2.5次元パラレルシンガーソングライター酸欠少女さユりが、3/1にシングル『平行線』をリリースした。RADWIMPSの野田洋次郎が楽曲を提供・プロデュースした前作『フラレガイガール』が大きな話題となり、アーティストとして急成長しているさユり。今作の『平行線』は、アニメ&ドラマ『クズの本懐』のエンディングテーマに起用されており、本記事公開の時点ですでに100万回再生を超えている。
ミーティアではさユりにインタビューを行い、新曲『平行線』に込められた多層的な思いなど様々な話を聞き、さユりの内面に迫った。
ちなみに、「酸欠少女」とは、「人と違う感性・価値観に、優越感と同じくらいのコンプレックスを抱く“酸欠世代”の象徴」のこと。生きることにもどかしさや苦しさを抱える「酸欠状態」にある人に、ぜひ読んでほしい。
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Sotaro Yamada、Yui Usui
(インタビュー直後のさユりによるミーティア独占コメント!)
酸欠少女さユり『平行線』を語る
――新曲『平行線』は、フジテレビ“ノイタミナ”アニメ『クズの本懐』とドラマ『クズの本懐』のダブルエンディングテーマ曲です。この曲はどのようにして作られたんでしょう?
さユり:タイアップのお話をいただいてから作り始めました。でも、タイトルワードでもある「平行線」っていう大きなテーマは、前から自分の中にあったものなんです。もともと原作の漫画『クズの本懐』は読んでいて、そのワードとハマるものが自分の中にすごくあったので、そこから広げていきました。原作を読みながら書いてましたね。
――もともと原作の漫画が好きだったんですね。原作についてはどういった感想を持ってますか?
さユり:最初読んだ時は、自分の痛いところを突かれる感覚で、えぐられるなって思いました。曲を書き始める時も、この原作に描かれる「弱さ」が自分と重なったんですね。「傷つくのが怖いから言えない」とか「変わるのを恐れて行動できない」とか。だからまず、そういう「弱さ」を肯定するところから歌詞を書き始めたんです。
――サビの歌詞「太陽系を抜け出して 平行線で交わろう」がすごく印象的です。さユりさんの1stシングル『ミカヅキ』もそうだったように、今回も宇宙がモチーフになってます。これはなぜですか?
さユり:単純に好きだからだと思うんですけど、たぶん、すごい身近にあるのに手が届かないところや、未知っていうところに惹かれるんだと思います。未知だからこそ、そこに可能性や余白があるから、希望を託せる。ここじゃない場所だからこそ可能性が広がっていて、そういうものに魅力を感じます。あと、宇宙は見上げるものなので、憧れの象徴っていう意味もありますね。
――さユりさんは「ここじゃないどこか」を考える時に、外国やまったく別の世界を想定するのではなくて、宇宙を想定するんですね。
さユり:そうですね。でもどうしてかな。外国は見えないからかもしれません。
――ああ、なるほど。空は見えてますもんね。
さユり:見えているけどわかんないことが多いから想像が広がって、だから曲も書きやすいのかなあ。空が好きなんですかね。もともと雨が好きなんです。デビューしてからずっとポンチョを着てるんですけど。
――MVでは赤いポンチョを着たさユりさんと、白いポンチョを着たさユりさんが出て来ます。
(酸欠少女さユり『平行線』MV。)
さユり:それは交わりたいけど交われないことを表してます。
――万華鏡や、割れた鏡もモチーフになってますよね。
さユり:万華鏡ってすごい不思議じゃないですか? いびつだったり綺麗だったり、その傾きですごく変わりますよね。切り取った一瞬の風景が広がっていろんな形になるっていうのが、人間模様と重なるものがあるなって思って。
鏡は、そこに自分がいるんだけど交われないことの象徴ですね。見えてるから交われそうなんだけど、でも交われないという壁、境界線。
――見えているけど届かないものにこだわりがあるんですね? そういう意味では、宇宙と鏡には共通する点がありますね。
さユり:たしかにそうですね。あんまり意識したことはないけど、そうなのかもしれないですね。
『フラレガイガール』を歌えたからこそ、その先の『平行線』を描くことに迷いがなかった
――2ndシングル『それは小さな光のような』の作曲が梶浦由紀さん、4thシングル『フラレガイガール』の作曲がRADWIMPSの野田洋次郎さんでした。楽曲提供を受けるという経験を経て『平行線』を作詞作曲されたわけですが、何か変化はありましたか?
(酸欠少女さユり『フラレガイガール』MV。作詞作曲プロデュースはRADWIMPSの野田洋次郎による)
さユり:全体的なことで言うと、自分の声をもっと活かしていこうという気持ちになりました。それまで自分で作っていた時は、「自分の声はこうだから、こんな風に歌おう」って考えたり、自分の声に意識が向いたりはあんまりしなかったんです。でも、作っていただいた曲を歌う時は、すでにある曲に声を乗せますよね。だから声の出し方や表現の仕方により注意を払うようになりました。それを経て、「声が結構特徴的だね」って褒めてもらうことが増えて、「ああ、私の声って特徴的なのか」と思って。
――それ最近気付いたんですか(笑)?
