葛飾という街で。
4月19日、かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホールにて。何を隠そう、ザ・クロマニヨンズのワンマンライブである。最新アルバム『BIMBOROLL』の全国ツアーだ。2016年の暮れより本ツアーをスタートした彼らは、長野県に始まって全国津々浦々を巡った。東京は全部で4会場。リキッドルームとTOKYO DOME CITY HALLと福生市民会館、そして今回。本人たちに他意はないのかもしれないけれど、福生や葛飾を選んだというところに彼ららしさを感じてしまう。渋谷や後楽園で観るクロマニヨンズも良いんだけど、働く男の香りを色濃く感じる街でこそ、彼らの音楽は映える。
世代を超えて共有する、クロマニヨンズのパンクな精神
そんな街の空気が作用しているのか、この日は会場全体がどこかアットホームだった。年齢層もバラバラだし、普段身を置いている文化圏も恐らく違うだろう。もちろん彼らだって渋谷に遊びに行くだろうし、むしろ都心で過ごす時間のほうが多い人もいたかもしれない。それでも、会場の雰囲気には風土のようなものがあった。こうなるとライブは俄然良いものになる。アーティストにしろオーディエンスにしろ、お互い変な気負いがないので伸び伸び楽しめるのだ。
そんなもんで、一曲目の『おれ今日バイク』からボルテージはMAX。クロマニヨンズの曲はいつも極端に言葉数が少ないのだけど、彼らはそのたった数文字にありったけの感情を乗せ、オーディエンスを熱くさせる。『光線銃』に『マキシマム』と、ロックンロールを待ち望んだ会場の室温をぐんぐんあげていく。『BIMBOROLL』に収録されている楽曲群は、“抽象的だが、何となく言いたいことが分かる”というクロマニヨンズの特徴が出ているように思うのだ。『デトマソパンテーラを見た』に至っては、なんとクリームパンがモチーフとして採用されている。甲本ヒロト(Vo.)だけでなく真島昌利(Gt.)が書く歌詞にもそれは言えて、先述の『マキシマム』や『もれている』もやはり抽象的である。それでもオーディエンスは抗いようもなく引き込まれ、彼らから発せられる言葉に対し拳を突き上げるのだった。
これは僕の意見であるが、ブルーハーツやハイロウズまで遡れば、彼らの書く歌詞はもっと直接的であった。極端な例だけれども、『人にやさしく』や『日曜日よりの使者』の頃と今とでは、言葉による伝え方が変わったのではないかと思う。もちろん、どちらが良い悪いという話がしたいのではなく、僕はこれが彼らなりの「年齢の重ね方」なのだと解釈した。
若造はクロマニヨンズに二度出会う。
ところで僕は24歳。クロマニヨンズのファンの中では若いほうだろう。今回のライブで思ったのだけれど、恐らく僕と同年代の人たちは、彼らの音楽を二度発見するのではなかろうか。マスメディアによってまず彼らと出会う。そのときは音楽的な背景を何も知らぬまま、『タリホー』に心を持って行かれたわけだ。何せ当時は中学生、ただ漠然と「かっこいい」としか感想が出てこなかった。そしてその後、YouTubeやSNSを介することにより海外の音楽に触れることも容易くなった。イギー・ポップやジェットを知る頃には、そこそこリテラシーが高くなっている。そして邦楽と洋楽の境界線が曖昧になった今、若造の僕はもう一度クロマニヨンズに出会うのだ。
ザ・クロマニヨンズ – 『スピードとナイフ』
ロックンロールに酔いしれるライブは中盤戦へ。
『スピードとナイフ』のベースラインが流れたとき、何かが繋がった気がした。イギー・ポップとジェットがここにいるわけじゃないのに、あたかも彼らがすぐ近くにいるような感覚を覚えた。イギーに至っては生でライブを観たことすらないのだけれど、場所や時空を超えてリンクするものが確かにあったのだ。頭では分かっているつもりだったけれど、このとき初めて、彼らの音楽をちゃんと理解できた気がした。そして、このあと間髪入れずに続いたのが『ムーンベイビー』。唸りに唸る真島のギターが印象的で、この曲もロックンロールのマナーに裏打ちされたものである。その意味でも、やはり上に挙げたようなアーティストと地続きであった。
この瞬間までに実に1時間近くが経過していたわけだけれど、体感としてはほんの一瞬である。あっという間に時が過ぎていった。「もう何をやってもロックンロールにしてしまいますので!みんなも今日この最高の時間、そこで過ごしてください!俺達もここで最高に楽しく過ごすから」と、甲本は言う。
身近な物をフィルターに様々な思いを発露させるという方法論、実は意図的に実践しているのでは。「何をやっても」という言葉が、潔さと共に様々な葛藤を感じさせる。出る杭は炎上する昨今、ロックの肩身はますます狭くなった。であれば、森羅万象をロックの範疇に押し込んでしまえば良い。今のクロマニヨンズは、そういう振り切り方をしているように思う。まぁ、憶測の域を出ないのだけど。
で、そんな中『ピート』は例外である。彼らの内省や希求が、この曲にははっきり現れている。もとより曲のタイトルがザ・フーのピート・タウンゼント(彼らのヒーロー)に由来するわけだから、そりゃあ内省的にもなるわけだけれど、それを差し引いてもこの曲に込められた純粋性には若造の僕もハッとさせられる。オーディエンスにもそれが伝わっていたのか、シンガロングの声が一層強く響いていた。
卑猥さを超えるロックンロール!
