秋って地味に忙しくないですか? 休みらしい休みはないし、そのくせイベントは多いし、さらには年末に向けて諸々の準備を進めねばなりません。「食欲の秋」とか、「運動の秋」とか、この時期の世相は何やらアクティブですけれども、憂鬱になる瞬間も多いのではと思います。
そんなときは映画でも観て小休止。今回セレクトしたおすすめの6本は、様々な表現で僕らを前向きにさせてくれます。ひねくれたテイストのヒューマン系だったり、新たな視点をくれるドキュメンタリーだったり、ちょっとパンチが強いミニシアターものだったり。
まだ冬休みまでは日がありますが、今日ぐらいはお休みしても大丈夫。
1. 『ムーンライズ・キングダム』の持たざる者たち
『グランド・ブダペスト・ホテル(2014年製作)』のウェス・アンダーソン監督による『ムーンライズ・キングダム』。本作は2012年の映画ですが、様々な賞を総なめにした『グランド・ブダペスト・ホテル』に勝るとも劣らない傑作です。アカデミー賞(脚本部門)を筆頭にノミネートこそ多くの映画祭でされていましたが、実際に受賞に至ったのは極わずか。当時は「過小評価だ!」なんていう声がよく聞かれました。
映画『ムーンライズ・キングダム』メイキング&インタビュー映像
以下、ハピネットピクチャーズ公式サイトよりあらすじ引用
1965年、ニューイングランド沖にある小さな島で、12歳のサムはボーイスカウトのキャンプから脱走する。1年前、島の教会でサムは同い歳のスージーと出会い、恋に落ちた。それから1年に渡る手紙のやりとりを通して密かに駆け落ちの計画を練っていたのだ。落ち合った2人は、手つかずの自然が残る入り江を目指す。一方、2人がいなくなった事に気づいた大人たちは大慌て!ボーイスカウトのウォード隊長(エドワード・ノートン)、シャープ警部(ブルース・ウィリス)、そしてスージーの両親(ビル・マーレイ&フランシス・マクドーマンド)は、2人を追いかけるが・・・。
子供も大人も、おしなべて「何かが欠けている」登場人物たち。端的に言うと、本作は「持たざる者の物語」です。孤独だったり、偏屈だったり、ヒステリックだったり・・・。ウェス・アンダーソンは過去にも「持たざる者」を題材に映画(『ダージリン急行』など)を撮ってきましたが、その眼差しは極めて温かい。本作『ムーンライズ・キングダム』はその集大成と言ってよいでしょう。
日常に何となく疎外感を感じている人、必見です。絵本のようにキャッチーな映画ですけれども、その余韻はまさに12歳の夏休みのごとし。きっとこの映画には仲間がいます。
2. マドンナ的堕落論、『ワンダーラスト』
マドンナが映画監督として初メガホンを取った『ワンダーラスト(英題”Filth and Wisdom”)』。彼女自身は隠したいのか、自分の口からは本作について語りません。ネットで検索しても出てくる情報はわずかです。評論家筋からの評価が低く、興行収入も鳴かず飛ばずでしたから、本人は黒歴史としてそっとしておいてほしいのかもしれません。
けれども、僕はこの「マドンナ的堕落論」とでも言うべき作品が好きです。
映画『ワンダーラスト』予告編
舞台はロンドン。物語の主軸となるのは、音楽でのし上がることを目指すウクライナ移民のAK(ユージン・ハッツ)、バレリーナになることを夢見るホリー(ホリー・ウェストン)、アフリカの貧しい子供たちを救うために薬剤師として奮闘するジュリエット(ヴィッキー・マクルア)の3人です。本作はマドンナの自伝的な内容でして、ブレイクする前の彼女自身がこの3人に投影されています。
しかしながら、これは表の顔。AKは食い扶持のためにSM調教師を副業とし、ホリーも同じく日銭を稼ぐためにストリップ劇場で働き、ジュリエットには薬局内の物をこっそりくすねてしまう悪癖があります。つまり、それぞれ”Filth”(泥)にまみれた一面があるわけです。登場人物たちの二面性を、マドンナは長年培ってきた抜群のセンスで描きました。
特にユージン・ハッツの起用は見事。ひたすらフォトジェニック。徹頭徹尾カッコいいです。長くエンターテイナーのトップに君臨しているだけあって、マドンナは「見せ方」を知っています。いくら本作が酷評されていてもこの点に限っては絶対に揺るぎません。作品の良し悪しについての判断はお任せしますから、ぜひご覧になってください。
ほんのり自分の限界が見えつつある人には絶大な効果をもたらすでしょう。
3. 泣きながらサントラを買うまでが『幸せへのキセキ』です。
確かにオーセンティックな家族モノではありますが、同時にミニシアター系の質感もはらむ『幸せへのキセキ』。ライトな邦題ゆえに逃したお客さんも多そうです。まぁ原題の「動物園を買った!」は直球過ぎますけれども。公開当初(2011年)に見逃したかたは、この機会にぜひ。
以下、20世紀FOXよりあらすじを引用
半年前に最愛の妻を亡くしたベンジャミン。新聞コラムニストの仕事は頭打ち、反抗期の息子とは心が離れ離れ、娘も悲しみを抱え……。人生の崖っぷちに立たされていた彼は、妻との想い出が詰まった町を離れ、新しい土地で生活を始めようと決意する。そんな彼が購入したのは、郊外の丘の上に立つ理想の家。ところが、その物件はなんと閉鎖中の≪動物園≫付きだった。周囲の大反対を押し切り、引っ越しと同時に知識も経験もない園長となった彼は、風変わりな飼育員たち、再オープンを待ち望む地元の人々、そして家族みんなのサポートを得て動物園再建という一世一代の冒険に乗り出していくのだった。
「幸せへのキセキ」予告編
ちなみに、本作で監督を務めたキャメロン・クロウは元々音楽畑の人。米ローリングストーンズ誌で音楽ライターとして働いた経歴(この頃の経験をもとに作られた映画が『あの頃ペニー・レインと』)があります。そのため音楽への愛情・知識は半端ではなく、本作『幸せへのキセキ』でもそれが遺憾なく発揮されています。クロウが劇伴音楽に起用したのはアイスランドのバンド『シガー・ロス』のヨンシー。彼によるサウンドは、映画で描かれる自然の壮大さ、人の内面に迫るセンチメンタリズムの両方を鮮やかに彩ります。
「王道」と言ってしまうと安直ですが、背中を押してくれる作品としては、本作が今回の記事の中で突出しているかもしれません。
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