オルタナティブな少年少女たち
昨年の暮れに開催された『COUNTDOWN JAPAN 16/17(以下CDJ)』で、予備知識を全く持たずに観たバンドがあった。彼らの名前は『ニトロデイ』。ややあどけなさが残るルックスであるが、骨太なオルタナ・サウンドを鳴らす。一聴しただけで卓越した才能を備えているのが分かった。
きっと若いだろうとは思っていたけれども、まさか彼らが高校生だとは思わなかった。帰宅後にプロフィールをググってみたところ、全員18歳以下。ドラムの岩方ロクローだけは一つ学年が上だが、CDJ出場時は紛れもなく高校生である。いや、高校生だと言われれば高校生に見えるのだけれど、彼らが鳴らす音には年齢にそぐわぬヴィンテージな質感があったのだ。
ニトロデイ – 『COUNTDOWN JAPAN 16/17』 12月30日 MOON STAGE出演
アウトロに響くディレイ。この気の利かせ方が高校生で出来るという早熟ぶり。言葉少なではあったが、ライブのMCで語られた口説からは、内に秘めたる闘志が感じられた。「今日、ここはゴールじゃなくて一歩目です。でっかい階段の一歩目。ここから登っていって、歴史に名が残るようなバンドになります」
このときから約4ヶ月。岩方は高校を卒業し、他のメンバーはそれぞれ高校3年生になった。バンドとしてだけでなく、大人への階段を登り始めている一人の人間として、人生の岐路に立っている。そんな彼らに、普段活動している横浜で話を聞いた(ベースの松島早紀は所用につきフォトセッションのみ)。
Photography_REIJI YAMASAKI
text_Yuki Kawasaki
Edit_司馬ゆいか, ADO ISHINO(E inc.)
ニトロデイ、ルーツの色々。
小室 : バンドの成り立ち…。どこから話せば良いですかね。まず、僕が高校の軽音楽部に入ったんです。そこでは最初コピーバンドをやってました。そこで演奏しているうちに、自分で曲を作りたいと思うようになったんです。そのときは部活の仲間たちとやっていたので、ニトロデイのメンバーとは全然関係がなかった。で、そのバンドでライブハウスのイベントに何回か出させてもらって、ロクローくんとやぎに出会ったんです。実はそのときはあまりロックっぽい音楽をやってなくて、『なんか違うなぁ』と思ってた時期で。新しいバンドを始めようとしてた時期に、たまたま二人と交流ができた。そこから一度セッションしてみて、感触が良かったんです。その段階で、僕と同じ軽音楽部に入ってた松島を誘いました。
– – SNS全盛の今、何ともアナログなコミュニケーションである。「メタルバンドやってます!ラーズ・ウルリッヒが好きなドラマー募集」みたいなツイートも見かける中、彼らはより直接的な関わりを求めた。SNSによるコミュニケーションが軽薄だとは思わないけれど、彼らを見ているとやはり対面で会話することは重要だと感じる。ややぶっきらぼうに「僕がちゃんと話せる人としかバンドを組めない人間なので」と言う小室の様子から、バンドの絆の強さが窺えた。
やぎ :
– – 小室を「この人」と呼ぶところに、何だかくすぐったさを感じてしまった。音楽に対する接し方は他のメンバーも同じようで、岩方も松島も日本の音楽を中心に聴いているという。
小室 :
– – 音楽に関する共通認識は取れているようだ。
岩方 : 確かに僕らは洋楽は聴かないんですけど、ぺいがやりたいことは何となく分かりますね。
Nirvana – 『Lithium』
– – ニトロデイの楽曲の中に、『ティーンエイジブルー』というのがある。これがものすごく初期衝動的というか、負のエネルギーに溢れた曲なのだけれども、とにかく僕が個人的に大好きな曲だ。彼らもバンドを結成した当初は「名刺代わり」としていたらしいのだが、最近はどうも披露の場がない。現在発売中のファースト・ミニアルバム、『16678』にも収録されていない。贔屓目なしに楽曲のクオリティは高く、無頼派が書いたような歌詞も秀逸だ。何か理由があるのだろうか。ちなみにこの曲が作られたのは、小室が高校一年生の頃である。
小室 : あの曲を作ったときとは、自分の内面が変わってるんですよね。今この曲を演奏するのは少し恥ずかしい。あの頃の気持ちが全く無くなったわけじゃないんですけど、何となく青臭く感じるというか。『主張が激しいバンド』と思われるのが今はイヤなんです。『俺は周りとは違うんだ!』みたいなことを言いたくない。それから、バンドができることが増えてきたのも大きいです。『ティーンエイジブルー』はそもそもマネで作った曲なんですよ。さっき挙げたようなアーティストの音楽を見よう見まねでやってみた、というか。それが最近では自分たちで曲を作れるようになってきた。
– – この原稿を書きながら気づいたのだけれど、僕は彼の言ったことをほとんど直していない。彼の口から出てくる言葉をそのまま書き並べている。それほどに彼の言うことは道筋がはっきりしていて、理路整然としている。自分たちのことを客観視する眼差しも冷静だ。
ニトロデイ – 『ティーンエイジブルー』
岩方 : それから歌詞についてなんですけど、多分ぺいは誰かに宛てているわけじゃないんです。(小室のほうを向きながら)一対一の関係で歌詞書かないよね。特定の誰かにメッセージを向けているわけではないと思います。何というか、空気に向かって歌ってる。
– – 小室もこう続ける。
小室 : 元々そういう視点で物事を考えないっていうか。誰かに何かを伝えたいと思ったことがないんです。だから僕たちの曲にはメッセージ性みたいなものがないんですよね。ただただ思ったことを言ってるだけで。最終的に何かしらのメッセージが出ることはありますけど、最初からそういうことを意図してることは少ないです。
– – 「空気に向かって歌っている」というのは言い得て妙な表現だと思う。小室の歌詞は普遍性があるのだけれど、抽象度も高い。『八月』とか『ねずみの泪』とか、具体的なモチーフが羅列されるのだが、その世界観はどこか退廃的でモヤがかかっている。その空気感がリスナーに「メッセージ」として受け取られるのだろう。つまり、彼は単純に描写が上手いのだ。
小室 : 僕は小説も好きなので、そこからヒントをもらうこともあります。江國香織、川上未映子、金原ひとみとか、女性の小説家が書いた本が好きなんですよね。世界観にインスパイアされることも多いんですけど、僕は風景の描き方を参考にしてます。
– – 高校生の時分というのはもっと無根拠で、向こう見ずなものではなかったか。少なくともここまで具体的で筋の通った説明ができる17歳は極少数だろう。それぞれの質問に対し、納得の行く答えが返ってくる。彼らは知性も知識も備えているのだ。ただ、ここまで達観(さとり世代的な揶揄ではなく)できていると、同世代と乖離する部分はないのだろうか。
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