・・・まぁ、映画を超えることはないですけれども。
音楽であることに変わりはないですが、サントラは本来映画を前提として制作(または編集)されるものですから、その存在は副次的である場合が多いです。音楽が観客の意識の外で鳴っていることもしばしば。
けれども、どうしようもなく惹かれてしまうサントラはやはり存在します。最近ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァーによる『グッド・タイム』の音楽がそうでした。
今回の記事では、映画の影の立役者たるサウンドトラックにフォーカスします。宿命すら感じさせる映画との絶妙な融合を刮目せよ。
1. この作品なしには語れない。音楽映画の新たな金字塔『シング・ストリート』
良い音楽映画は山ほどありますが、本作は間違いなく歴史に名を残す音楽映画でしょう。監督のジョン・カーニーは元々ミュージシャンだったこともあって、音楽の可能性をとことんまでに突き詰めています。これまでにも『ONCE ダブリンの街角で』、『はじまりのうた』でそれを追求してきましたが本作はそのわずかな機微に至るまで描写しています。
『シング・ストリート 未来へのうた』予告編
日本公開が2016年と、まだ語りつくされたばかりですから詳しくは他に譲るとして、ここでは改めて本作と共にサントラを激推しします。
余談ですけれども、筆者は本作の重要なファクターとなる「ザ・80年代の音楽」があまり好きではありませんでした。けれども、この得も言われぬ説得力には一発でノックアウト。苦手だったデュラン・デュランごと「ザ・80年代」を聴き直そうと思った次第です。ザ・キュアーもザ・ジャムも本当最高でした。
2. ネオン・デーモンの背徳的美意識
『ドライヴ』や『オンリー・ゴッド』で知られるニコラス・ウィンディング・レフン監督。独特な色彩感覚と圧倒的な美的センスが特徴の彼による映画『ネオン・デーモン』。第69回カンヌ国際映画祭ではパルムドール(最高賞)を争いました。本作もまた、レフン節が炸裂しています。美しさと表裏一体の醜悪な欲望。これがレフンの手により、妖しくも心惑わす映像表現に仕上がっております。
『ネオン・デーモン』予告編
その世界観において一役も二役も買っているのが、音楽を担当したクリフ・マルティネス。『ドライブ』から続くこのコンビは、今や鉄板と言って良いでしょう。
『ドライブ』しかり『オンリー・ゴッド』しかり、アンビエントだけれどもどこか禍々しいクリフ・マルティネスの音楽。レフン監督とはもはや阿吽の呼吸です。ときにグロテスクなレフンの描写にピタリとはまるスコアを書けるのはこの人しかいない。
3. アイスランドの巨匠による『博士と彼女のセオリー』のアカデミー賞級旋律
イギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキングと彼の元妻であるジェーン・ホーキングの半生を描いた『博士と彼女のセオリー』。第87回アカデミー賞では5部門にノミネートされ、主人公のホーキング博士を演じたエディ・レッドメインは主演男優賞を受賞しました。数々の名誉を手にした本作ですけれども、そのひとつが音楽です。
『博士と彼女のセオリー』予告編
サウンドトラックを担当したのはアイスランドの巨匠、ヨハン・ヨハンソン。ポストクラシカルというジャンルの元祖と目される人物です。「アイスランドがなぜ優れたアーティストを多く輩出するのか?」という議論が度々起こりますけども、その答えに限りなく近いのがこの人です。この記事ではそこに切り込む余裕がないので、ここではとりあえず『博士と彼女のセオリー』のサウンドトラックを聴いてみましょう。
電子音楽と生音のバランスが心地よい。アカデミー賞こそ逃しましたが、本作でヨハン・ヨハンソンはゴールデン・グローブ賞(作曲部門)を受賞しております。元々は映画音楽を生業としているわけではなかったヨハン・ヨハンソンですが、今や映画界からも引く手あまた。今年日本で公開された映画では『メッセージ』が代表的ですね。なお、今年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(最高賞)を争った『マザー!(まさかの日本公開中止)』でも音楽を担当しております。
4. 『エブリバディ・ウォンツ・サム! ! 世界はボクらの手の中に』の音楽に見る80’sの風景
『6歳のボクが、大人になるまで。』や『ビフォア・ミッドナイト』のリチャード・リンクレイターによる2016年公開の映画、『エブリバディ・ウォンツ・サム! ! 世界はボクらの手の中に』。長い邦題ですね。ちなみに原題の”Everybody Wants Some!!”はヴァン・ヘイレンの同名楽曲に由来します。
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』予告編
80年代が今まさに始まらんとする1980年、アメリカはテキサスの架空の学校「サウスイーストテキサス大学」が本作の舞台です。いやはや、80’sアメリカの大学生は今の日本のパリピ学生の200倍程度は人生を謳歌していたのですね。羨ましさを通り越して嫉妬しました。そんな彼らの姿を彩るのは、70年代後半~80年代のヒット曲の数々。
青春時代に音楽の存在がいかに重要なのかがよく分かる映画です。僕は決してリアルタイムでこの時代を経験しているわけではないし、『マイ・シャローナ』も『ラッパーズ・ディライト』も後追いで知ったクチです。けれども、この映画には得も言われぬノスタルジーを感じてしまいました。その普遍性を引き出しているのは、他ならぬ音楽であったなと。そう思うのです。
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