アニメ、ゲーム、コスプレ、ファッション、そして音楽。様々なカルチャーをクロスし、ポップカルチャーの文脈に新たな風を巻き起こしそうなアーティストがいる。彼女の名前はMONICO(モニコ)。もともとコスプレイヤー、アニソンDJとして活躍していたMONICOだが、昨年よりミュージシャンとして本格的に活動開始。キュートなルックスやハードコアな楽曲、エッジーなアートワークに写真集とのセット販売という一風変わったパッケージ等が、耳の早いリスナーの間で話題を呼んだ。
そんなMONICOが新作『COLOR』を発表。本作は前作『Find Me!!』に続き、tofubeatsやでんぱ組.inc等のジャケットなど2010年代の東京ポップカルチャーを代表するグラフィックデザイナーのGraphersRockこと岩屋民穂(いわやたみお)とコラボしたアヴァンギャルドな写真集&音源作品で、MONICOの新たな魅力に満ちている。
ミーティアはMONICOとGraphersRockの対談を企画。新作『COLOR』や、互いの活動について語ってもらった。
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Sotaro Yamada、Michiro Fukuda
Photo_Hiroyuki Dozono
(対談直後のMONICOによるミーティア独占コメント!)
MONICO × GraphersRock 対談
――MONICOさんは、元々GraphersRockさんの作品が好きだったそうですね。
MONICO:そうなんです。バグみたいな特徴的な模様がすごいカッコイイんです。民穂さん(GraphersRock)のことを最初に知ったのは、ねむちゃん(※夢見ねむ、でんぱ組.inc)とのコラボでした。その後、DJを始めるようになってからMaltine Recordsさんの音源を聴くようになって、「なんかこれ見たことある!」って思って。調べたてみたら、前からカッコイイと思ってたグラフィックの多くがGraphersRockさんの作品でした。何も知らずに買って貼ってたステッカーが民穂さんの作品だったりとか。民穂さんだって気付かずにファンになってましたね(笑)。
――GraphersRockさんはこの話が来た時、どう思いました?
GraphersRock:今でこそMaltine Recordsとかtofubeatsって盛り上がってますけど、彼らとつるみ始めた当時は、彼らもまだ無名だったんですよね。そういう「ここから何か始まるんじゃないか」っていう人と新たに始めることが好きなんです。MONICOちゃんとはイチからビジュアルを提案することができたのでデザイナーとしてのやりがいは大きいです。曲も何もまったく決まってない状態からスタートして、本当にチームの一人として関わっているようなイメージです。
――そもそもの話として、写真集とシングルがセット、という形態がまず興味を惹かれます。こういった形をとった理由は何ですか?
MONICO:私の活動の原点がコスプレイヤーだからです。元々コスプレをしていて、コスプレ写真集を作ったりしてたんですよね。歌を始めたからといって今までやってきたことを無駄にはしたくないですし、被写体として頑張ってた部分もあるので、そこを結び付けると考えると、自然に、写真集とCDを一緒に頒布するっていう形になりました。
――MONICOさんから提案したんですか?
MONICO:そうです。そういう形で売った方が広がりも早いだろうし、今まで私を応援してくれた方みなさんにも受け入れてもらいやすいんじゃないかなと思って。
コスプレ生まれ、DJ育ちのシンガー
――MONICOさんの背景を少し掘らせてください。MONICOさんはアニソンDJやコスプレイヤーとして知られていますが、DJをやるのとコスプレをやるのはどちらが先だったんでしょう?
MONICO:コスプレが先です。コスプレを始めたのは高校を卒業してからなんです。ずっとやりたかったんですけど、親が「自分に責任が持てない高校生がそういうイベントに行くのは危ない」っていう厳しい人だったので……。でも理解のある親なので、「ちゃんと自分で衣装とか買えるようになったらね」って言ってくれて。それで高校卒業してすぐ始めました。
――最初に「コスプレしたい」と思ったきっかけは何ですか?
