“神僕”が、無機質な覆面で表情を隠しセンセーショナルな言葉で心に棲む世の中への不満を音にぶつける
2017年に放送され、W不倫という重いテーマを描いたTBS系ドラマ『あなたのことはそれほど』の主題歌「CQCQ」で日本中が注目を集めた覆面ロックバンド神様、僕は気づいてしまった通称”神僕”。ボーカルの正体やメンバーの素顔も素性も明かさない謎の部分ばかりが目立ちますが、見た目から判断するにはもったいない“現代を生きるバンド”です。
昨年、サマソニに覆面姿で初登場を果たし強烈なインパクトを与え、今年も引き続き出演が決定!ひとつひとつのメッセージ性が強すぎる楽曲を通しながら神僕の“仮面“を少しずつ破っていきたいと思います。
神僕が覆面をつけて音楽を鳴らす理由が奥深い
神僕以外にも覆面やお面をつけて音楽活動をしてきたミュージシャンはたくさん居ます。挙げだすとキリがないですが、世界征服を目論むオオカミMAN WITH A MISSHON、現在は顔出しOKとなったパスピエ、2010年に惜しまれながら解散したBEAT CRUSADERS、ライブでも薄い幕を張りイメージを壊さないamazarashiなどなど。
すべてに共通するのはイメージ重視でコンセプチュアルな独自の世界を持っているところではないでしょうか。正体不明な分、耳から入る情報がミュージシャンのイメージに繋がってしまうため、どんな人が音楽を作っているのか興味は湧きますが、顔出しを一切しないことのほうが多いです。
神僕はなぜそういった覆面バンドを選んだのか?その答えは”表情を隠すため“。至ってシンプルですが、バンド名の由来にも関係しています。まずひとつに、「神様の正体は偶像に過ぎず、自分たちはそれにすがっているだけであることに気づいてしまった」というロジカル思考が根底にあります。そしてふたつめに、そんな世の中に絶望し、負の感情に対する認識へのアンチテーゼが強い楽曲に対して、「演奏中の表情やエモーショナルな部分が、楽曲の世界観の邪魔になってしまうのが嫌だから無機質な覆面を被っている」という強いこだわりがあるからだと言えます。その為か、ライブ活動はする必要があまり無いという考えをもっているそうです。
メンバー構成は、どこのだれか(ボーカル&ギター)、東野へいと(ギター)、和泉りゅーしん(ベース)、蓮(ドラム)。ボーカルの正体はニコニコ動画で人気のまふまふではないか?とネットで騒がれていますが肯定も否定も無く、その他のメンバーの詳しいプロフィールも明かされていません。
緻密な計算がされたこだわりの強い楽曲構成
バンドが示す「神様」とは、若い世代が抱える負の感情を総称して”ネガティブ“に括り付ける行為や、何かあると神様にすがる人間の単純さを擬人化した存在であり、自分たちがその「神様」に対して音楽でタイマン勝負を挑み続けています。
神僕の持ち味と言えば、少年のようで少女のような突き抜けるミックスボイスと、突き刺さるようなギタメロを放った痛烈なバンドサウンド。そして、攻撃的でありながらもどこか悲観的な歌詞ではないでしょうか。バンドの肝となるメロディラインは、選んだ言葉のイントネーションと合わせることで日本語の誤解が生まれないようにされていて、ボーカルの歌声をより印象づけるためにハイで鳴らされたギター音とベース音が寄り添い、手数やキックが多い切れ味のいいドラムで曲全体がまとめられています。高音域は叫び声、低音域は心臓の鼓動のように聴こえてきませんか?
