので、彼に対するイメージがそれぞれ異なるはずだ。個性派ぞろいのレーベルだけれど、「先鋭的な電子音楽」というカラーははっきりしている。そんなレーベルに身を置きながら、Bibioが提示する音楽はこんな感じ。昨年リリースされたBibioのフルアルバム『A Mineral Love』より。
Bibio – 『Town & Country』
実に聴きやすい。先ほどのオウテカとはずいぶん印象が違う。昼下がりのラジオ番組でかかっても違和感はなさそうだ。この曲だけ聴くと、BibioはWarpの中では異端児であるような気がしてくる。ところが、彼もまたエイフェックス・ツインと同様に、作品ごとに音像を変えられるアーティストなのであった。そもそも彼はデビュー当時からWarpに所属していたわけではない。ここからはBibioのディスコグラフィーに触れながら、彼がキャリアの中で確立したプロダクションを明らかにしたい。
Mush Records時代のBibioが手にした「音の風景」。
BibioがWarp Recordsの前に籍を置いていたのが、アメリカのMush Recordsというレーベルだ。ここから彼は3枚のフルアルバムをリリースする。ファースト・アルバムの『Fi』、セカンドの『Hand Cranked』、サードの『Vignetting the Compost』は、いずれもこのレーベルから発表された。
このときの彼のアプローチは、フィールド・レコーディングを多用し、アンビエントとフォークの側面を強く押し出したものである。例えば、この曲。
また、彼がブレイクする際には、ボーズ・オブ・カナダのマーカス・イオンの激賞があったこともここで伝えておきたい。かつてのBibioはアンビエント文脈の中におり、今でもそこで得た知見は彼の音楽に活かされている。
Warp Recordsに移籍してから。
サード・アルバムの『Vignetting the Compost』がリリースされたのが2009年。そしてそこからわずか数ヶ月後、BibioはWarpへ移籍し、今もなお傑作と評される『Ambivalence Avenue』を発表する。
この一枚で、彼は自身の才能を爆発的に開花させた。ギターの音色から表出するのが必ずしもフォークのマナーだけではないし、何より変化があったのは音の作りそのものである。彼はこれまでのアルバムで、あえて音像をぼかすようなアプローチを採っていたが、本作では極めてクリアなサウンドを鳴らしている。ヴォーカルで比較するとその変化は一目瞭然だ。以下、『Vignetting the Compost』までのBibio。
Bibio – 『Mr. & Mrs. Compost』
そしてこちらが、『Ambivalence Avenue』以降のBibio。最初に挙げた『Town & Country』に近いのは、やはりこちらだろう。この段階で、彼は「声」を手に入れた。
Bibio – haikuesque (when she laughs)
このアルバム以降、Bibioはアンビエントとテクノ、フォークとファンク、インディー・ロックの間を自由に横断することになる。
最新EP『Beyond Serious』のリリース(国内版12インチは100枚限定)。
そして先日、最新EPの『Beyond Serious』がリリースされた。国内版12インチはなんと100枚限定。肝心な内容は以下の通りだ。
僕が最初にサンプラーを買ったのは1998年なんだ。とてもローファイなやつで、機能やサンプリングの可能な時間もかなり限定されていた。そのサンプラーを使って初期に作ったのは、僕が大好きだった90年代半ばから後半にかけてのフレンチ・ハウスにインスパイアされた、荒削りなハウス・トラックだったんだ。実際のところ、BIBIOとして今知られているような様々なスタイルの音楽を作る以前は、ハウス・ミュージックを作ってたんだよ。
(中略)
僕のハウス好きだった一面を知ってる親友は、ハウス・トラックだけでEPか何かをリリースすべきだって言ってくれてたし、それは常に僕がやりたかったことだった。 – Bibio
(出典: プレスリリースより)
Bibio – 『Beyond My Eyes』
今度はハウスである。しかもそれが新境地開拓ではなく、原点回帰だと言うのだから恐れ入る。この人の中には、一体どれほどの音が蓄積されているのだろう。6枚目のアルバム『Mind Bokeh』に収録されている『Saint Christopher』でもハウス的なアプローチは確認できたのだが、今回のEPは全編に渡ってハウス一色だ。TAICOCLUB’17ではライブセット(!)での出演が決定しているが、Bibioはこれをどう表現してくるだろうか。彼に会えるまで、今から約2週間もある。ここからが長いんだよな。ちなみに彼は過去にもTAICOCLUBにDJとして出演しているが、ライブセットでのパフォーマンスは日本初である。
■ Intro to Bibio (by Bibio)
■TAICOCLUB’17
日程:2017年 5/27(土) 〜 5/28(日)
場所:長野県 木曽郡木祖村 こだまの森
<公式サイト>
http://taicoclub.com/17/
■Bibio 最新EP 『Beyond Serious』
01. This Ain’t ‘bout The Feelings
02. Beyond My Eyes
03. Turn It All Down
04. Fix This Thang
iTunes Store: http://apple.co/2oI8FYm
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