MONICO:元々アニメ好きっていうのと、かわいい女の子への憧れがありました。コスプレを実際にやろうと思ったのは、あるアニメをネットで調べてた時です。コスプレイヤーさんの写真がたくさん出てきて、それ見た時に「アニメを自分で表現することもできるんだ!」と思って。その時から自分でもやりたいっていう密かな願いが生まれました。頑張ってお金を貯めて衣装を買って、最初にやった時はもう、本当に楽しすぎて。これはやめられないなと(笑)。それからずっと続いてます。
――コスプレの魅力って何でしょう?
MONICO:コスプレの魅力は、そのキャラになれることだと思います。全然似合ってないって周りから思われてるかもしれないけど、自分的にはキャラの気持ちになれるので。その楽しさが忘れられない!
サーバルちゃんなう!!
歩いてるだけなのに「すごーい!」って言われる最高だ#ストフェス2017 #ストフェス#けものフレンズ pic.twitter.com/bQLv1KSUHu— モニ子 (@monico_PC) 2017年3月19日
――自分自身のキャラも変わりますか? コスプレしたキャラが自分に憑依してしまうというような。
MONICO:憑依するってことはないんですけど、写真撮ってもらう時はそのキャラの表情にならなきゃですよね。闘ってる時は闘ってる演技をしなきゃいけないし。
――ということは、コスプレイヤーには俳優的な側面があるんですね。
MONICO:なりきれてるかどうかわかんないですけど(笑)。ずっとコスプレイヤーをやってきたので、コスプレに関してはノリノリなんですけど、いざ自分の写真集を作るとなると少し違いますね。1作目『Find Me!!』の時は、恥ずかしさが顔に出ちゃって、見返すのが恥ずかしい(笑)。本当はもっと演じなきゃいけないと思うんですよね。みんなに憧れてほしいし、素敵だって思ってほしい。でも『Find Me!!』は、結構素の部分が出ちゃってて、恥ずかしがってる。たぶん今回の『COLOR』では改善されたと思うんですけど……(GraphersRockに)どうですか?
GraphersRock:だいぶ撮影はスムーズにできるようになったよね。やっぱ『Find Me!!』の時は、撮られることに慣れてない部分があったのか、緊張感がこっちにも伝わって来たし。でも『COLOR』の時は、カメラ向けられたらサクッとポージングしてね。「お。撮られ慣れて来たな」って思った。だからそういうことを考えながら『Find Me!!』と『COLOR』を見比べると面白いと思う。
――確かに『Find Me!!』と『COLOR』はだいぶ表情が違いますね。コンセプトの違いだと思ってましたが、羞恥心が関係していたんですね(笑)。ちなみにコスプレを始める前のMONICOさんはどういう女の子だったんでしょう?
MONICO:アニメと音楽が好きな子でした。高校時代は軽音楽部に入ってて、ギターも弾いてたけど、ヴォーカルをメインでやってました。歌うのがすごい楽しかったんです。毎日歌ってたし、ライブをする楽しさも知りました。でも、結構現実的に考えちゃうところもあって……、つまり歌を歌って食っていけるはずがないと。だから、将来は歌で活躍しようとは全然思ってなかったです。コスプレを始めてしばらく経ってから、ある時、ラジオで歌の配信をすることになりまして。やってみたら、ファンのみなさんが「モニちゃんの歌すごく良いよ」って言ってくれて。それがきっかけで、コスプレイヤーを集ったライブを個人で企画しました。そしたらすごいいっぱい人が来てくれて大盛り上がりで。ライブが終わった頃、ふと、むかし軽音楽部で歌ってた楽しさが蘇ってきて、やっぱり歌でやっていきたいなって思って。そこからいろんなことに挑戦して、いまに至るっていう感じです。
――どういう音楽が好きだったんですか?
MONICO:Jロックが好きでした。コスプレが好きすぎて音楽から離れてしまった時期があったんですけど、アニメが好きだったので、アニソンはずっと変わらず好きでした。
――高校生より前は、どんな音楽を聴いてましたか?
