大晦日にダラダラしながらテレビを見るなら、やっぱり紅白だ。家族や恋人、SNS上の友人たちと一緒に今年の歌を聴いていると、いつの間にか色々なことを思い出して、2018年の話題に花が咲く。時々『ガキ使』にもチャンネルを変えるけど、知らないアーティストの曲が意外と良かったり、興味がなかった演歌歌手の歌が染みたり、やりすぎな演出が笑えたり……。意外なシーンで盛り上がることがあるから、見逃せない。
見逃せないといえば、初出場のアーティストも注目すべきポイントだ。今年初出場を決めたのはあいみょん、King & Prince、Suchmos(サチモス)、純烈、DAOKO(だをこ)、YOSHIKI feat.HYDEに加え、26日にサプライズで出場が発表された米津玄師の計7組。全部知っているという人も、何組かしか知らないという人もいるかもしれない。ここでは、その中からミーティア視点で特にオススメの3組をセレクト。彼らの来歴や歌唱曲をチェックして、大晦日に備えよう。
Suchmos:サッカーテーマソングが今年を代表する1曲に
2018年を振り返ったとき、FIFAワールドカップの熱狂を真っ先に思い出す人もいるかもしれない。そのNHKのテーマソングとして『VOLT-AGE』を提供したバンド、Suchmosも今年の紅白に初出場を決めたバンドだ。
2016年にリリースした『STAY TUNE』で注目を集め、瞬く間に実力・人気ともにトップクラスのバンドへと成長していったSuchmos。2018年は3都市6会場をまわり2万人を動員した『YOU’VE GOT THE WORLD TOUR』、自主企画対バンツアー『Suchmos The Blow Your Mind TOUR』という2本のツアーを走りきり、夏には様々なフェスに出演。中でも、フジロックフェスティバルではもっとも大きなステージであるグリーンステージに立った。苗場で、あるいは今年からはじまったYouTube配信を使って家で、彼らの白熱のライブを見た人も多いはずだ。
11月には地元・横浜にある横浜アリーナで、『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA』と銘打った2デイズライブを実施。チケットは即日完売し、2日で2万5000人を動員した。さらに、2019年には横浜スタジアムでのライブも決定。バンド結成当初から公言してきた「ハマスタでライブ」という夢を叶え、ビッグアーティストへの階段を駆け上がっていく。
ロックやブラックミュージック等を軸に様々な音楽を昇華したSuchmosの音楽は、洒脱だけど気骨がある。信念を持って、自分が思う格好良さを貫いていることが、タフなサウンドから感じ取れるのだ。今年リリースしたミニアルバム『THE ASHTRAY』にも、そんな彼らの美学が凝縮されていた。
Suchmos 『808』
Suchmos『FUNNY GOLD』
『STAY TUNE』同様、Honda VEZELのCMソングとしてもお馴染みのドライブ感ある『808』、ファンキーなサウンドにYONCEの色気あるボーカルが乗る『FUNNY GOLD』など、バラエティ豊かな7曲が収録された『THE ASHTRAY』。その中でももっとも緊迫感がある、7分越えの大曲がワールドカップのNHKテーマソング『VOLT-AGE』だ。これまでのサッカーテーマソングとはテイストが違うことから賛否もあったが、サッカー日本代表が躍進した2018年を象徴する1曲だということは間違いない。
その『VOLT-AGE』の『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA』でのライブ映像が、12月25日に公開された。
Suchmos 「VOLT-AGE」2018.11.25 Live at YOKOHAMA ARENA
Suchmosにとって2018年はツアーやフェスでライブに明け暮れた1年だった。筆者も今年何度か Suchmosのライブを見たが、回を重ねるごとに音の気迫、パフォーマンスの切れ味が増している。ライブで鍛えられたソリッドなグルーヴ感が凝縮されている、必見の7分32秒だ。
このパフォーマンスを見れば、どうしたって紅白が楽しみになる。出場歌手発表会見で「心を揺らすパフォーマンスを届けたい」とコメントを寄せた彼らは、どんなステージを繰り広げるのか? このライブ映像を繰り返し見ながら、大晦日の夜を期待して待ちたい。
米津玄師:故郷・徳島からの歌唱が突如決定!