作品の細かいところまで緻密な計算がされているからこそ、歌詞の言葉を強く印象づけているのだと思います。
現代人が抱える闇を鋭い着眼点でぶった切る
人間関係、学校、職場。様々な悩みと葛藤し続ける現代人が一番怖いものは「孤独」。その「孤独」と戦っている人の“救済者”になるのではなく、神僕は“共犯者”になることに重きを置いています。不特定の誰かの歌が、自分の歌となるインフルエンサーが起きやすい楽曲の背景にはこういったテーマが隠されていたのです。
この「僕の手に触れるな」は、本当は助けを求めているのに歪んだ心理状態が蓋をして、「僕なんか放っておいてくれ!優しくするな!」と周囲の人を突き放す内容。ひたすらに本性を隠し偽ってきた意地っ張りな自分の事を責めて責めて責めまくり、終いには差し伸べてくれた温かい手を振り払いたくなってしまう人間の弱い部分が歌詞に落とし込まれています。頬をつたう涙の事を”傷の代償”として表現しているのが根深く生々しさを感じさせます。
「CQCQ」は、W不倫をテーマにしたドラマの内容に寄り添いながらも、しっかりとタイアップという歴史に名を刻んだ神僕の代表曲。この「CQCQ」とは「Call to Quarters」の略で、無線通信で不特定の相手に向けて呼びかけるための符号を意味します。
どう足掻いて前向いたって夢は遠ざかって
どう踠いて帆を張ったって嘘にしか見えなくて
ユートピアと命名した幽霊船は沈んでいく「CQCQ」歌詞抜粋
行き場のない感情に今にも押しつぶされそうな罪悪感や嫉妬から抜け出したくても、自分の弱い意思だけでは抜け出せず、今更SOSを発信しても誰も助けてはくれません。ようやく手に入れた楽園は海の底に沈んでいく運命なのです。
「神様」への宣戦布告。腐った世の中に復讐開始
1st Mini Album『神様、僕は気づいてしまった』は、1枚目にしてセルフタイトルを背負った言わばバンドの名刺。このアルバムの中に収録されている「宣戦布告」は、ボーカルのどこのだれかが作詞作曲を手がけ、神僕の大半の作詞作曲を担っている東野の曲に比べると自虐性が強い疾走感のある傷心ロックとなっています。この曲は周りに敵をつくり、失望と絶望を繰り返してきた人間からの文字通り宣戦布告。辛かった経験を話せば“不幸自慢”だと笑われる世の中に対して、敢えて冷めきった自分を曝け出し、生きづらさを爆発させています。これを踏まえて「TOKYO LAIR」を聴くと、牙を剥き出した神僕からのメッセージがダイレクトに突き刺さります。“TOKYO”で生きる人たちは、着飾った幸福感に浸かり、偽りの笑顔を振りまいて、不幸な人をあざ笑っている。自分たちも疑心暗鬼な癖に馬鹿にする。そういうゾンビを作ってしまった“神様”に中指を立てるときを心のどこかで待ち望んでいたのは私たちのほうかもしれません。息が詰まりそうなこの世の中に対する不満を、神僕が先陣切って音楽に昇華していってくれることでしょう。似た者同士の共犯者として。
自分と向き合うことで自分を取り戻す。神僕が最大の敵に挑む
3月にYoutubeで公開されるや否や総再生回数108万回を突破している待望の新曲「メルシー」。この「メルシー」は「慈悲、慈しみ」を意味しています。世の中や風潮に異論を唱えてきた神僕が、新たに挑戦状を叩き出したのは“自分”でした。子供の頃は嘘をつく事も無かったのに、大人になればなるほど本音を仕舞い込み、建前で生きていかなければなりません。そんなことはもう終わりにして、たまには本当の自分と向き合って、自分を赦す。そうすれば少しでも生きやすくなるのでは?という殻を破り始めた神僕からのメッセージを受け、あなたはどう感じ取りますか?自分と向き合う勇気が生まれてくるのではないでしょうか。
その神秘性とアンチノイズを携え、日本の音楽に降臨してきた神様、僕は気づいてしまった。このバンドはまさに今の日本人の若者たちが抱える負の感情をエネルギーにして、音楽で世の中に待った!をかける存在となって行くでしょう。その悲痛の叫びを音楽だけではなくグッズを通して纏ったり、カラオケを通して自分達の主張として外に吐き出すことでも、“神様のいたずら”で通気性が悪くなった社会を風通しの良い社会へと導くヒントに出会えるのではと信じています。
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