美麗な高音ファルセットを武器にできた理由は?
――そうして、ビッケブランカというピアノボーカル・アーティストが誕生したんですね。さらにビッケさんの個性を際立たせているのが、美しい高音ファルセットを多用した個性的なボーカルスタイル。それはどう鍛えていったんですか?
ビッケ:じつは僕は、地声がかなり低いので、自分の音域だけで曲を作っても、いいメロディーには限界があるということを、ピアノで曲を作り出して気づいたんです。そして22歳~23歳くらいに、メジャーデビュー目指していた僕を拾ってくれた音楽事務所のプロデューサーが、MIKAを教えてくれたんです。ファルセットをアーティストの武器として出していく、その心意気はすごいと思って、自分もやってみたら最初からけっこう高いところまで出た。地声が低いぶん、じつは裏声喉だったんですよ(笑)。そこから毎日、マライヤ・キャリーとか女性曲をファルセットで歌い込んで、鍛えていきました。
――そこで今のビッケブランカの音楽性が完成したんですね。
ビッケ:そうですね。また、インディーズ時代に2枚ミニアルバムを出し、ソロでのライブ活動を通じて、自分のやりたいことの幅もものすごく増えたんです。音域が広がると同時に視野が広がり、可能性が広がりました。
――1stミニアルバム『Slave of Love』のタイトルナンバー「Slave of Love」のMVなどを観ても、シンガーソングライターの枠に囚われないエンタテインメント性を、ものすごく感じますね。
ビッケ:僕って、人を応援するとか、社会を風刺するとか、成り上がろうぜ!とか、そういうことが絶対言えない楽しい人生を過ごしてきちゃったんですね(苦笑)。だから以前は、自分の中に「絶対に伝えたいメッセージ性」がないと思い込んでいた。でも、ちょうどファルセットを手に入れた頃、自分が曲を作る理由、歌う理由にとことん向き合わなければならなくなって。そこで、昔から自分の心をいちばん大きく動かしたのは、恋愛だったと分かった。自分の恋愛への妄想を寓話的に歌詞にし、好きな音楽性を自由に詰め込んで、僕自身も楽しみたいし、みんなにも楽しく観てほしいと思ってますね。
「Slave of Love」の歌詞にはリアルな僕が入り込んでいる
――メジャーデビュー作を作り上げたことで、インディーズ時代とはいろいろ変化もあったと思いますが、『Slave of Love』収録楽曲で、ご本人がいちばん変化を感じるのはどの曲ですか?
ビッケ:「Slave of Love」ですね。インディーズ2枚目のアルバム『GOOD LUCK』に「SPEECH」と「TARA」という、失恋のとてつもない後悔や反省を歌った曲があるんですが、「Slave of Love」は同じ主人公のその後の歌。すごく辛くて、もう二度と恋愛なんかしないと決めたのに、「この恋がさいご」と言いながら、抗いながら恋愛の奴隷になっていく。前はただの妄想を歌詞にしてたけど、この曲なんかはけっこう僕のリアルも入り込んでいて……そういう内容の変化は、最近とくにある。だから、「Slave of Love」は「SPEECH」と「TARA」も一緒に聴いてほしいですね。
――その歌詞が、テクニカルで壮大なポップロックで表現されているのもまた、超個性的です。今、ポップフィールドでこういう音作りは、とても新鮮だし圧倒されますね。
ビッケ:最初はスティービー・ワンダーのようなメロウなブラックミュージックを作るつもりだったんですけど、ブラックミュージックって意外性のあるテンションコードが入っていたり、かなりテクニカル。それに影響されつつ、自分が面白いと思うメロディーやコーラスワークを重ねていったらこうなって。スティービーのつもりだったのに、出来上がったらクィーンだった!みたいな(笑)。
――他の楽曲もそうですが、メロディーの構成やサウンドが職人的な作り込みとこだわりに満ちているのも、ビッケさん独自の世界観ですね。
ビッケ:そう、こだわりはありますね。でも、あえて「Your Days」は一発録りでハダカのビッケブランカを表現してたり、『Slave of Love』はどれかに偏ることなく、今の僕の音楽を全部詰め込んだんです。ここで「ビッケブランカはこれですよ!」と、ガンと提示できたので、次はひとつひとつを研ぎ澄ます方向で、よりビッケブランカらしさを深めていきたいですね。
ビッケブランカの音楽人生最大の「MEET」とは?
――最後に……この「MEETIA」は「MEET = 出会う」「Media = メディア」を融合した言葉から生まれました。ビッケさんにとって、いちばん大切な「MEET」は、何でしたか?
ビッケ:それはやっぱり、僕にMIKAを教えてくれて、僕が「歌う理由」を探すことを手助けしてくださった福光衛さんですね。福光さんは、ウルフルズやSuperflyを育てた方。僕は人間としての苦悩とか、挫折とか、そういうことを知らずに育ってきたので、自分の音楽も、純粋にメロディーの良さやサウンドとしてのカッコ良さでしか勝負できないと思い込んでいた。だから、日本語で歌詞を書いても、意味ありげだけど根本がない、説得力のないものしか書けていなかったんです。でも福光さんは「それでも、おまえの中に“歌う理由”は絶対にあるはずだ、それを探しなさい」と言って、自分の奥底と向き合わせてくれました。それは自分にとっても、初めての産みの苦しみだったんですけど、それがなかったら、今もチャラチャラした曲しか書けていなかったと思う。結局、福光さんの事務所は辞めることになったんですが、今でも本当に感謝してます。
「Slave of Love」 / 2016-10-26release AVCD-93490 ¥1,944(税込)
話題の楽曲“メタボリック「enNatural」 ” のCM用に書き下ろされた楽曲「Natural Woman」やリード曲「Slave of Love」などを含む全7曲入り!
01 ココラムウ
02 Natural Woman
03 Slave of Love
04 Echo
05 Your Days ※s**tkingz舞台「Wonderful Clunkerー素晴らしきポンコツー」三浦大知 歌唱楽曲
06 Golden
07 Natural Woman(English)
※メタボリック「enNatural」CMソング
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