奇妙礼太郎にインタビュー。『More Music』ができるまで
アニメーションズ、奇妙礼太郎トラベルスイング楽団、そしてTENSAI BAND II(ex.天才バンド)と、数々のバンドで活動してきた奇妙礼太郎。2017年には『YOU ARE SEXY』をソロデビューを果たした。ここ数年では西島秀俊が出演したスズキ〈ラパン ショコラ〉のCMや、桐島かれんと黒木華が出演したサントリー〈オールフリー〉のCMなどで歌唱を担当し、お茶の間でもファンを獲得している。
1年ぶりに発売されたセカンドアルバム『More Music』では、共同制作として田渕徹と吉田省念が参加。関西の盟友たちと作り上げた“ソロだけどソロじゃない”アルバムは、奇妙の歌い手としての魅力をさらに引き出す作品となった。
歌唱力はもちろんのこと、自由奔放なパフォーマンスでも観る者を惹きつけてやまない奇妙らしい、脱線したりいきなり核心に迫ったりするインタビュー。先に公開された「奇妙礼太郎入門。CMとバンド・ソロのおすすめ曲まとめ」もあわせてどうぞ。
いきなり日本酒談義へ
――ミーティアのコンセプトは「Music Meet City Culture」です。音楽を軸に幅広く記事を掲載していますので、今日も込み入った音楽の話ではなく、もっとフランクにお話を聞かせてください。
奇妙 : それはありがたいです。
――知ってる方の記事はありました?
奇妙 : (スマホの画面をスクロールしながら)僕、大橋裕之さんのファンです。
奇妙礼太郎トラベルスイング楽団「わるいひと」のミュージックビデオでも大橋のイラストと共演している
――嬉しいです。普段から漫画は読まれますか?
奇妙 : 読みます。今日はゴトウユキコさんの『夫のちんぽが入らない』(原作:こだま)と、同じくゴトウさんの短編集『36度』を読んできました。
――本自体、よく読むんですか?
奇妙 : お酒をやめている期間はよく読みますね。お酒を取るか、全部のやる気を取るかなので(笑)。気づいたらもう半年くらい飲んでないかな。
――ということは、今回の制作期間中もお酒は飲まなかったんですね。
奇妙 : そうですね。制作のために控えた部分もあるけど、単純に毎日飲んでたら飽きてきてやめることも多いです。でも案外、お酒をやめてから飲みたいなと思うのは3日間くらいなので、なくても全然大丈夫。
――しばらく間を空けてから飲むほうが、格別に美味しかったりしますもんねえ。
奇妙 : それ、個人的な意見も入ってます(笑)?結構飲むんですか?
――実は私、飲んじゃうんです。しかも1杯目から日本酒を。年上の方との飲みの席でも、「乾杯はとりあえず早く出てくるビールでしょう」って空気はあえて読まずに日本酒を頼みます。
奇妙 : へえ!! 日本酒は楽しいもんね。日本酒の話する(笑)? 何が好きなんですか?
――いいんですか(笑)。私はキリッとしてる辛口が好きで、よく東北のお酒を飲みます。銘柄で言うと、青森の「じょっぱり」とか。他にも好きなのはたくさんあるんですけど。
奇妙 : ははは、キリないな(笑)。おつまみは何を食べるんですか?
――おでんが好きです。金沢にいた学生のときはおでん屋でバイトをしていたので、お客さんがおでんで日本酒をずっとちびちびやってるのを見て、お酒の飲み方を学びましたね。
奇妙 : いつ切り上げるの、あんなん(笑)。いいなあ、金沢はめっちゃ食べ物美味しいもんね。おでん屋さんでバイトしてたんや。
――はい。金沢のおでん屋さんの中では恐らく5本指には入るようなところで。金沢駅の中にある〈黒百合(くろゆり)〉ってお店です。
奇妙 : 駅ナカにあんの?! いいなあ! 絶対行こう。
――飲んでそのまま新幹線に乗って、東京まで帰れますよ(笑)。奇妙さんのお酒の肴は?
奇妙 : 僕、イクラが好きです。しょっちゅうは行かないですけど、お寿司屋さんも好き。お蕎麦屋さんも良いよね。
――ああ、お蕎麦屋さんで飲むのすごく好きです。
奇妙 : 文豪みたいな気持ちになるよな。20年くらい先取りしてる感じがする。60代の人はこういう感じで生きてるのかなって。
――確かに。夕方ごろに原稿が書き上がって、それから外に出て一杯引っかけて……。
奇妙 : そうそう(笑)。ちょっとしたものをつまんでね。そんなに大したもんとかないのよ。
――最高です……! 冒頭からこんな話になっちゃってすみません(笑)。
奇妙 : でも日本酒は美味しいよね。奈良の〈風の杜(かぜのもり〉もおすすめです。全然高くないけど美味しい。
――スッキリ系ですか?
