自身が自閉症でもあるラッパーGOMESS(ゴメス)は、自閉症について歌った楽曲、『人間失格』、それから高校生ラップ選手権といったフリースタイルバトルでの活動を通して、世に認められてきた。
自閉症という難しいテーマを扱いながら、GOMESSの歌う歌詞はどこか詩的で、リスナーの内面に深く響いてくる。自閉症という孤独のなかにいながら、彼の書く歌詞はリスナーの心に、”共感に似たなにか”を呼び起こし続けている。
ひとりのラッパーからバンドへと活動形態を移しながら、GOMESSの心境にはどういった変化があったのか。フリースタイル、自閉症、差別、リスナーやメディア。自身を取り巻くこういったものごとに対してGOMESSが抱えてきた想いやその変化を、今回のインタビューでは深く迫った。
インタビュー・文=槇野慎平・山田宗太朗
写真=和田東雲
「ラップをしたい」から、歌詞を書いた。
ーーとあるインタビューで、「バラエティを見ながら言葉の勉強をした」とお話しされていて、それと、Eテレで放送されたドキュメンタリーでも、「言葉が通じない感覚がすごくあった」とおっしゃっていたのですが、お聞きしたいのは、なぜそれほど言葉に苦労を感じていたひとが、ラップという、言葉を全面に押し出した音楽を選ぶようになったのでしょう。
たぶん、やせ我慢、みたいな感じだと思うんですよね。言葉がすごい嫌いだったんですよね。どうしてこの気持が伝えられないんだろうって。言葉の伝達がすごく苦手で。自分はすごくわかり易くピックしているはずなのに、どうして、向こうは勝手に、言葉の裏を読んで、言葉を上書きしてくるんだろうと思って、すごく嫌になって。それで、勉強しました。
――そうして言葉を勉強していく、ということと、リリックを書く、ということのあいだには、なにか繋がりがありましたか。
リリックを書きだしたことは、完全に、ただの趣味ですよ。ラップをしたいなっていうときに、ラップをするのになにが必要かっていうと、歌詞だったっていうぐらい、単純な。別に「なにかメッセージを伝えたい」が発端ではなくって、「ラップをしたい」から、”歌詞を書いた”。…のが、だんだんと歌詞が意味を持つようになってきた、っていう。
――自閉症について最初に書いたのはいつごろですか。
自閉症って告白したのは、正直、完全にそのメディア露出のタイミングなんですよ。身の回りにも言ってこなかったんですよ。恥ずかしいことだと思っていたし。…っていうのも、僕は軽度だったんですけど、といっても、今よりもやっぱりひどくって。…たぶん、『人間失格』が最初なんじゃないかな。”人生記”みたいなのは、前にも書いているんですけど、自分が発達障害で、パニックがうんぬんって書いたのはそれが初めてだと思います、たぶん。
「今は今しかない」という感覚が、すごい、ずっとある。
――「音楽だけが自分のコミュニケーションツールだった」とラップされている動画を観たのですが、このことについてお聞かせください。
中学生のときから、インターネット上での交流だけはあって、友達と。っていっても、学校での友達ではないんですけど。そのひとたちと、スカイプ上でフリースタイルしたりとかっていうのは一応やったことあったんですよ。っていっても、タイムラグがあったりするんで、そんなに綺麗に出来なかったんですけど、無理やりやってたんですよ。そういう文化があって。そうやって、自宅にそれぞれいながら、遠隔で曲作ったりしてて。
ただやっぱ、ムチャクチャコミュ障で。ただ、ラップの話だけはその…、ムチャクチャ詳しかったんですよ、自分のなかで、すごく。向こうも大人とかが多かったんですけど、「中学生でめっちゃラップ詳しいやつ」みたいな感じで、面白がってくれて。すごくいろんな人と交流できて。ほんと、ラップの話以外、ほぼしてないんじゃないかっていうぐらい。だから、自分の障害の話とかしてなくて、するまでもなくて。
高校の一年生の秋に、文化祭でラップをするんですけど、それをするまで、春から秋まで一言も誰ともまったく喋ってなくって。たぶん、一言も喋ってないんですよ。「おはよう」も交わしてなくって。クラスっていうのがなかったから、…「定時制」みたいな。ホームルームも溶け込めなくて。「行くには行くけど」みたいな。そういう空気みたいな奴だったんですよ。休み時間はずっとイヤホンして寝てました。
それで、文化祭出て、…ライブ始まるまでは、いろいろ準備手伝ってくれた、「仕方なくやってくれた」みたいな文化祭の運営のひとたちとかも、終わった瞬間から、みんな「すごいね」みたいな、こう…バッと集まったんですよ。自分の周りに。
「あ、ラップやったら、みんなわかってくれるんだ」って。
それから校門の前とかでラップするようになって、みたいな感じですかね。
――文化祭のライブに出るっていうのは、勇気がいることだったと思うのですが、その決断は仲間と相談してしましたか。
仲間いないですね。
――当時のネットの上の友人にも相談はしないで、自分ひとりで「出る」と決めましたか。
そうですね。俺はむしろ、仲間的なひとたちより先に行動とって、「びっくりさせてやろう」みたいな気持ちが常にあって、今もそうなんですけど。大事なことほど先にやって、必ず成功させる、っていう想いがあって。
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