TUBEのソングライター/ギタリストとして数々のヒットソングを生んできた春畑道哉には、もうひとつ、ソロという大きな顔がある。1987年から2018年までに9枚のオリジナル・アルバムを制作。また、1993年のJリーグ開幕とともに発表された公式テーマ・ソング「J‘S THEME(Jのテーマ)」が、ギター・インストゥルメンタルながらも多くの人々によって“歌い継がれる”国民的ソングとなったことをはじめ、数々のスポーツに関わるテーマ曲を手掛けてきた。
そして迎えた2019年。TUBEのデビューから数えると35周年を間近に控えた現在も、アーティストとしてのアップデートを止めない春畑は、フュージョンやヘビー・メタル、クラシックに沖縄民謡、エレクトロなど、さまざまな音楽性を採り入れた、キャリア史上最高レベルで多彩なトラック・メイキングのセンスが光る10枚目のアルバム『Continue』をリリース。さらにはフジテレビ系のサッカー中継曲「FANTASIA~LIFE WITH FOOTBALL」を作曲するなど、積極的な活動を展開する。そして12月18日には、新日本プロレス最大のイベント「バンドリ!Presents WRESTLE KINGDOM 14 in 東京ドーム」のテーマ曲として書き下ろした「Kingdom of the Heavens」をリリース。ヘビー・メタル~オルタナティブ・ロックのダイナミズムあり、打ち込みによるループの中毒性に目を向けた展開もありの、10年代最後を飾るにふさわしい、激情型アンセムが誕生した。
そこで、今回は春畑のルーツやこれまでに手掛けてきたスポーツ・テーマソングの歴史、これからのミュージシャン/ギタリストとしての在り方までを堀り下げるインタビューをおこない、あらためてソロ・キャリアの魅力に迫った。
Photo_Taichi Nishimaki
Hair&Make_Jun Matsumoto(tsujimanagement)
Text_Taishi Iwami
春畑道哉のルーツ
――春畑と言えば、前述のような“歌えるギター・フレーズ”あり、ヘビーなリフあり、シャープなソロあり……、と書ききれないほどのテクニカルかつ人間味のあるギター・プレイと、その持ち味にさまざまな角度からスポットを当てるトラック・メイキングのセンスが特徴だ。では、彼の音楽的なルーツは、どこにあるのだろうか。
春畑 : ギターに出会ったのは中学の頃。小学校を卒業するまではピアノを習っていたことを、どこかで聞きつけた先輩に、「キーボードできるだろ」って、半ば強引にバンド・メンバーに入れられたんです。そこで、その先輩がギターを弾いている姿を見て、「こんなにもエモーショナルで人を盛り上げられる楽器があるんだ」と感動したことが始まりでした。当時よくカヴァーしていたのはJourney。Neal Schonのギターは、もっとも伝わりやすい僕の影響源だと思います。ポイントはメロディが心に残るということ。それでいて、ロックのパワーや派手さもあって、僕がギターにのめり込んだ入り口であり、ずっと好きなギタリストの一人です。そこからJeff BeckやSteve Vaiのようなギタリストが作るインストの作品も、よく聴くようになっていきました。
――Neal Schon、Jeff Beck、Steve Vaiといった先人たちのフレージングやサウンドスケープは、確かに、春畑のプレイに大きな影響を与えているように思う。そして、作曲における多彩な音楽性やチャレンジングな側面は、90年代に、ロックとエレクトロがシームレスになったビッグビートなどの波を受けて、“テクノ3部作“と呼ばれる『Who Else!』(1999年)、『You Had It Coming』(2001年)、『Jeff』(2003年)をリリースしたことに象徴される、Jeff Beckの柔軟性に刺激を受けた部分が大きいのではないだろうか。
春畑 : Jeff Beckは、オーセンティックなブルーズやロックを好む人たちが敬遠していた、エレクトロなどの新しい音楽にも積極的にアプローチしていましたし、ジャズやシンプルな3ピースなど、好奇心の赴くままに、そのとき興味があることを躊躇なくやってますよね。僕も、スタンスとしては彼に近いところがあるのかもしれません。ギターだからって、バンドだけにこだわらず、DJやオーケストラ、いろんなスタイルやジャンルの人たちと、どんどん新しいことをやっていきたいんです。そんな感じなんで、アルバムを作るとなると、やりたいことが溢れてきて、よくとっちらかっちゃいます(笑)
数々のスポーツ・テーマ・ソング
――多感な学生時代をギターとともに過ごした春畑は、1985年にTUBEのギタリストとしてデビュー。1987年には初のソロ・アルバム『Drivin’』をリリースする。そんな春畑に、ソロ・アーティストとしての大きな転機が訪れたのは1992年。1993年のJリーグの開幕にともない発表された公式テーマ・ソング「J’S THEME(Jのテーマ)」がギター・インストながら30万枚のセールスを記録。それだけでもじゅうぶんな快挙だが、この曲の真価はそんなビッグな数字を以てしても語りきれない。大記録を超えた記憶。コーラスとのユニゾンが先導している部分はあるとはいえ、国民的なレベルで多くの人々が口ずさめる“あのギター・フレーズ”は、日本のポピュラー音楽/ロックの歴史においても唯一の存在だ。
