ストップモーション一大絵巻『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は「日本愛がすごい」で終わらせてはいけない
外国人に対してしばしば向けられる「日本語うまいねー!」という言葉。全く悪意のない、むしろ心からその語学力を称賛する場合がほとんどですが、筆者は昔からこの言葉に違和感がありました。やや上から物を言っているような気がして。考えすぎだと言われればそれまでなのですが、ともすればコチラよりも日本に関する深い知識を持っているかもしれない相手に対して、リスペクトに欠けた態度だなと思っておりました。
確かにステレオタイプ満載の「トンデモ日本」を描いた映画や本も数多くありますけれども、最近ではルーツに正確な日本文化があるアーティストや作品も存在します。11月18日より公開のストップモーション映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』もその一つ。
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』予告編
字幕・吹き替え共にキャストは大作級ですが、日本での上映規模はそれほど大きくありません。筆者は新宿バルト9で観ましたけれども、本作を上映している映画館は都内でも8館しかない。様々な示唆に富んだ映画ですから、ぜひ多くの人の目に触れてほしいです。目指せロングラン。
さて、まずはあらすじを。以下、映画公式サイトより引用。
三味線の音色で折り紙に命を与え、意のままに操るという、不思議な力を持つ少年・クボ。幼い頃、闇の魔力を持つ祖父にねらわれ、クボを助けようとした父親は命を落とした。その時片目を奪われたクボは、最果ての地まで逃れ母と暮らしていたが、更なる闇の刺客によって母さえも失くしてしまう。父母の仇を討つ旅に出たクボは、道中出会った面倒見の良いサルと、ノリは軽いが弓の名手のクワガタという仲間を得る。
仲間との出会い方が桃太郎的で、延いては日本のRPG(ドラゴンクエストやファイナルファンタジーなど)を想起させます。そのような意図が前提としてあったのかは定かではありませんが、そこかしこに「日本」があったように思うのです。中世の日本に限らない、新旧の日本。DNAレベルでルーツにないと、ここまで正確な日本文化を描くことはできないでしょう。本作で監督を務めたトラヴィス・ナイトは「日本マニア」として語られているようですが、その域は超えているように思います。
僕らの外側にある「ニッポン」
日本の音楽で言えばDYGL(デイグロー)がそうであるように、アウトプットが国の際を超えてゆく存在が今では珍しくありません。DYGLの場合は日本にいながら完璧にUKの音を鳴らすわけですけれども、彼らの台頭があり得るならば、その「逆」だって可能なわけです。記憶に新しいのがポーター・ロビンソン&マデオンの『Shelter』。こちらのMV(ストーリー原案・原作:ポーター・ロビンソン)は日本アニメの文法によって作られています。
Porter Robinson & Madeon – 『Shelter』
依然として「トンデモ日本」は存在しますけども、日本に関する深い知識を持つ層がメインストリームにも現れ始めました。その国と深く接していないと理解できないハイコンテクストなカルチャーを普遍化することは、これまではディズニー(ex.『ベイマックス』)の独壇場でしたが、今やアメリカのクリエイターの必須条件になりつつあります。そこには膨大な研究量と、どの文化圏の人にも伝えようとする情熱がある。
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』にもそれはあって、特に音楽と「わび・さび」への理解は凄まじいものがあります。執念すら感じるクオリティ。エンディング・テーマにビートルズの『While My Guitar Gently Weeps』のカバーが披露されるわけですが、これが単なるノスタルジーではありませんでした。
Kubo and the Two Strings – ‘Covering a Classic’
シンガーにレジーナ・スペクターを迎え、三味線やオリエンタルな旋律でアレンジされた同曲。まるで「外側の日本」とでも言うべきサウンドスケープ。僕らの遺伝子に刻まれた調べが、海の向こうで鳴らされています。懐かしさと同時に感じる革新性。「日本愛がすごい」どころか、むしろ日本の知識人と同程度かそれ以上のリテラシーを有していなければ、このカバーはできないでしょう。
それから、本作における「わび・さび」の感性について。ざっくり言うと、「不足の美学」や「不可避の受容」といった概念が「わび・さび」の感性です。今までの欧米産アニメであれば、どんなに生活が苦しかろうが(あるいは年齢を重ねていよう)がそこには刹那よりも充足があり、恒久的なものが重要視されてきました。けれども、本作は違います。主人公のクボが使う道具はほぼ全て一点もので、母親の髪はところどころ白くなっている。しかもそれが明らかに観客が視認できるように設計されています。つまり、「不足の美学」と「不可避の受容(ここでは老化)」を意図して描いているのです。その点においては先述の『ベイマックス』よりも先を行っているという見方もできるでしょう。
KUBO AND THE TWO STRINGS – Official Trailer
かつ、本作の文法はかなりアメリカン。「瞬きするなら今のうち」や「そなたを探していた」のセリフ回しはハリウッド映画の教科書的と言えるぐらいオーソドックスです。これは本作がカートゥーンゆえの仕方でしょう。恐らく、アメリカ生まれアメリカ育ちの子供がこの映画を観ても難なく咀嚼できたはずです。繰り返しになりますが、そんな映画を気鋭のプロデューサーがメジャー級の役者を使って作れるのが、現在のアメリカ映画界なのです。若輩者が何を言うかと思われそうですが、すごい時代になりました。
そういえば字幕版のキャストに触れていませんでしたね。
クボ: アート・パーキンソン
サル: シャーリーズ・セロン
クワガタ: マシュー・マコノヒー
月の帝: ラルフ・ファインズ
闇の姉妹: ルーニー・マーラ
村人: ジョージ・タケイ
主要キャスト6人のうち、4人がアカデミー賞ノミネート経験者(シャーリーズ・セロンとマシュー・マコノヒーはオスカー像受賞済み)。
■『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』詳細
公開日時: 2017年11月18日
上映映画館: 新宿バルト9ほか
<公式サイト>
http://gaga.ne.jp/kubo/
SHARE
Written by