凛として時雨のフロントマン、TKのソロプロジェクト。その魅力に迫る。
ロックバンドの中心人物によるソロプロジェクト。それは、2000年代まではバンドの解散、もしくは活動休止を意味していました。しかし近年、長いキャリアを誇るバンドのフロントマンが、バンドでの活動と並行してソロプロジェクトで作品を発表することは当たり前になってきています。有名な例を挙げると、レディオヘッドのトム・ヨークやRADWIMPSの野田洋次郎は、バンドで積み上げてきたソングライティングのセンスを、また別の形で表現しているアーティストです。
スリーピースバンド凛として時雨のギターボーカルのTKもその一人。彼はバンドとしての活動も精力的に続けながら、ソロプロジェクトTK from 凛として時雨としても音楽を作り続けています。
スリーピースにこだわらない新たなサウンド。TK from 凛として時雨が追求するパーソナルな表現とは?
TKがソロ活動を開始したのは2011年。彼は2005年にベーシストの345とドラムのピエール中野と凛として時雨を結成して以来、スリーピースのギターロックサウンドとハイトーンボイスで日本のロックシーンに衝撃を与えていました。ソロデビューの前年はちょうどアルバム『still a Sigure virgin?』でオリコンチャート1位を記録した頃。彼らは音楽シーンの中で、地位を確固たるものにしていました。
その一方、結成から5年を経て、TKの中にはスリーピースのサウンドには収まらない音楽も生まれつつありました。そして2011年4月にはフォトブックとDVD付きの形態で初のソロ作品「film A moment」をリリース。ギターをかき鳴らしシャウトする凛として時雨のTKとは打って変わり、繊細な手触りの楽曲たちが並びます。そして翌年にはファーストフルアルバム『flowering』をリリース。前作の流れを汲んだこの作品は、多くのゲストミュージシャンたちが参加。凛として時雨とは異なる内省的な世界を、多彩なサウンドで表現したのです。
ソロ活動期間中はバンドとしての活動を一時中断していたTKですが、この作品のリリース後の2013年には凛として時雨の活動を再開。それでも、ソロとしての活動もコンスタントに行い、これまでに3枚のアルバムと2枚のEP、そして4枚のシングルをリリースしています。凛として時雨の活動再開後は、ソロの繊細な世界観とバンドでの激しいギターサウンドが融合。TKのパーソナルな部分を、よりソリッドかつエモーショナルに表現しているように感じます。
激しくも繊細なTK from 凛として時雨の名曲5選
TK自身はバンドとソロの音楽制作の違いを「表現に制約のないこと」であると以前のインタビューで語っています。その言葉通り、ソロの楽曲ではバンドのサウンドにこだわらず、打ち込みやストリングス、そしてピアノを積極的にフィーチャー。音像の表現に広がりが生まれたことで、TKのソングライティングの持つ「繊細さ」がより強調されていますす。そんなTK from 凛として時雨が生み出した、激しくも繊細な名曲たちを紹介していきます。
「film a moment」
TKが撮った写真とDVD収録のフォトブックという特殊な形態でリリースされた、同名の作品に収録された楽曲。早弾きのピアノから始まるイントロは、凛として時雨とは異なる表現を追求しようとしている彼の宣言のように聴こえます。アレンジもバンドの時のノイジーさを残しつつも、音の空間を生かしたような揺らぎのあるリズムが印象的です。浮遊感のある言葉とメロディを丁寧に歌うTKの歌声は、メランコリックな世界にリスナーを誘います。余談ですが、ギターを担当したのは凛として時雨のドラマー、ピエール中野。楽曲の中で激しく動き回るギターフレーズからは、彼のギタリストとしての才覚も感じます。
「unrevel」
TK from 凛として時雨名義での初のシングルであり、人気マンガが原作のアニメ『東京喰種 トーキョーグール』の主題歌。この曲で初めてTKのソロ活動を知ったリスナーも多いのではないでしょうか。打ち込みのビートと共に囁くような歌声が響き、ピアノとギター、ストリングスのリフの掛け合いが楽曲の始まりを告げます。リフをピアノとストリングスで再現するという発想は、多くのギター少年たちを熱狂させたTKならではのものでしょう。また、様々なサウンドが入り乱れながらエモーショナルなサビになだれ込んでいく構成は、バンドサウンドとは一味違った刺激をリスナーに与えます。
「tokio」
TKのソングライティングの特徴といえば、声や言葉の響き、メロディをバンドサウンドと一体化させることですが、ピアノの弾き語り曲である「tokio」はTKの歌声とメロディが前面に押し出されています。そうして気がつくことは、彼の声の繊細さと紡ぎ出されるメロディの美しさです。また、シンプルな構成がゆえにTKの言葉がより一層染み入るのもこの曲の魅力。「tokio」というタイトルの通り、都市の生活の中での欠落感を歌います。この楽曲の制作とレコーディングはベルリンで行われたそう。デヴィット・ボウイをはじめとした伝説的なミュージシャンが音楽制作を行った地であり、いつもの生活環境と異なる場所だからこそ生まれた私小説的な名曲と言えるのではないでしょうか。
「Secret Sensation」
「tokio」同様ベルリンでレコーディングされたセカンドミニアルバム『Secret Sensation』の表題曲。TKはベルリンに赴いた際にクラブに行ったそう。そこから得たインスピレーションを楽曲として結実させました。ミニマルテクノのような音像から始まるこの楽曲は、ドラムのフィルと共に四つ打ちのダンスミュージックへと変貌を遂げます。またエレクトロハウスにおけるドロップ(ダンスミュージックにおけるサビ)や、ディレイの効いたギターやスラップベース、そしてシャウトと絡み合うストリングスが一つの曲の中で入り乱れ、不穏な響きをもたらします。まさに、ロックとダンスミュージックを新しい形で融合させた楽曲です。
「P.S.RED I」
アメコミヒーロー、スパイダーマンを新しい解釈でアニメ化した作品「スパイダーマン:スパイダーマンバース」の日本版主題歌。斬新な映像表現で話題を生んだ今作ですが、この曲もノイジーでセンセーショナルな楽曲です。次々と移り変わり、つかみの所のないメロディとアレンジの中心に据えられているのは、冒頭に登場するギターリフ。この単音弾きのリフが、様々な形で楽曲中に登場することで不思議な統一感が生まれています。歌詞も映画の内容に合わせて、「赤」や「飛び降りる」、「不自由の女神」といったスパイダーマンを彷彿させるワードが出てきたり、「Spider」と「spyだ」、「Spiral」と自然な韻を踏んでいます。アメリカ版の主題歌ではヒップホップをフィーチャーしたこの作品に、TKは新たな形で解釈を加えたのです。
バックバンドにも注目。楽曲の世界を立体的に表現したライブ
凛として時雨の初期から、数多くのライブを行うことで知られているTKですが、ソロでも毎年精力的にライブを開催しています。彼のソロライブの魅力は、多彩な音像をスキルフルなプレイヤーが再現すること。近年のライブでは、ドラムにフジファブリックやMIYAVIのサポートで知られるBOBO据え、ベースには元ZAZEN BOYSの吉田一郎不可触世界が参加。どちらもリズムを正しく刻みながら、独特の「揺らぎ」を音に込めるプレイヤーです。他にもピアノとバイオリンもライブには参加し、TK from 凛と時雨の楽曲の核となる音を立体的に再現しています。彼の繊細かつ激しい世界は、ライブ会場で味わうことでよりリスナーの心により立体的に響くことでしょう。
SHARE
Written by