春畑 : 日本のサッカーがプロ化されて、野球と同じようにスタジアムやテレビでも観られるようになるから、公式テーマ・ソングを作ってほしいとお話をいただきました。そこで、まずプロ・サッカーとはどういうものか、欧州のリーグやワールド・カップのビデオを観て勉強したんです。世界中の人々が熱狂する数々のプレイに、僕もすごく興奮しました。それと同時に、あの舞台に立つことができる選手はほんのわずかで、志半ばであきらめなきゃいけなくなった人たちや、選手を裏で支えるスタッフ、そしてサポーターがいてこそ、成り立っている世界であることにも感銘を受けたんです。だから、派手でトリッキーなプレイや、ゴールのシーンにだけフォーカスして、スピーディーな曲に仕上げるのではなく、もっとレンジを広げて、サッカーにまつわる光と影の両方を映し出すような曲にしようと思いました。そこで曲の軸として考えたのが、ギターが弾くメロディです。僕のなかにうごめくいろんな感情のなかで、最も感動したのは、選手とチームとサポーターの結びつきだったので、サポーターが合唱する姿や声をイメージして作りました。
――そうして生まれた「J’S THEME」だが、ヒットを外しても言ってしまえば自己責任であるポップ・ソングとは異なり、老若男女が愛せるアンセムを“必ず”作らなければならないことに、プレッシャーはなかったのだろうか。
春畑 : ソニー・ミュージックの担当者からは、「オマエが死んだあとも、ずっと流れ続ける曲になるから責任持って作れよ」って、変な追い込まれ方をしましたし(笑)、僕も当時25~6歳で、まだわからないことだらけのところに、大きすぎる話がきたんでプレッシャーはありましたけど、ギター・インストがいいんだって、僕を必要としてくれた嬉しさでいっぱいでした。メロディに歌詞をつけると、言葉によってシチュエーションが絞られてしまうけど、ギターだと、それぞれのチームもファンもスポンサーも、あらゆる枠を超えて、愛される曲ができるって。それは僕の考えるインストのもっとも良いところでもあるんです。
――そして、2018年にはその「J’S THEME」をリアレンジする。原曲のイメージを大切にしながら、ギターの特化性を少し抑えたことで、曲全体の流れがより楽しめるグルーブが生まれた。
J’S THEME 25th ver.
春畑 : これはある意味、最初に作った時よりプレッシャーが大きかったです。リミックスやリアレンジって、失敗することが多いじゃないですか。僕もよくがっかりさせられるし、自分が失敗したこともあります。だから、今一度スタジアムに何度も足を運んで、いろんなことを考えました。メロディ以外は思い切ってせんぶ変えたほうがリニューアル感は出るし、実際に何通りも思いついて気に入ったもののあったんですけど、いろいろと話し合いを重ねていくなかで“子供たち”がテーマになったときに、方向性を見直したんですよね。ミュージック・ビデオにも出ているこの子たちが、プロの試合を観て感動してボールを蹴り始めてやがて選手になっていく。開幕時のセレモニーとは違って、“これからのJリーグ”みたいなイメージを曲にするために、当時はなかった音を使いつつもテンポや構成は変えないで、“Jリーグらしさ”は担保する。そのうえで、シンセの音などを入れて、いちばんのインパクトになっていたギターを、あえて少し引っ込めたんです。そうすることで、それぞれの音が連動して曲全体に流動性が生まれて、未来へと景色が広がっていくようなイメージになったと思います。
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――そして、もう一つ、春畑の代表曲でありリアレンジと重ねたスポーツのテーマ曲と言えば、フジテレビ野球中継で使用されている「JAGUAR」だ。オリジナルは1998年、以降2008年と2013年の2回にわたって同じ曲を装い新たに発表した。
JAGUAR ‘13
春畑 : 野球は昔ちょっとやったことがあって、二人の息子もやってるんで、ほかのスポーツと比べると、触れる機会が多かったんです。イメージはスピード野球とパワー野球で、すごくいいリフやメロディができたと、我ながら思います。しばらくしてリアレンジのオファーがきたときは、その段階での自分のスキルからすると、オリジナルの追い込みきれてない部分が見えていたので、ミックスのバランスを考え直して録り直すことで、すごくいい音像に仕上がったと思います。そしたら今度は2013年に3回目のオファーきて、さすがに「え~!」ってなりましたけど、こうなったらガラッと変えようって、新しいキメを入れたり、リズムを変えたり、リフも増やしたりしました。今となっては13年バージョンが、いちばん好きですね。
――この「JAGUAR ‘13」あたりから、春畑の作る曲は、より自由度が高まり自身のネクスト・レベルに到達したようにも感じる。そのひとつの極みと言えるのが、2016年にリリースしたJリーグ・ヴィッセル神戸のオフィシャル・テーマ・ソング「WE ARE ONE」ではないだろうか。エレクトロニカのアンビエンスにメロディアスなギターが乗り、じわじわと熱を帯びていくイントロから、ハードロックあり、ファンクあり、ハウスにEDMあり、ジャズありのめくるめく展開。そして最後は大合唱で締める、そのミクスチャー・センスが爆発した1曲に。
WE ARE ONE
春畑 : まずはヴィッセルの試合を観にスタジアムに行ったんです。「神戸賛歌」という「愛の賛歌」の歌詞を変えたサポーター・ソングがあるんですけど、ほんとうに涙が止まらなくなるほどに素晴らしいんです。それで、選手のスピーディーなドリブルとか、空中戦とか、ゴールとか、ディフェンスの頑張りとか、そういう個人技もチームプレーも含めたフィールドの躍動感も、サポーターの熱量も、人々の繋がりも、自分がヴィッセルに感じたことのすべてを詰め込みたいって、大きな衝動に駆られた結果ですね。現場で受けた感動があれば、曲は一気に作れるんです。だから、これはサポーターのみなさんがいてこそ、できた曲。
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