奇妙 : いろんな種類があるけど、基本的には微発泡が多いかな。
――口当たりが良いのは好きなので、近々飲んでみます! ありがとうございます。
ようやく本題『More Music』の制作について
――それではそろそろアルバムの話を(笑)。
奇妙 : ははは。そうですね(笑)。
――今回のアルバム、『More Music』は田渕徹さんと吉田省念さんと共同制作されたそうですね。どういった経緯でご一緒されることになったんですか?
奇妙 : 田渕くんと出会ったのは10年以上前で、もともと僕が田渕くんのファンやったんです。ずっと彼の曲もライブも好きやったから、2017年に『YOU ARE SEXY』を出すことになったとき、僕からお願いしました。当時は自分の書いた曲だけで活動していくイメージがなかなかつかめなかったんですけど、田渕くんが書いてくれた「君はセクシー」と「Nobody knows」の2曲のおかげですごく助かった。そのあと、「愛しのアイリーン」の主題歌のオファーが来たときに原作や台本を読んでみて、これは田渕くんが作ったらぴったりやなあと思って。それで「水面の輪舞曲」を作り始めたんです。
田渕徹「君はセクシー」
――吉田さんはその後から合流されたんですか?
奇妙 : そうですね。省念くんもずっと前から、よくライブを観に行ってたんです。いつか一緒に仕事したいなって思ってたけど、尊敬するあまり遠慮していて、今回思い切ってお願いしました。まずは田渕くんとスタジオに入って制作を進めてたんですけど、僕らは2人とも基本的に弾き語りスタイルなので、全体的な曲のアレンジとか、楽器の構成とかはどうしようかって話していて。なんとなく、2人とも省念くんがいいと思っていたから、すぐ連絡しました。省念くんも自分の作業をしてる時期やったから、すぐ作業できるエンジンがかかってるって言ってくれたんです。
吉田省念「霊魂の涙」
――田渕さんとイメージが共有できていて、省念さんともタイミングが合ったから、3人で。
奇妙 : はい。今ならずっとしたかったことができるなあ、いいタイミングが来たなあって思いましたね。東京にいる僕と田渕くんがスタジオでギターと歌を録って、省念くんに送る。それを省念くんが京都のスタジオで、ドラムもベースもギターも鍵盤も入れて、データで戻してくれる。それにまた僕らはスタジオで歌を入れて、京都に送る。その繰り返しで作業を進めていきました。
――吉田さんとはリモートで制作していたんですね。
奇妙 : 一人で長時間の作業なんて自分はもたないし、そもそも技術がすごいですよね。イントロ作って、構成も作るんですよ。「ようそんなことできるな!」って思います(笑)。弾き語りの音源を送って、2日前後でほぼアルバムに入ってるのと同じものが戻ってきたから「怖っ!」ってなりました。
――それは確かに、「すごい」を通り越して「怖い」(笑)。でも省念さんとの物理的な距離は感じることなく、一体感をもって進められたと。
奇妙 : そうですね。もともと彼の音楽をいっぱい聴いてきたから、全幅の信頼を置いていますし。「おーきたきた!」って感じ。デモを聴いたときも「ああ、省念くんらしいな」って。そこにうまく自分が溶け込んで、納得の行く仕上がりになったと思います。
――すごく良い雰囲気での制作だったんですね。
奇妙 : 今回の制作で新曲が30曲くらいできました。今は作るのが楽しいです。アルバムの曲はほとんど完成した順に入ってるんですけど、早くレコーディングの続きをしたいですね。曲の作り方はずっと悩んでいたんですけど、少し解決してきた気がします。
――それは良かった。ソロアルバムではあるわけですが、あえて共同制作にこだわるのはなぜですか?
奇妙 : 誰かがいたら、今こうして話してることも一緒に添削したりして、別のものに変えていくことができるじゃないですか。自分の中から生み出すというよりは、そっちのほうにすごく興味があるんです。もう一つ二つ向こうのことを人に見せたり、問いかけたりしてみたい。自分だけだったらそこまでは行けないと思うので。人の文章を読んでいても、自分だけでそれができる人はすごいなって思います。仕入れた情報や知識を集めて書くだけならある程度できると思うんですけど、それを踏まえて自分から何かを生み出して書くってすごいなって。僕の場合、一緒にやってくれる誰かがいるからこそそれに近いことはできるのかなと思いますね。
――文章を読むときも、一つの世界に入り込んでいく小説よりは、エッセイなどの開けたものを読むことが多いですか?
