映画を観る時、どこに一番気持ちが引っ張られるだろうか。おそらく、「ストーリー」と答える人がほとんどだろう。そんな中、ストーリーはもちろんのこと「映像と衣装の美しさ」に心が揺さぶられる映画が6月3日に公開される。
伝説のダンサー、ロイ・フラーを描いた映画『ザ・ダンサー』である。
◆『ロイ・フラー』とは……?
映画『ザ・ダンサー』の舞台は19世紀ベル・エポック。印象派やキュビズムなど、新しいアートが次々と誕生したこの時代には、様々な才能あふれる新進アーティストが存在した。その中でも唯一無二のダンスを生み出し、人々を熱狂させたのがロイ・フラーである。彼女のダンスは、指先を覆うほど長い真っ白なシルクを使った衣装を身にまとい、長いバトンを持って舞うようにクルクルと踊る。
しかし、それだけではない。照明の色や角度、切り替えのタイミングなども自らプロデュースしたのである。舞うように揺れるシルクの布と光のコントラストは、これまのダンスとは一線を画し、「サーペインダンス」と呼ばれるようになる。はじめは無名の女優だったロイが、この「サーペンタインダンス」を武器に夢であったオペラ座で講演を行なうまでに上り詰めていく。そこに至るまでのロイの強い信念と葛藤、試練と裏切り、愛と友情…さまざまな人間模様と心情が描かれているのが、『ザ・ダンサー』なのだ。
◆心奪われる映像と衣装の美しさ
そのストーリーも然ることながら、『ザ・ダンサー』の魅力はその映像美にあると思う。メインビジュアルひとつとっても、それが伝わるだろう。黒と白、ロイ・フラーを演じるソーコの美しい肌の色、全てがコントラストとなってこの映画の世界観を表現している。ダンスシーンでは、シルクの布と光が織りなす見たことのない美しさに圧倒されるだろう。
また、ダンスシーン以外でもキャストたちの衣装が美しい。ジゴ袖が特徴的なソーコのドレス、女性ダンサーたちが着ているアール・ヌーヴォースタイルのドレス、コルセットでウエストを締めたS字ラインのドレス……、19世紀にフランスで流行したスタイルが美しく再現されている。中には、1920年代に流行したオリエンタリズムやギャルソンヌスタイルなどのドレスを意識したものもある。
2017年の今、女性たちは「いかにスリムであるか」に美の価値を見出しているが、この美しい衣装と身のこなしを見ていると、細いだけが美しさではないと再確認できるほどだ。
◆個性的なキャストにも注目
映像、衣装の美しさの他、キャストの豪華さにも注目してみたい。ロイ・フラーを演じるのは、ミュージシャンとしても大ブレイクを果たしているソーコ。2012年に発表したシングル『We Might Be Dead by Tomorrow』は全米ビルボードのシングル・チャートで9位にランクインしている。語るように歌う彼女の歌声は、ロイ・フラーのダンスのように唯一無二だ。
さらに特筆したいのは、才能溢れ、輝きを放つ若きダンサーのイサドラ・ダンカンを演じる、リリー=ローズ・デップ。彼女は何を隠そうバネッサ・パラディとジョニー・デップの愛娘。演じたイサドラに負けず劣らず、実に魅力的な人物である。彼女がポップアイコンとして様々な活躍を見せているのはご存知だろう。3月17日に発売されたCHANELの新作グロス「ルージュ ココ グロス」のビジュアルを務めたことは記憶に新しい。Instagramも今や約300万人のフォロワーがおり、フォトジェニックな写真を多々投稿してくれている。
様々な魅力を持っているリリーだが、とりわけ意志の強い瞳が印象的。その瞳には、彼女の生き方自体が表れていると感じる。例えば、2015年にLGBTのイベント『セルフ・エヴィデント・トゥルース・プロジェクト』に参加し、自身をセクシャル・フルイディティとカミングアウト。友人で写真家のアイオ・ティレット・ライトのInstagramでも、その旨が投稿され、多くのメディアに取り上げられた。
こうして、臆せずに自分の考えを発信していく姿が、キュートだけでないリリーの美しさに結びついているのではないだろうか。
思わず見入ってしまう映像、シルエットが美しい衣装、魅力的なキャスト……。『ザ・ダンサー』には、美意識が揺さぶられる要素が多々詰まっている。
6/3(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
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