さユり:そう、今まではそう思ったことがなかったんです。そう言われるようになってから自分の声を見つめ直すようになって、この声だから歌える言葉選びやメロディがあるんじゃないかって思うようになりました。そういう探索をしながら今後の曲作りに臨みたいですね。
『平行線』は、『フラレガイガール』の影響が強いと思います。『フラレガイガール』と『クズの本懐』の主人公って、偶然だけどすごい重なったんですよね。ふられたり傷つけたり傷つけられたりしながら成長していく姿が重なると思いました。
『フラレガイガール』は「次の涙も溜まった頃よ」っていう歌詞で終わります。これから待ち受けるであろう悲しみや自分の弱さも受け入れて進んで行くっていうメッセージなんですけど、自分自身でも歌っていてすごくエネルギーをもらえたんですね。さっき言ったように、『平行線』は「傷つくことを恐れる弱さを肯定したい」っていう気持ちから曲を作り始めたんですけど、『フラレガイガール』を歌ったからこそ、その先を描けたというか。その先を描くことに迷いがなかったんですね。だからそういう意味で『平行線』は『フラレガイガール』に影響を受けてます。
――それまで自分の声が武器だと思ったことはなかったんですか? 以前はソロじゃなくて二人で音楽活動をしていたから気づかなかったんですかね?
さユり:まさにそうです。最初は自分の声をあんまり好きになれなかったんですよね。
――コンプレックスでした?
さユり:そうでした。でもある時「声いいね」って言ってもらって、それで一人で歌うようになって。少しずつ段階を経て来たって感じがあります。それで「特徴的だね」って言ってもらうようになって、何か気づけたものがあるので、歌う人間として次のステップに進めるのかなっていう感覚があります。
優越感と劣等感、どちらもあるから素敵
――さユりさんには「人と違う感性・価値観にコンプレックスを抱く“酸欠世代”の象徴=酸欠少女」というコピーがついています。さユりさんが抱くコンプレックスって、具体的にどんなものですか?
さユり:私、今まで自分のことを歌詞の中でも「できそこない」って言って来たんです。なんで人がふつうにできることを私はできないんだろう?って思うことがよくありました。たとえば人付き合いでも、私はいちいち、人と喋る時に「この場ではこういう顔が正しいのかな?」とか考えちゃったりするんです。そうしていくうちに、だんだん楽しいっていう感情が湧かなくなってきたり、人間関係で居心地の悪さを感じたりしてたんですよね。
あとは、私、学校を中退してるんですけど、なんで学校に行けなかったのかなっていうコンプレックスがずっとあって。
でも、だからこそ歌えた歌っていうのが確実にあるんですよね。だから劣等感と優越感が共存してる状態です。どっちが悪いってことじゃなくて、どっちもあるから正しい。どっちもが正しいんだよっていうことは、自分の歌のテーマとして言っていきたいんですよね。劣等感を否定するでもなく、優越感だけが正しいっていうことじゃなく、どちらもあるから素敵なこと。そういうメッセージを伝えたいです。
――学校には行きたかったですか? もう1回行ってみたいと思います?
さユり:すごく行きたかったですし、大学は行きたいと思います。だから、月に3回くらいは学校に行く夢をまだ見るんです。すごく、リアルな夢なんですよね。夢から覚めて、「あ、また見た。行きたいんだな、まだ」って思うたびに、学校に行ってたのは過去なんだなって再確認する。
――学校に行けなかったことは、さユりさんにとって今でも大きな後悔として心に強く刻まれているんですね。
さユり:そうですね、そう思います。
――自分が「できそこない」だと思ってしまうようなコンプレックスを持ち始めたのはいつからですか?
さユり:どっちが先なのかわからないけれど、音楽をはじめたのが14歳で、その時くらいから葛藤が大きくなりました。それが音楽を始めたからなのか、たまたまそのタイミングだったのかはわからないけど……。でも自分が思うに、たぶん音楽を聴くようになっていろんな価値観とか新しいものに出会って、なにかひとつを正しいものとすることができなくなったということかなと思います。いろんなことを考えるようになった結果、考えることが多くなったのかなって思ってるんですけど。
――それは良いことだと思いますけどね。そういったコンプレックスを抱きながら、それでも音楽をやって生きていこうと思えたきっかけってありますか? というのは、さユりさんみたいにコンプレックスを持ってる人ってたくさんいると思うんです。そういう人は、さユりさんの曲に共感すると思うんです。さユりさんが頑張ろうと思えた理由を彼ら・彼女らが読んだら、自分たちも「それでも生きていこう」って思えるような気がするんですよね。さユりさんは、どうして前に進めたんでしょう?
さユり:音楽をやっていくと決意した瞬間というのはないんです。ふさぎ込むようになったのと音楽をやるようになったのが同時期だったから、「音楽しかないんだ!」って思うよりは、音楽にすがるように、「音楽を居場所にしたい」って思って、ずっと追いかけるような感じだったんです。音楽を追いかける感覚。
よかったなって思ったのは、デビューしてから、自分の後悔から生まれた曲で救われたって言ってくれる人が出て来たことです。私の過去に意味が生まれたんです。
去年、『ミカヅキの航海』っていうワンマンライブをやったんです。航海と後悔を掛けたんですけど、そういうテーマでやったライブに救われたって言ってくれた人がいたから、そこで自分も「あ、救われたな」って思った。実感として「ああ、ちゃんと自分は何かを残せてるんだ」って少し思いましたね。
これからもたぶんいろいろ後悔すると思うけど、いつか意味が生まれるから大丈夫だよっていうのは自分に言い聞かせるようでもあったし、みんなに伝えたいテーマでもあったし。だからまずは進んで行くしかないんだっていう気持ちはありますね。
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