奇妙 : そうですね、小説はそんなに読まないです。あんまり楽しめないというか、「結局どうなん?」って結論を急ぎたくなるんですよね……。あ、それで良いサイトがあるんですけど、「フライヤー」って知ってます?
――へえ、知らないです。
奇妙 : 一冊の本を10分くらいに要約して喋ってくれるアプリ(とWebサイト)なんです。それをめっちゃ聞いてるんですけど、「ああ、これこれ」と思って。寝るときとかに聞き流してるんです。
(『道開く、海わたる、大谷翔平の素顔』の要約を自動音声が読み上げる)
フライヤー : 道開く、海わたる、大谷翔平の素顔、佐々木亨、扶桑社。レビュー。プロのスポーツ選手は、いかにして一流足り得るのか、そうした好奇心を余すことなく満たしてくれるのが本書である。………(以下略)
奇妙 : アツいこと言ってるけど、コンピューターボイスやからドライやな(笑)。
――棒読みが耳にすごく残る(笑)。寝る前に聞いたら睡眠に悪影響が出そうです……。
奇妙 : ははは(笑)。夢に出てきそう。
ライブで歌うことはサーフィン、あるいは凧揚げである
――最近の趣味や、興味のあることは何ですか?
奇妙 : この前ラジオに出演したら、モータースポーツのA級ライセンスを持ってる方がDJをされていたんですよ。そのときにレーシングカートをおすすめされて、今すごくやってみたいと思っています。
――ほう、レーシングカートですか。
奇妙 : 趣味についてはふと考えることがあるんですけど……要は、時間を忘れるくらい没頭できるものがあればいいんです。ずっとそれをしていたら気分良く一生を終えられると思う。それで言うと、酔っ払うことって割とそれに近くて。フワッと血行が良くなって、気づいたら次の日になってる。料理も他のことを忘れて没頭できるので、おつまみを作りながらお酒飲むのはすごく組み合わせがいいんですよね。
――なるほど。
奇妙 : 食べて、飲んで、後に何も残らないのも良さだし。でも次の日には、しんどい体とやる気のない、何もできない1日とか2日が残る。たまにはいいけど毎日は良くないし、一旦飽きたなと思って。だから、それに近くて没頭できるようなことがあったら何でもいいというか。子どもの頃はプラモデルを組み立てるのが好きで、作っている間は1日がすごい速さで過ぎていったんですよね。5年くらい前に東京に引っ越してきたときに、子どものときに買えなかったエアブラシとかコンプレッサーを買って、またプラモデルをやったんです。楽しかったけど、ある程度できたら満足しちゃって。また次の趣味を探してるなあ(笑)。
――それじゃあ、趣味はどんどん変わっていくんですね。
奇妙 : そうですね。没頭できれば人って無敵やなと思います。友達もいらないですし。
――音楽は人と一緒に何か作っていくことが楽しいけど、趣味では打って変わって一人で没頭するものが良いんですね。
奇妙 : ああ、でもライブで歌うときはどちらかというと没頭に近いかも。
――ソロとバンドではまた違うとは思いますが、自分の世界に入り込んで歌っているんですか?
奇妙 : 没頭するってことは、その場所とか、そこにいる人と息が合ってないと。自分の世界というよりは……うーん……例えるならサーフィンかな。人がボードに乗って、波に合わせることでいい波に乗れる。
――ああ、なるほど!すごく分かりやすいです。
奇妙 : それで完成されるものなので。……サーフィンに例えるのかっこ良すぎるな(笑)。まあ、凧揚げでも一緒ですよ。風を見なあかんし、だから、何にしても自分だけでできることはないと思いますね。それで言うとレースも一緒ですね。車とかタイヤとか。……サーフィンは嫌やなあ(笑)。
――でも、一番分かりやすかったですよ(笑)。
奇妙 : まあ、サーフィンで良いか。サーフィンもしようかな。でも人前で裸になるのは無理やな。海の怖さよりも乳首が恥ずかしい(笑)。
――(笑)
奇妙 : とにかく、何かに没頭して他のことを忘れるって、自由になれるというか、自分自身から離れられる気がするんです。
アルバムが完成してみて
――アルバムの第一印象として、ジャケットの写真がすごく良いと思ったんです。
奇妙 : 省念くんの一番新しい『桃源郷』ってアルバムのジャケット写真を撮ってる吉川然(よしかわぜん)くんが撮ってくれました。今回のアルバムのジャケットを考えてたときに紹介してもらったんです。
――初めて会ってみて、吉川さんはどんな方でした?
奇妙 : すごく若い方でした。16歳くらいかな。
――えっ!20代にもなってないんですね!ちなみにこの写真はどうやって撮ったんですか?
