遥海の魅力が余すところなく堪能できた至福の時間
2013年から2014年にかけて(地上波では沖縄のみ、YouTubeは現在でも視聴可能)放送された「X FACTOR OKINAWA JAPAN」という「X FACTOR」の日本版オーディション番組に出演し“驚異の高校生”と、その歌声が脚光を浴びた草ケ谷遥海。その後もテレビやライヴなどで持ち前の実力をいかんなく発揮し、2018年には配信シングル「誓い」をリリースするなど、傍目から見れば、その人生は順風満帆のように思えた。しかし、13歳までは英語が公用語となっているフィリピンで育ちながら、青春期を言葉の通じない日本で過ごすことになった彼女は、周囲とのコミュニケーションがうまくいかずに悩む日々を過ごす。だからこそ、日常的な生活から表現活動においても“伝えること”ととことん向き合い、自身のアイデンティティを追求し続けてきた。
そして2019年、アーティスト名を本名から“遥海”にあらためリリースしたEP『CLARITY』と配信限定の『MAKE A DIFFERENCE』で、その積み重ねが大きく花開く。フィリピン時代から慣れ親しんできた、自らの血肉となっているアメリカン・トップチャートの華やかさ、日本に来てから触れた歌謡曲ルーツのポップス、それらの根にあるオーセンティックなソウルやファンクなど、さまざまなグルーヴや時代感覚を往来する高いパフォーマンス性、英語と日本語がシームレスになりクロスオーヴァーする、魂から湧き出るような言葉。それらは世界を股にかけられるポテンシャルを秘めた“歌”の王道であり、圧倒的な個のオリジナリティであり、新時代のポップスを牽引していけるだけのパワーに満ちていた。
Photo:Hajime Kamiiisaka
Text_Taishi Iwami
そして迎えた2020年2月10日。渋谷WWWで開催された今年最初のワンマンライヴ「HARUMI LIVE 2020 “PRIDE”」は、そんな遥海の魅力が余すところなく堪能できた至福の時間となった。音譜の一つひとつを愛でるような、丁寧で繊細且つエモーショナルでパワフルな歌声が描く景色やその浸透度はやはり唯一。昨年ワンマンライヴをおこなった渋谷Mt.RAINIER HALLは、着席スタイルのホールであるゆえ、会場全体を抱き寄せるようなサウンドが軸となっていたが、今回はスタンディングのWWWということもあってのことだろう。現在進行のポップシーンと共鳴するモダンな側面や、セクシーでエッジの効いたパフォーマンスも際立ち、これまで以上に多彩でさまざまなレイヤーが楽しめる一夜となった。
まずは、ラテンの香り漂う「DIAMOND」~アップテンポなディスコ「DANCE! DANCE! DANCE!」と、情熱的な曲が繋がり、期待感に充満していたフロアのエネルギーが一気に爆発。そのアッパーな流れを汲みつつ爽快な空気を吹き込む「Rainbow」、躍動感と開放感のある「Two of us」から、「君のストーリー」へと、フィジカルなグルーヴを保ちながらグラデーションでじっくり聴かせる歌にフォーカスしていく前半の流れはお見事。
中盤は美しく広大なアンビエンスが印象的な「DARE ME」、その歌声の伸びに無限性を感じる「記憶の海」、遥海流の“灯台下暗し”をカタルシスへと昇華するような「Answer」など、パーソナルな感情を深く掘り下げることで持てる強さが歌となった曲が、観客の胸を打つ。息を飲むように見つめる人、祈るように聴き入る人、全体から巻き起こる拍手。素晴らしいバラード群に、皆それぞれが酔いしれた。
そして終盤。草ケ谷遥海時代からの「誓い」やエキゾッチックなムードと現代的なプロダクションが融合した「Don’t You Worry」などを披露したあとのラストナンバーで、ビッグなサプライズが。「遥海を見つけてくれてありがとう」と話し始め、次に歌うこの日のライヴタイトルにも冠した「Pride」で、メジャーデビューすることを発表。また、同曲はラジオパーソナリティが主人公のアニメ「波よ聞いてくれ」のエンディングテーマでもあり、言葉がわからないまま日本の地を踏み、レギュラーラジオ番組を持つまでになった遥海自身と重なる部分もある。これまでに歩んできた道のりで得た誇りを、高らかに歌い上げるような姿に、多くの観客が歓喜の声を上げた。
アンコールは代表曲のひとつである「Don’t Break My Heart」。R&Bの今とドメスティックなポップが交差する曲を、自らの真ん中を貫くように歌う存在感は、単にリリースの形式ではなく、これこそがメジャー級。彼女がこの先、我々に見せてくれる豊かで大きな未来を予感させてくれた。
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