12月26日、米津玄師の紅白初出場が決まった。この発表に驚いた人も多いだろう。なぜなら、米津のテレビ出演、および歌の披露はこれが初めてだからだ。
2009年に「ハチ」名義でニコニコ動画にVOCALOIDを使ったオリジナル楽曲を投稿し始め、2012年、米津玄師名義のファーストアルバム『diorama』をリリース。2013年にはファーストシングル『サンタマリア』をリリースしてメジャーデビューを果たした。
以後もコンスタントにリリースを重ね、東京メトロのCMソング『アイネクライネ』やHonda「JADE」のCMソング『LOSER』は、YouTubeでの再生回数が1億回を突破。10〜20代を中心に、高い支持を得ているアーティストだ。
米津玄師『アイネクライネ』
米津玄師『LOSER』
その米津玄師が紅白で歌うのは『Lemon』。石原さとみ主演のドラマ『アンナチュラル』の主題歌に起用され、YouTubeの再生回数は2億4000万回を突破し、米津玄師の新たな代表曲となった1曲だ。
米津玄師『Lemon』
米津玄師はこの曲を故郷・徳島で歌う。どんなステージになるか、今から注目だ。
DAOKO:有名アーティストとのコラボで話題に
紅組からの初出場が決定したのがDAOKOだ。11月14日に行われた出場歌手発表会見によれば、あいみょんとDAOKOは「サブスクリプションや動画の再生回数などの活躍が顕著で、10〜20代を中心に高い支持を集めている」ことが出場の決め手になったそうだ。
DAOKO × 米津玄師『打上花火』
実際、2017年にDAOKOが米津玄師とコラボした「打上花火」は、各種配信チャートやサブスクリプションで軒並み一位を記録。YouTubeではMVの再生回数が2億2000万回を突破するなど、メガヒットとなっている。今年の夏、花火大会へと向かう道すがらこの曲を聴いたという人もいるんじゃないだろうか。
また、米津玄師以外にも多数のビッグネームとコラボしている。岡村靖幸とコラボした『ステップアップLOVE』のMVでは、ダンサーを引き連れて岡村ちゃんにも引けを取らないダンスを披露した。
DAOKO × 岡村靖幸『ステップアップLOVE』
さらに、突如BECKとのコラボを発表し、シーンに衝撃を与えたことも記憶に新しい。BECKの楽曲「Up All Night」に日本語のラップを乗せ、カラフルなポップソングにさらなる色を添えた。
ベック 「アップ・オール・ナイト x DAOKO」セッション映像
BECKに「彼女に会ってみたいという好奇心」まで抱かせたDAOKOの魅力はどこにあるのだろう? 一つは、その儚いウィスパーボイス。インディーレーベル「LOW HIGH WHO? PRODUCTION」に所属していた女子高生の頃は顔を隠して活動していたから、彼女の存在を知る手がかりは声だけだった。教室で彼女が感じたことが、ダークなトラックの上でラップになる。ネットのアングラシーンとも共鳴するミステリアスな雰囲気は、各方面のクリエイターからも注目を集めた。そうしてm-floとのコラボや、中島哲也監督の映画『渇き。』の挿入歌に使われるなどして知名度を上げ、2015年にメジャーデビュー。以降は顔を明かしてよりポップな世界観にモードチェンジし、アニメやゲームとも親和性が高い独自の世界観を築き上げた。
そもそも、DAOKOは中学3年生のときにニコニコ動画にラップを投稿し始めたことが音楽活動の出発点。インディーズ期も、メジャーシーンに場を移した現在も、その活動にはミレニアル世代らしい先進性が漂う。台頭する新世代の空気感を知るなら、紅白でのパフォーマンスは外せない。
あいみょん:カルチャーアイコンとしても注目度急上昇
2018年にブレイクを果たしたアーティストの中でも、ひときわ存在感を放っていたのがあいみょん。
あいみょんは1995年、兵庫県西宮市出身のシンガーソングライター。幼少の頃から音楽に触れて育ち、中学生の頃から自分でも曲を作るようになる。2017年9月にリリースしたファーストフルアルバム『青春のエキサイトメント』がじわじわと話題になり、2018年2月にこのアルバム収録の『君はロックを聴かない』で『MUSIC STATION』に初出演した。
あいみょん『君はロックを聴かない』
芯のある歌声とまっすぐなメロディ。でも、どこか憂いもある。あいみょんの音楽はとても普遍的だ。『君はロックを聴かない』も、どこかスピッツを彷彿とさせるオーソドックスなサウンドの1曲。でも、ありきたりということではなくて、聞きこめば聞きこむほど職人的なメロディセンスにはっとする。
Mステ出演で勢いづいた2018年は、4月に『満月の夜なら』、8月に『マリーゴールド』、11月に『今夜このまま』とコンスタントにシングルをリリース。「満月の夜なら」は「TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS」の挿入歌としても使われ、「今夜このまま」はドラマ「獣になれない私たち」の主題歌に抜擢された。
『今夜このまま』は、ドラマの中でクラフトビールがキーアイテムになっていることから、歌詞にも「苦いようで甘いようなこの泡に」とビールを思わせるフレーズが隠れている。『今夜このまま』はビール、『満月の夜なら』はアイスクリーム、『君はロックを聴かない』はロックのように、モチーフを巧みに織り込みながら描かれる詞の世界も秀逸で、まるで映画を見ているかのようだ。
あいみょん『今夜このまま』
さらに映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』へも楽曲『体の芯からまだ燃えているんだ』を提供。活動の勢いはとどまるところを知らない。
シン(阿部サダヲ)&ふうか(吉岡里帆) あいみょん(作詞・作曲)『体の芯からまだ燃えているんだ』
そして2018年はファッション誌『VOGUE』の日本版『VOGUE JAPAN』が選出する、「VOGUE JAPAN WOMEN OF THE YEAR 2018」も受賞(他の受賞者は中村アン、『アンナチュラル』『獣になれない私たち』の脚本家の野木亜紀子、梶芽衣子ら錚々たるメンバー)。あいみょんは以前に『EYESCERAM』で表紙を飾ったこともあるし、新世代のファッション・カルチャーアイコンとしての注目度の高さがうかがえる。
そんなあいみょんが紅白で歌唱するのは、『マリーゴールド』。夏の雰囲気を散りばめた、『君はロックを聴かない』にも通じる青春めいたサウンドの1曲だ。歌詞は他の曲と比べると、技巧的な仕掛けは控えめ。しかし、基本がストレートなラブソングなぶん、サビの「麦わらの帽子の君が 揺れたマリーゴールドに似てる」という比喩が、そこだけ鮮やかに色づいたように眩しい。紅白では、ぜひ歌われる情景を想像しながら聞いてみてほしい。
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