MONICO:小学生の頃は、音楽を聴くのがダサいと思ってたんですよね。なんか恥ずかしいと思ってて。好きなアーティストさんはいたんですよ。大塚 愛さんとか。でも自分の好きなものや憧れを口にすることが恥ずかしくて。好きなものを好きって言うことが恥ずかしい時期ってありませんか? 私は結構、自分を否定しがちというか、自分大好きと思えたことがあんまりなかったので、好きなものを言うことに自信がなかったんですよね……。中学生の頃もそうでした。音楽が好きってことを誰にも言えなかったです。高校生になって、軽音楽部に入って、部活の仲間と好きなものが一緒だったんで、やっと素直に好きだって言えるようになって、自分を表現できるようになりました。ただ、今みたいにいろんなジャンルの音楽を好きになったのは、DJを始めてからですね。
MONICOとGraphersRockとコミケ
――ミーティアでは前回のコミケに際してインタビューをさせていただきました。コミケC91、どうでした?
MONICO:今回はすごかったですね……。最近は歌の活動を頑張ってたので、コスプレ系のイベントは久々だったんですよね。そうしたらもう、「ガッ」みたいな。こんな状態です。
――うわー、これはすごいですね……。
MONICO:最初は個別で撮ってもらってたんです。みなさんには列に並んでもらって。でもちょっと捌き切れなくなってきて……。「囲みで」って言ったら、こうなりました。
――写真から熱というか、ものすごく圧が伝わって来ます。
MONICO:そう、圧がすごくて。目線の配り方とかも忘れてしまって。これは本当に申し訳なかったんですけど、いつもより早めに終わらせてしまいました。久々にコスプレイヤーとしてたくさんカメラを向けてもらったら、緊張してしまって……。自分のことを不器用だと思います。
――GraphersRockさんはコミケ行きますか?
GraphersRock:ここ何年かはそんなには行ってないですけど、高校生くらいの頃は毎回行ってましたね。
MONICO:民穂さん何買うんですか?
GraphersRock:当時、何かを買う目的では行ってなかったかな……。
MONICO:文化を知る、みたいな?
GraphersRock:お祭り騒ぎを見に行くみたいな。僕も元々アニメすごい好きだったし、やっぱりエヴァンゲリヲン直撃した世代なんですね。しばらくコミケとは離れてたから去年の夏コミはすごい久々だった。
MONICO:そうですね、民穂さん、会いに来てくれましたよね。コミケは、いるだけで楽しいですよね。いろんなもの作ってるじゃないですか。
GraphersRock:そうそう。だから何か買いに行くっていうよりは、やっぱり何かにすごく集中している人たちが集まっている場のオーラみたいなものを感じに行くっていうか。良くも悪くも、ひとつのことに執着している人たちがあんなに集まるっていうのはすごいパワーだよね。そういうのを覗きに行くみたいな感じかな。
――行くとモチベーション上がりますか?
GraphersRock:上がる上がる。すごい言い方悪いんでこのまま書かないで欲しいんですけど、動物園に行く感覚なんですよね。
(※面白い表現なので、そのまま掲載しました!)
MONICO:それ、わかります!
――言い方、悪いですかね? 面白い表現だと思います。
(※なので、そのまま掲載しました!!!!)
GraphersRock:普段と違う非日常感を味わえる、みたいな。
MONICO:それはサークルスペースだけじゃなくて、コスプレエリアもそうですね。みんながそれぞれ自慢のコスプレを着て披露しているんで。それを動物園感覚で見に来ている人は絶対にいると思います。何も買わないで帰る人もたくさんいますよね。スマホでパシャパシャ写真撮って。
――知人で、行くと必ず3万円くらい使っちゃう人がいます。抗えないらしい(笑)。10万円くらい使う人も珍しくないみたいですね。すごいことだと思います。
GraphersRock:いますね、10万円単位で買う人。MONICOちゃん、何か買ったりするの?
