華麗なファルセットと圧倒的なメロディーセンスで異彩を放つシンガーソングライター、ビッケブランカ。一度聴いたら忘れられない「神の声」を持つ彼は、2016年にメジャーデビューすると、今年もSKY-HI『OLIVE』収録の『Over the Moon』で共作するなど、上々の滑り出しを見せている。
本記事では、2017年1月20日に東京・渋谷WWWで行われた全国ワンマンツアーの様子をレポートする。
本ツアーは、メジャーデビューアルバム『Salve of Love』の発売を記念して行われたもの。
カルチャーの発信地・渋谷に、センス抜群のポップチューンが鳴り響いた夜の様子をお届けします!
Text_Sotaro Yamada
Photo_Kenta Hoshino、IT.TI
ビッケブランカ『Slave of Love Tour 2017』@東京・渋谷WWW
この日の東京の気温は2℃。前日との温度差約8℃の寒い日だったが、WWWの中は超満員で冷房が必要なほど。会場は熱気にみち、今年ビッケブランカがブレイクする予感ビンビンであった。
開演時間をほんの少し過ぎた頃。ブロードウェイを思わせるネオン煌めく舞台に、ビッケブランカ、バンドメンバーを従えて、囚人服&ワークキャップといういつものスタイルで登場! 1曲目『ココラムウ』でコアラ拳法炸裂、自ら「自己紹介ソング」と評する曲でスタートを切ると、オーディエンスはいきなりオールハンズアップ状態となった。
最初の波を迎えたのが3曲目の『追うBOY』。クラシカルなピアノで始まり、その音がダンサブルに変わると美しいファルセットが被さる、ビッケブランカらしいキラキラポップチューンの代表曲。しかしこの曲、歌詞の内容はかなりやさぐれている。女の子を口説くために高い酒を奢ったのに冷たくあしらわれて、その子に対し「金返せF*** YOU」とか言っちゃう曲なのである。
(『追うBOY』MV。1:00~1:10あたり、「金返せF*** YOU」。男子のみんな、飲み屋でコレ歌おう!)
そんなやさぐれ歌詞でもこれほどポップに仕上げられると気持ち良い。
ステージ上で爽やかな笑顔を浮かべながらノリノリに身体を動かし、伸びやかなファルセットで美しい「F*** YOU」を響かせたビッケブランカであった。
また、この曲はライブ演出上、無音状態になる箇所がある。その3秒か5秒かの無音状態ーーもう少し長く感じられたがーーのあと、ビッケブランカが「……ビッチ」と言うくだりがあったのだが、この時、タメの長さのせいなのか(じらすのがうまい)、その声のせいなのか(ファルセットと地声のギャップがすごい)、あるいは爽やかな笑顔のせいなのか(育ちの良さを感じさせる上品な笑顔)、オーディエンスの女の子たちが歓喜の悲鳴をあげるという一幕があった。
なんだかよくわからないが、「ビッチ」と呟いて女の子たちを興奮させるこの男、ビッケブランカ、タダモノではない。
タダモノではないビッケブランカは続く『Step in control』でハッピーなモータウンビートを、『Bad Boy Love』では転調と照明を呼応させたりして、何かとオシャレな演奏を続ける。周りを見回すと、オーディエンスにもなんとなくオシャレな人が多い。しかも彼ら・彼女らのオシャレは、あくまで肩肘張らない好感の持てるタイプのオシャレ。客層は老若男女さまざまで子ども(幼児)までいるが、みなノリ方も上品で、会場全体がナチュラル&オーガニックだった。
ってまあ、実際にはどこにでもいる普通の人々で、会場全体がナチュラル&オーガニックなものに見えたのは単に筆者がビッケブランカの音楽の魔法にかかってしまったせいなのかもしれないけど。
今日って、お笑いライブの日でしたっけ?
その後、コーラスが良く効いた『Golden』で会場を幸福な縦ノリに導くと、MCタイムへ。
このMCが面白い。
「愛知から東京に来て10年経ちました……。いろんな試行錯誤の10年でした……」
としんみりモードに入り、アルバム『Slave of Love』の制作秘話へ……と思いきや、隣人との間に起きた爆笑話へ突入。
お笑いコンビ「バイきんぐ」を彷彿とさせる鉄板ネタに、WWWは爆笑に包まれてキングオブコント状態であった。
このMCから会場入りした人がいたら、きっと、間違えてお笑いライブに来てしまったのでは?と錯覚に陥り、MC終わりに「なんて日だ!」と呟くに違いない。
こんな音楽ライブは本当に珍しい。
そんなキングオブコントからの、強いファルセットで入るしっとりした『秋の香り』。
(FM802で10月度ヘビーローテーションに選出された『秋の香り』MV。この曲でビッケブランカを知った人も多いのでは?)
