日本に逆輸入されつつあるRina Sawayama旋風
Rinaは、自身が経験してきたセクシュアル・マイノリティとしての苦しみや怒りを、主張として活動へ反映している。先に紹介した楽曲「Cherry」もそのうちのひとつだ。彼女のカルチャーアイコンとしての存在感は、ロンドンやアメリカを中心に日に日に高まっている。
「Cyber Stockholm Syndrome」 (Official Audio)
2017年には、ロンドンのカルチャー誌「Dazed」による「ロンドンのユースカルチャーを担う次世代『DAZED 100』」、ニューヨークのカルチャー誌「The FADER」による「2017年の知っておくべきアーティスト」に、あわせて選出された。現在はVOGUEやi-Dといった世界的に有名なファッション誌でモデルを務めるほか、Versus Versaceやadidasといった誰もが知るファッションブランドのキャンペーンモデルにも起用され、シーンへの影響力をさらに強めている状況がある。
日本国内では2016年に、大阪のファッションビル「ルクア」のキャンペーンや、ファッションブランド「DIESEL」の日本上陸30周年を記念したショーにモデルとして抜擢された。当時は“知る人ぞ知るアーティスト”という位置づけだったRinaの存在だが、ここにきて本格的に逆輸入されつつある現状だ。また、2019年6月には、TBS系ドキュメンタリー番組「情熱大陸」に出演。多様性と向き合いながらワールドワイドに活躍する彼女の姿が大きな反響を呼んだ。同年末には「VOGUE JAPAN Women of the Year 2019」にも選出。彼女の存在をまだ知らなかった日本のシーンにも、少しずつその名前が浸透を見せはじめている。
Rina Sawayamaの世界
自身の生き方を投影した、独特な世界観は、彼女がこれまでに発表してきた楽曲から感じることができる。この項では「Tunnel Vision」「Where U Are」「STFU!」の3曲を取り上げ、彼女の世界を紹介する。
「Tunnel Vision」(Official Video)
「Tunnel Vision」は、2017年発売のアルバム「RINA」に収録された楽曲。彼女がルーツとする音楽の存在を確かに感じられる1曲で、歌詞にはインターネットと若者の関係性に対する彼女の思うところが綴られている。音楽を通じて当たり障りのないメッセージを発信するのではなく、自身が日頃感じていることを提起していくのが、Rina Sawayamaのアートであり、アクティビティでもある。彼女が多くの人に支持される理由は、良い意味で“Japanized”されていない彼女のあり方によるところが大きい。
「Where U Are」 (Official Video)
「Where U Are」は、2015年にシングルとしてリリースされた楽曲。マライア・キャリーやレニー・クラヴィッツからの系譜を色濃く感じるナンバーで、先に紹介した「Tunnel Vision」とはまた違った彼女の世界を感じることができる。キャリアの中でも初期に発表された楽曲だが、すでに彼女の音楽性やアイコンとしての佇まいが確立されている。ケンブリッジでの日々は彼女の生き方だけでなく、アーティスト活動にも間違いなく好影響を与えているに違いない。
「STFU!」
「STFU!」は、2019年11月にリリースされた最新ナンバー。自身の音楽性を「Cute R&B」と語る彼女だが、この楽曲ではメタルやミクスチャーロックのような無骨で重厚なサウンドを聴かせてくれている。同曲では、自身がイギリスでの生活で感じた「マイクロアグレッション」(悪意のない、小さな差別のこと)に対する怒りを解き放つことをテーマとした。彼女が人生をかけて戦ってきた差別をオリジナルのユーモアでアートへと昇華するやり方は、アーティスト・Rina Sawayamaの真骨頂だ。
2010年代後半に世界中で注目を集めた彼女。2020年を見据えてリリースされた同楽曲は、これまでの生き方やアーティストとしての活動を集約した集大成と言えるものなのかもしれない。今年はこれまでにも増して精力的なリリースをおこなっていくとのこと。世界を股にかけるカルチャーアイコン・Rina Sawayamaの2020年から、一瞬たりとも目が離せない。
Rina Sawayama
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