自閉症とともに生きて来た…GOMESS(ゴメス)はラップという力を糧に、その障害を乗り越えてきた。だからこそ彼のラップに込められた想いは、生々しくて重いのかもしれない。その想いが濃密に詰まった3枚のアルバムは、「あい」から「し」を経て「情景」へ。取り巻く世界の流れとともに変化していくGOMESSの心の内面をめぐる、壮大な物語が描かれている。
「あい」は、生きている証。「人間失格」からすべてが始まった。
GOMESSが本格的にラッパーとして生きて行くきっかけになったのは、BSスカパーの「BAZOOKA!!!」で行われた「高校生ラップ選手権」での準優勝だった。それは2012年のこと。そして2年後、1stアルバム「あい」がリリースされるが、その頃、メディアにフィーチャーされていたのが「自閉症に生きるラッパー」というフレーズだった。引きこもりのラッパーという生き様は、複数のテレビ番組で紹介されていた。結果的にそこから「注目」されることなったことは確か。だがGOMESSの本質は、もっと奥深い彼自身の葛藤の中にあった。
「ラップ」という表現のツールは、彼にとってはシンプルな「言葉」であり観客とのコミュニケーションにほかならない。だからこそ「うまいラッパー」ではなく「ココロに響くラッパー」として認められ、それがGOMESSの個性を際立たせている。まずフリースタイルで録音してから、それをリリックとして煮詰めていった「あい」のレコーディングのプロセスは、まさにGOMESSのラップが「らしくあるために」必要な、儀式だったのだ。収録された彼の代表曲「人間失格」という深い慟哭は、多くの若者達のココロを抉った。
「し」は同時に、生きること。真の「LIFE」とは絶望の先にあるものか。
2015年にリリースされた2ndアルバム「し」では、GOMESSは多くのアーティストたちとのコラボレーションに取り組んでいる。まるで自閉症を乗り越えた? かのように思えるほど豪華なメンバーと関わっているが、さにあらず。抱える葛藤はより重く、募る苦悩はより深く、その苛酷さをそっくりそのまま投げつけるかのようなダイレクトなメッセージ力が、さらにパワーアップしていた。このアルバムのリリースに合わせて実現した初のワンマンライブは時に、重苦しい雰囲気に包まれるシーンさえあったようだ。
YouTubeで公開された収録曲「LIFE」へのコメントが、その本質を物語っているように思える。「これは励ましの歌ではない。誰かを元気付ける歌でもない。〜中略〜ただ純粋な1人の人間の「魂」の叫び。」…そう書いた彼(彼女?)もまた、おそらくは深い哀しみ、苦しみに絶望していたのではないだろうか。だからこそGOMESSの歌う「絶望」の先に、「希望」を探す力を得たのかもしれない。
仲間たちとともに、見えてきた「情景」。見えてくるハズの「情景」
そして2016年4月27日、最新のミニアルバム「情景 -前篇-」が、リリースされた。これまでの作品と大きく違っているのが、全8曲を通して歌われている「想い」の主人公たち。前2作のようにGOMESS自身ではなく、彼とともにさまざまなコラボシーンを彩ってきた、多彩なアーティストたちの生き方とスタイルが、そこには描かれていた。このアルバムはGOMESSが自閉症とともに生きてきた時間の中で出会った、かけがえのない仲間たちとの記憶が歌われてる。
「GOMESSが自分自身と葛藤を繰り返してた昔から今度は他人の気持ちを理解しようとしているなんて…頑張れ。」そんなYouTubeのコメントが、すべてを物語っているような気がする。映画の劇中歌製作など、GOMESSを取り巻く世界観は、確実な広がりを見せている。これからが、楽しみでしかたない。2016年秋、リリースの「情景 -後篇-」では果たして誰のどんな物語で、リリックを書き綴ってくれるのだろうか。
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