そもそもロックは卑猥な音楽である。例えば、クロマニヨンズの面々がルーツのひとつとしているローリング・ストーンズ。『Brown Sugar』や『Parachute Woman』なんて、歌詞の意味を解せれば赤面ものだ。だが彼らにはいやらしさを感じない。ストーンズがそうであるように、クロマニヨンズもまたその域に達しているのだ。この日のMCで、甲本は股間をまさぐりながらこう言った。「なんかこれ、生まれたときからずっとココにあるんだよなぁ。大して役にも立たねぇんだけど。…使わせて欲しい!!」。いくらライブとは言え、公衆の面前でこのセリフを言い放てる日本人は彼ぐらいだ。そしてこのMCのあと、オーディンスを煽りに煽って『ペテン師ロック』を披露する。
ザ・クロマニヨンズ – 『ペテン師ロック』
甲本のブルースハープが際立つロックンロール・ナンバーだ。ここから後半にかけての盛り上がりは凄まじく、『エルビス(仮)』、『突撃ロック』、『エイトビート』、『雷雨決行』などの既存楽曲が立て続けに演奏された。『エイトビート』から『雷雨決行』までの繋ぎは見事なもので、ハイテンポで複雑な展開なのに移行がスムーズなのである。こんなにカッコ良かったら卑猥な言い回しもきっちりハマるってもんです。
ザ・クロマニヨンズ – 『雷雨決行』
終わりを惜しんだアンコール。走り抜けたシンフォニー。
もう先に言ってしまおう。アンコールで披露されたのは、『笹塚夜定食』、『タリホー』、『ナンバーワン野郎』の3曲だ。ライブを終わらせる気がない。少なくともオーディンスの多くは、あともう一周同じセットリストを繰り返したとしても、喜んで受け入れたはずだ。そして個人的な思いを書かせてもらえるのなら、やっぱり『タリホー』。中学生のころに初めて聴いたときとは印象が変わったけれど、相変わらずカッコイイよ。ブルーハーツ時代も含めれば、甲本と真島は30年以上のキャリアがあるのだ。そりゃあ年季が違う。ストーンズの二人が70歳を超えてもドーム公演をバリバリこなしているが、その姿を将来の甲本と真島に重ねてしまう。「楽しかった!またやらせて下さい!」という甲本の無邪気な叫びを、僕は10年後も聞きたいと思う。今回は24歳の若造が感じたクロマニヨンズのライブを綴ったが、果たして10年後はどのように感じるだろうか。
ザ・クロマニヨンズ – 『タリホー』
Photography_柴田恵理
Text_Yuki Kawasaki
ザ・クロマニヨンズ TOUR BIMBOROLL 2016-2017 @ かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
セットリスト
1. おれ今日バイク
2. 光線銃
3. マキシマム
4. デトマソパンテーラを見た
5. ハードロック
6. もれている
7. モーリー・モーリー
8. スピードとナイフ
9. ムーンベイビー
10. ナイアガラ
11. 焼芋
12. 誰がために
13. ピート
14. ペテン師ロック
15. エルビス(仮)
16. 突撃ロック
17. エイトビート
18. 雷雨決行
19. ギリギリガガンガン
20. 大体そう
en. 笹塚夜定食
en. タリホー
en. ナンバーワン野郎!
■ザ・クロマニヨンズ
<公式サイト>
http://www.cro-magnons.net/
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