この落差、この緩急。
いやー、この男、タダモノではない……っていうか「エロい」。
人のじらし方、感情のコントロールの仕方を完全に理解している人のやり方である。
そのままピアノで弾き語りの『Your Days』に突入。マルーン5を連想させる美しい曲で、全編英語で歌われているにもかかわらず、聴き手の胸にぐさぐさと刺さる。歌い手自身の感情がうまくメロディに乗っていて、「この人はさっき失恋したばっかりなのか?」と勘ぐってしまうほどに、何かがビッケブランカに憑依していた。この演奏を聴いてすすり泣く人(たぶん女の子)もいたくらいだ。
爆笑のあとにこれほどギャップのある曲を持ってきてオーディエンス(たぶん女の子)を泣かせる男、ビッケブランカ……。
エロい。実にエロい。
その後、『Echo』という壮大な曲を披露すると、メンバー紹介へ。大学の後輩であるという大澤DD拓海(Ba.)をイジりまくって漫談状態に。
イジるビッケ、イジられるDD、二人の絶妙なやり取りにオーディエンスは大ウケ。ウケすぎて謎のタイミングで拍手が起こったりもし、MC中に笑いが耐えることはなかった。どうやらビッケブランカがMCをやるとキングオブコントになってしまうようだ。
ビッケのファルセットはムテキに素敵!
二回目のキングオブコントで会場がこれ以上ないほど温まると、満を持して『Natural Woman』を披露。スムージー『en Natural』のCMでこの曲を耳にしたことがある人も多いだろう。
(高垣麗子が出演している、自然派スムージー・en NaturalのテレビCM)
この曲も歌詞的には葛藤を表しているのに、楽曲のポップさと都会的なグルーヴ、美しすぎるファルセット、そして何よりビッケ本人はじめバンドメンバーのイキイキした演奏に、楽しさ溢れるステージとなった。
さらに『アシカダンス』とノレる曲を続け、この日のハイライトである『Slave of Love』と大人気のナンバー『ファビュラス』では会場全体がシンガロング。オーディエンスを幸福な縦ノリへ導いた後、「本当に今日はありがとう! 幸せでしたー! どーも!」と、ステージを後にするのだった。
(ミュージカル調に展開していく『Slave of Love』MV。美しすぎる愛の看守は、モデルの井元まほさんです)
アンコールではまず、ビッケブランカが一人で出て来て、ファルセットのまま喋り出して笑いを取る。
つかみ直しはパーフェクト。この男、もしや前職は本当に芸人だったのでは?
(※初出時はこう書いたが、実際には、酸素ボンベを吸ってヘリウムガスのように声が変わるというボケだったらしい。前職芸人説、濃厚か?教えてくれた方、ありがとうございます!)
みたびキングオブコント状態になるかと思いきや、落ち着いた口調で「アンコールは余興だから、あんまり練習しないんですよ。バッチリ準備してっていうのは、本質的に違うと思う」と持論を展開。
「最近、ビッケブランカの音楽を聴いて『救われました』と言ってくれる人が増えてきて。みなさんにそう言ってもらえるのはすごく嬉しいし、感謝しています。だけど音楽は、本来は、人を救うものではないと思う。僕は『みなさんを救いたい』と思ってやっているわけではないし、そんな力もない。できるとしたら、背中をほんのちょっと押すだけ。もし、ビッケブランカの音楽を聴いて『救われた』と思うのなら、それは全部、あなたたちの力であって、ビッケブランカの曲はそのきっかけでしかない。だから、『救われた』と思えたなら、そう思えた自分を褒めてほしい。その力は、あなた自身の力です。僕はこれからも、背中をちょっとだけ押せる曲を、永遠に作っていきたい!」
と語り、最後の曲『Wake up Sweet Heart』へと繋ぐのであった。
アンコールのための練習はしない、と言いつつ、完璧なバンドサウンドで締めたビッケブランカ。
ステージ上での最後の言葉は「ありがとうございました! 幸せになってください!」であった。
さて、ビッケブランカの代表曲であり、アルバムタイトルであり、今回のツアータイトルでもある『Slave of Love』。
日本語に訳すと「愛の奴隷」。
この曲は、「過去に恋で傷つき、もう恋愛はしたくない!と思っている男が、それでも新しい恋の魅力に抗えず、最終的には恋の楽しさや喜び飛びついてしまう」さまを描いている。
うん、あるある、恋ってそういうものだよね、と納得してしまうけど、そんなふうに人々が奴隷になるほど夢中になってしまうものは、なにも恋だけじゃない。
音楽だってきっとそうだ。
もし、あなたが何かの機会でビッケブランカのステージを見てしまったら、「ビッケブランカ? 誰〜? そんなんno no no、no thanks. hmmm」とか思いながらも、最終的には彼の音楽の魅力に飛びついてしまうだろう。
そうしてあなたも、気づいた時にはきっと、『Slave of Love』ならぬ Slave of Vickeblanka ーー ビッケブランカの(幸福な)奴隷 ーーになるだろう。
この日は、筆者にとってそんな一日でした。
……なんて日だ!!
渋谷WWW。グッときた….ありがとうございました!これはNONOタイムかな!春を楽しみにしていてください!! pic.twitter.com/Utry3eb6LQ
— ビッケブランカ (@VickeBlanka) 2017年1月20日
1/20 ビッケブランカ『Slave og Love Tour 2017』 セットリスト
1. ココラムウ
2. Alright
3. 追うBOY
4. Step in control
5. Bad Boy Love
6. SPEECH
7. Golden
8. 秋の香り
9. Your Days
10. Echo
11. Natural Woman
12. タイトル未定
13. アシカダンス
14. Slave of Love
15. ファビュラス
Encore
16. Wake Up Sweet Heart
ビッケブランカオフィシャルサイト
SHARE
Written by