耐えきれへんほどの悲しみも、なんとか乗り越えてほしい
ーー京都大作戦でこの曲をやった時のMCで「諦めの悪い男になれよ」とか「往生際悪く行こうぜ」と言っていましたよね。どういう思いからこういうことをみんなに言うようになっていったんでしょうか。
僕もバンドはできていますけど、これまでに諦めなくちゃいけないことは沢山あったんですよね。諦めたくないことだけれども、諦めなくては仕方がないことも沢山あって、それを諦めなくちゃいけないと思って、生きていくのがすごい辛い時期というのが何回かありまして。
ーー具体的に言うと、何歳くらいの時が一番辛かったですか?
23歳くらいに時に一回その波があって、そこから2年間くらい悩みました。で、また、27歳くらいから5年くらい悩んだこともありました。ずっと辛かったんですよね。どうにもならないし、叶わないこと、仕方のないことやから諦めなくちゃいけなくて。でも、諦めなきゃいけない、忘れなくちゃいけないと思うことがまず辛かったんですよ。だからもう、ある時、じゃあもう諦めるのをやめようと思った時期があって。苦しすぎるから、もう一回掘り返してみようというか。そうしたらすごい気持ちが楽になったんですよね。結局叶わないからまた悲しくなるし、死のうとかは思わなかったですけど、でも生きているのがしんどいなと思うくらいは悩んでいて。でも、自分が生きているうちに叶わないことを願っても仕方がないけれども、でも次の人生で叶えばいいなとか思いながら、それが叶った時の自分を思い描いて、想像にふけって生きていた時期もあるんです。で、そうすると、苦しんでいたよりは楽なんですけど、ちょっと酔っぱらった時なんかに、結局叶わへんし最後は虚しいだけやでって思う時もあって。でも、願いが叶うか叶わないかも大事ですけど、どう生きるか、どういう時間を過ごすかということも同じくらい大事だと思うんですよね。目標とか夢というのは、それを叶えることが全てと思って、そこに向かっている時は生きているんですけど、振り返ればやっぱり、一番思い返すんはその道のりやと思うんです。
この歳ですから、ずいぶん結婚しはる新郎新婦のカップルを見送ってきていますけど、最後に新婦さんが親への手紙を読む時に泣いたりしはる。僕もあれを見ていつももらい泣きしてしまうんですけど、なんかあの瞬間というのは、結ばれて結婚できてよかったねというだけでなく、新郎とダメになりそうやった時とか、親とうまいこといかなかった時とかね、そういうことをいっぱい思い出して泣いてはるように見える時があるんですよ。で、それって決してネガティブなことじゃないなと思うし、悪いことでもないと思うんですよ。楽しかったことも思い出しているかもしれないですけど、楽しかったことを思い出して泣くことってあんまりないんですよね。悲しいことというのは思い出すと泣いてしまう時がある。それを乗り越えて今たどり着けてよかったねという涙やから、あの涙というのは、僕は宝物やと思うんですよね。だから、自分の悲しかった時期、喪失感と過ごした1-2年も、今の僕にとっては、それがなかったら書けていない曲ばっかりですから、尊厳と同じくらい大切にしているものだし。あえてこれから悲しみを求めていくわけではないですけど。悲しさや寂しさと付き合って生きていくことがしんどい時は、嘘でも前向きになって、なんとかやり過ごして欲しいし、何もかもやめたくなる時、死にたくなる時、人間って誰にでもあると思うから、でもそれをなんとか乗り越えさえすれば、悲しいことは絶対に宝物に変わると思うし。耐えきれへんほどの悲しみも、なんとか乗り越えてほしい。そういう意味での「諦めの悪い奴になれよ」という意味でもあります。
あと、さっき言い忘れたんですけど、Theピーズの歌もすごい大好きですね。「叶わない夢でもないよりは全然いいじゃないか」というフレーズも大好きで、いろんな日がありますから、どうしても現実と向き合ってやりきれない時は、自分をいい意味で騙してやり過ごしてでも、辿り着くべき未来に、なんとか前に進んでほしいな、と。生きてたら、絶対におもろいことがあると思うし。
Photo:HayachiN
ーーMCでも「過去の悲しみが今の楽しみを支えている」とおっしゃっていましたよね。それはまさに今語っていただいたこともそうだと思うんですけど、例えば過去を振り返って、辛い別れがあったり、その時にこうすればよかったというような後悔があったり、そういうものをTAKUMAさんは抱えているわけですよね。
めちゃくちゃありますよ。後悔のデパートです(笑)。
ーーでもそれが今の自分を支える力になっているという感覚もあると思うんです。どういった過去の後悔がどういうものに変わって今の自分の力になっていると思いますか?
そういう経験が、歌詞になったり旋律になったりMCの言葉になったりというのはもちろんあるとは思うんですけど、それよりも、ライブ会場にお客さんがおって、比較的若い子らが多くて、あの時の俺みたいな奴今日も何人かおるんやろうなとか、そういうことは思いますよね。もうほんまに死にたいくらいに悩んでいた時、死のうとは思わなかったですけど、ほんまに生きていてもしゃあないなって思ったことはいっぱいあったから。でも、そういう時も音楽に助けられたし、僕が悩んでいることをブラックジョークにしてくれるご機嫌な先輩もいましたから。そういう先輩のおかげでね、悲しみの湿度を下げてもらったりしてここまでこれたから。いつでもあの時の自分でも気持ちになれるので、今日もどこかで寝れへんやつがおる。今日もどこかで生きててもしゃあないって思っているやつがおると思った時に、そこと気持ちを重ねられるように思うんです。
「俺もそういうことあったで」とか「今でもそういうことあるよ」とか。どこにでも、情けない思いをしながら生きているやつが絶対におるはずやから。その気持ちを俺は自信を持ってわかるって言いたい自分がいる。実際はね、それぞれの細かい事情というのは、その人じゃないからわからないんですよ。でも、「俺はわかるで、俺もめっちゃ唾飛ばしながら歌うわ」みたいな気持ちになったりできる。それはライブじゃなくても、友達の気持ちをわかってあげられて一緒に飲みにいけたりとか、そういう力になってるんじゃないですかね。
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