奇妙 : 実は詳しいことは知らなくて。というのも、この写真に僕はいないんです(笑)。
――あ!よく見たら、これは「奇妙さんの写真」なんですね!
奇妙 : そう。僕の写真を省念くんが持っていて、それを然くんがカラフルなフィルムをカメラに巻いて撮ってるみたい。他にも撮ってもらったものをいろいろ見てたんですけど、ジャケットにはなんとなくこれがいいなって。後々眺めてみたらすごくアルバムの中身を表してる。省念くんのスタジオで、省念くんが僕の写真持って、ぐるって包んで撮って(録って)いるって状況が、まさにこのアルバムの内容なんですよね。カラフルなのも、いろんな曲が入ってることを表してる。ちょっと霊的なものを感じます(笑)。
吉川さんのインスタグラム。アルバムジャケットの他にも奇妙さんを撮影した写真がブックレットに使用されている
――アルバム全体のアートディレクションも吉田さんがされたんですね。
奇妙 : そうですね。本当になんでもできる。謎です。友達やけど(笑)。
――一番最初にできた「水面の輪舞曲」は、アルバム全体に対してどんなエッセンスになりましたか?
奇妙 : 他の曲にないところとしては、この曲を最初に聞いたときにすごく三途の川のことを歌ってる感じがしたかな。今聞いてもそう思います。
映画「愛しのアイリーン」予告編
――最初にできた曲だけど、〆というか、終わりに近い感じはしますね。
奇妙 : 墓参りっていうか、お盆っていうか。……違うかな(笑)。
――(笑)ロックもフォークも、それこそ輪舞曲もある、バラエティ豊かな内容ですが、実際にアルバムとしてパッケージしてみて、浮かび上がってきたテーマはありますか?
奇妙 : ははは。そうですね……なんか……そうですね……なんというか……なんか……そうですね……何かあるかもしれない。
――難しい質問になってしまってすみません……!
奇妙 : そうですね……そういえば、「3人ともロマンチックやな」って話はしてましたね。
――なるほど。例えばどういったところですか?
奇妙 : 「星」とか「月」が出てくるなあって。
奇妙礼太郎「More Music」アルバムダイジェスト
――確かに。曲のタイトルにもありますしね。その一方で表題曲は吉田さんが作られた曲ですが、なぜこれがアルバムのタイトルになったんですか?
奇妙 : 自分がタイトルを考えると、広告っぽいというか、人の気を引くように見出しみたいな感覚で付けてしまうんです。そうじゃないタイトルにしたいなと悩んでいたとき、省念くんが「自分の曲やけど、これタイトルにしたらどうかな」って言ってくれて。すごくぴったりやなあと思って、すんなり決まりましたね。
――タイトルってすごく大事ですよね。生まれた子に付ける名前みたいなものですもんね。
奇妙 : うん。誰かが言ってたんですけど、「新しいポール・マッカートニーのアルバムの内容がめちゃくちゃ素晴らしいのに、曲のタイトルがめっちゃ付けるの面倒くさいんやろうなって感じでついてる」って。「I don’t know」とか、ポイポイッて付けたみたいに。それ見て笑ってもうた(笑)。
ポール・マッカートニー「I don’t Know」
――ははは(笑)。
奇妙 : このレベルの人たちはさすがですね。僕、11月1日ポール・マッカートニー観に行くんですけど。……やばいな、ポール・マッカートニーを観に行った次の日は名古屋でライブや。
――良いものを得て、名古屋で出していただければ(笑)。
奇妙 : そうですね(笑)。
――ライブも楽しみにしています、ありがとうございました!
〈奇妙礼太郎 最新リリース情報〉
奇妙礼太郎『More Music』
発売日:2018年9月26日(水)
品番:WPCL-12933 WMJ / unBORDE
価格 ¥2,800(税抜)
1.エロい関係
2.強靭な肉体
3.セカンドライン
4.眠れないなぁ
5.ロックンロールコンプレックス
6.東京23区
7.穴
8.星
9.More Music
10.同じ月を見ている
11.水面の輪舞曲
ストリーミング配信はこちら
〈奇妙礼太郎ワンマンライブ『More Music』リリースツアー〉
2018.10.26 香 川|高 松 DIME
2018.10.28 福 岡|福 岡 BEAT STATION
2018.11.02 愛 知|名古屋 CLUB QUATTRO
2018.11.03 大 阪|梅 田 CLUB QUATTRO
2018.11.04 広 島|広 島 SECOND CRUTCH
2018.11.09 宮 城|仙 台 MACANA
2018.11.11 北海道|札 幌 cube garden
2018.11.18 東 京|鶯 谷 キネマ倶楽部
前売 ¥3,800(ドリンク代別)
各種プレイガイドにて発売
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