MONICO:私はあんまり買わないですね。もともとコミケに行くことすらも親に制限されてたので。危ないからって。コミケのことをネットで調べたらしいんですよね。そしたら「盗撮に注意」みたいな情報を目にして、もうカンカン。「自分で責任を持てるようになったら行きなさい」って話になって、本当に高校を卒業してから行きました。
デジタルカルチャーにおける新たなヴィーナス
――では少しずつ作品の話に移っていきたいと思います。まず、最初に出された『Find Me!!』の表紙ですが、このMONICOさんのポージングって、よく見るとすごくセクシーですよね。なんていうか、中世ヨーロッパ的というか……。
MONICO:おっ! 良いとこに気づいてくれました!
GraphersRock:そこはオマージュですね。
――オマージュ?
GraphersRock:ドミニク・アングルっていう、19世紀のフランスの画家がいるんですけど、彼が描いた絵に『ヴィーナスの誕生』っていう絵があるんですよ。女神ヴィーナスが海から誕生し出現したという絵なんですけど。これは多くの画家が描いた重要なモチーフで、ボッティチェリの作品が一番有名ですね。で、MONICOちゃんのポージングはドミニク・アングルのヴィーナスと同じポージングです。こういったモチーフにMONICOちゃんを重ねて、さらに僕のデザインで囲むということは、MONICOちゃんをデジタルカルチャーやハイブリットカルチャーにおける新たなヴィーナスとして見立てたいからという意図がありました。
――なるほど、それは非常に面白いですね。
GraphersRock:でも、実際MONICOちゃんはどうなの? グラフィックでガーッといじられる側としては。
MONICO:えっ。でも私は、めちゃくちゃにしてもらってもよかったなって思いますよ。もう、グシャグシャに(笑)。
GraphersRock:僕はまだ結構遠慮してるところがあります。グラフィックデザイナーとしてはもっといろんなことができると思うんだけど、それをやりすぎると、僕のエゴになっちゃう。「これ買ってくれてるMONICOちゃんのファンはどう思うかな」とか、いろんなことを考えます。実際、グラフィックがゴチャゴチャ入ってたら、本当にMONICOちゃんを好きなファンの子はあんまり楽しくないと思うんですよね。ストレートに写真見たい人もいると思うんで。そのバランスをもう少し探りたい。だから最初の写真集『Find Me!!』に関しては、グラフィックをたくさん載せてるところと、全く載せずに写真そのまま撮って出しのところを分けてます。『COLOR』に関しても、グラフィックが入ってはいるんだけど、写真自体はそのまま無加工にしていて。その辺でバランスを探ってますね。でも、どうなのかな? MONICOちゃんのファンって、実際どう思ってるの? 2回こういう写真集出してさ、他にもMONICOちゃんで自主的に作ってるコスプレの写真集あるじゃん。どっちが好みなのかな。
MONICO:正直に言うと、やっぱりコスプレの方がみんな好きっぽい……(笑)。
でも、徐々にですけど、こういうカッコ良いものが好きな人やGraphersRockさんのファンが買ってくれたりするようになってきてます。もちろんコスプレイヤーとして応援してくれるのもすごく嬉しいんだけど、今はアーティストとして見られたい気持ちが強いです。今後はアーティストとして主に活動したいので、カッコ良い私をもっと受け入れてほしいです。それでみんなに「こういうのもあるんだ!」って知ってほしいな。
――GraphersRockさんの作品に、モナリザを中心に添えて後ろに「情報化社会」って書いてある作品あるじゃないですか(※『HYPER 90’s vol.1 NEO AGE DTP』)。ああいうのをやってほしいですね。
MONICO:あそこまで激しくすると……、って思ったってことですよね?
GraphersRock:そう。僕自身は、自分のことをアーティストではなく職業デザイナーだと思ってるんです。最終的に受け手側がどう思うかすごい考えてしまう。アーティストだったら「これが俺の作品だ!」でいいと思うんですけど、なかなかそういう考え方になれなくて。最終的なユーザー、お金出してくれる人がどう思うか結構考えちゃいますね。
MONICO:そんなに考えてくれてたんだ。でも私は結構、自分をキャンバスにしてほしいという気持ちがあります。次はもう、民穂さんワールド全開にして作りたいですよ!
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