民話の語りは、事前の申込みを行った上で、夜20時からスタートします。
最小実施人数は2名以上〜で、この日宿泊していた女子大生2人組も民話の語りきかせの希望があったとのことで、ご一緒させてもらいました。
囲炉裏に炭をくべて、はじめにひろじいは、そもそも民話とは?ということをわかりやすく説明してくれました。
冒頭部分は、ひろじいの語りをほぼそのままお届けします
民話とは何か。
「いや〜おもしろいのよ、民話ってね。
昔話のなかでも種類がいろいろあるんだけど
神話は国がつくったものでね。
おとぎ話は江戸時代からあって、
明治時代あたりに作り変えられたものが多い。
民話っていうのはつくられたものじゃないの。
どこにもあるとおもうんだけどね 。
井戸端会議なんていってね
文字通り井戸を囲んで、洗濯の合間に噂話。
囲炉裏では、世間話 。
どこの村にもね 変人奇人10人衆っていうのがいてね。
みんな、腹抱えて笑えるような 物語をもってんの。
そういうお話を囲炉裏を囲んでやって
わははっと笑いあうのがたのしいの」
囲炉裏を囲むこと自体が現代では貴重な体験。焚き火と通じる良さがあります。
「昔はラジオも、電気もなかったの。
そんなわけで囲炉裏ってのは
娯楽の場所なんだよね。
家にひとつしかないし
部屋にいたって寒いから、
おのずとみんなそこに集まる 」
このぐらいの話が
こうなっちゃうの
「民話は、噂話や世間話がもとになってるんだけども
はじめはこのぐらいの話を
おもしろおかしくするために
こしらえちゃう(盛っちゃう)んだよ 。
どこの家庭でもそれぞれ話を膨らませて
内容がどんどん変わっていくんだよ 」
「おじさんが37年前にこの本(『おくたまの昔話』)をつくったんだけど
奥多摩や近郊のお年寄りを訪ねて、
手分けして話を集めたの。
そのときに伝承された話をここにとどめたわけ 。
本にしたから、そこから話の内容は変形されなくなった」
レパートリーは80話。全部、頭のなかにある。
「それじゃあまず最初はね どんなのがいいかな。悲しいのおもしろいの おっかないの」
ひろじいの頭のなかにあるお話のレパートリーは、80話以上。ジャンルの好みや、季節柄、「今日どこ行ってきた?明日どこに行く?」などの会話から、どんな話をするかを決めていきます。
「明日は特にどこも行かない?そうか。困ったなぁ(笑)。本当は、実際に行った場所や、行くところの話がいちばん盛り上がるんだけどね」
「じゃあ、今の季節にまつわる話をやるべえかな」
「昔は今ぐらいの時期は火事が多くてね。
お湿り(雨)が降っちゃあ、
あー助かったと言い合ってた。
いまは家も丈夫になってつくりも変わって
火事はださなくなっただよな」
おもしろくて、ためになる。
ひとつめにひろじいが語ってくれたのは、火事を知らせてくれる「火伏せの神さま」のお話。単なる昔話ではなく、現在まで続く奥多摩地方の夏祭りと、山の上から打ち上がる花火の由来になったお話です。
「むかーしな、
愛宕山(あたごやま)にありがてえ神様がおった
なんたってむかしのこった、ほれ、
時代でいやぁ江戸、明治のはじめ頃かな
ようやくなぁ、茅葺きの屋根を変えたのが戦前だよな
それまでの屋根はみんな茅葺きで
火がつきゃあすぐ燃えちまった
風のある日は一軒じゃおさまらねぇ
消防署もなかったんだよ
消防車なんてのもない」
ナレーションと、登場人物、時代背景の補足や実在した人の資料を加える副音声的な解説、ひとりで何役もこなし、臨場感たっぷりに語りを行ってくれるひろじい。(内容は実際に聴いてみてのお楽しみ!なので略します)
「そんなわけで、毎年8月、奥多摩の夏祭りでは連なる山の上から花火があがるの。首がくたびれちゃうけどね。面白いよ。ぜひまた、きてみてください」
ふたつめのお話は、冬眠する熊とお正月準備の稼ぎのために身体を張った人々をめぐる「熊をくすぐる」。
「熊がいる穴はね、ここからすぐ上がったところにあるよ。今の時期は眠っているけど、あたたかくなったら、熊に出会えるかもしれない。熊に会ったら、決して驚かさないこと。逃げたら追っかけてくるからね。ちゃんと対応すれば、向こうから逃げていくから」
ふたつの話に共通していたのは、おもしろいだけでなく、奥多摩の魅力を伝えるガイドであり、実用的な知識も身につくようなお話になっていることでした。
熊の胆は高く売れた。冬眠している熊をくすぐって巣穴から出す、「くすぐり師」がいたそう
「奥多摩 むかし道」は登山道になっていて、荒澤屋から徒歩10分も歩かないうちに、森のなかに入ることができる
「さて、話はこんなところかな。何か、質問はありますか?」
締めの小話を終えて、ひろじいがこのように問いかけます。ここで民話タイムはフィナーレかとおもいきや、「囲炉裏で民話」の真髄はさらにここからはじまりました。
>>次ページへ:なぜ「民話の宿」になったのか。
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