アートもエンターテイメントも凝縮されたCorneliusのステージ
「コーネリアスの新曲(『あなたがいるなら』)、いいね」と僕に連絡してきたのは、イギリスで出会ったテクノ大好きっ子。アメリカのピッチフォークで紹介されていたので、彼は僕よりも早くコーネリアスの新譜に触れていたようです。平然と世界規模の音楽批評サイトに「ベスト・ニュー・トラック」として激賞されるコーネリアス。
日本人ながらやや出遅れてしまったのですが、僕も本作は傑作だと思います。この曲が収録されているアルバム『Mellow Waves』も、間違いなく年間ベストアルバムに名を連ねるでしょう。
Cornelius – 『あなたがいるなら』
けれども(やはりと言うべきか)、ライブはもっと凄まじかったのです。オープニングを飾った『いつか / どこか』、大胆なボコーダーが印象的な『Helix / Spiral』。どの曲も複雑至極でアート性の高い音像なのですが、無抵抗にノれる。
思えば、コーネリアスの音楽はいつの時代もそうだったかもしれません。僕が『STAR FRUITS SURF RIDER』を初めて聴いたのは高校生の頃でしたが、そのときも問答無用のポップ感に打ちのめされたものです。あのときと同じ、いや、当時の数倍以上の感動でもって、今回もヤられました。
過去の雪辱を完璧に晴らしたThe Avalanches
昨年のフジロックに出演予定だったアヴァランチーズ。残念ながらメンバーの健康上の問題により来日は取り止めに。しかも彼らは以前にもサマーソニック出演をキャンセル(2007年のこと)してますから、この一件ですっかり「キャンセル常習犯」の仲間入りを果たしてしまったのです。そんな背景もあって、今回のフジロックは半ばリベンジの意味合いもあったのですね。
期せずして受けた不名誉でしたが、恐らく今回のフジロックで完全に払拭できたでしょう。小雨が降りしきるグリーンステージでは、驚きと感動に満ちたライブが展開されました。バンドもオーディエンスも、このときを待っていたのです。
The Avalanches – 『Because I’m Me』
サンプリング集団として知られていた彼らですが、この日はバンドセットでの出演。『Flight Tonight』も『Radio』も、迫力のある生演奏で聴かせてくれました。果てはクラッシュの『Guns Of Brixton』やThe Whoの『My Generation』のカバーまで披露。連綿と続く音楽の歴史を紐解くようなパフォーマンスでした。
僕と同世代のリスナーは、彼らの音楽をどう聴いたでしょう。ストリーミングが当たり前となった僕らは、音の大海を目の前にしています。しかし泳ぎ方を知っているかは、また別の話。アヴァランチーズが教えてくれたのは、そんな大海原との付き合い方だったような気がします。
The xxが見せた、「静」と「動」の妙
「今一番UKっぽいアーティストは誰か?」と聞かれれば、僕はThe xxの名を挙げます。自分たちのルーツに正直で、なおかつ洗練されていて、ファッションへの嗅覚も鋭い。なぜこうもイギリス人はセンスが良いのか。
最新作の『I See You』以前と、以降。両者における「静」と「動」の対比は、ここ最近の彼らを語る上で外せないテーマであったように思います。
The xx – 『I Dare You』
ライブでは、その明暗がより際立っておりました。『Islands』などのミニマルな楽曲に対し、『Dangerous』や『I Dare You』のようなエレガントなナンバーを容赦なくぶつけます。オリヴァーとロミーの耽美なコーラスも堪らない。
触れただけで壊れてしまいそうな繊細さを持ちながら、それと同時に男性的な強さも随所に感じるアンビバレンス。The xxの唯一無二な世界観だと思います。ヨーダのように後方から音像を操っているのはジェイミー・スミスですが、三人のうち誰が欠けても彼らの音楽は成立しません。一つ一つのピースが綺麗にハマった、そんな音世界。終着駅は『Angels』。
疲労と困惑の果ての快楽。Aphex Twinの狂乱
把握できた曲は5、6曲ぐらいでしょうか。エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスの、狂気と悪意に満ちた至高のライブパフォーマンス。途中強烈な雨に見舞われましたが、それすら彼の意思なのではと想像をたくましくするほど、人智を超えたステージでした。
Randomerの『Bring』のようなドラッギーなビートに、The Ragga Twinsの『18” Speaker』ようなダブ色の強いトラックを掛け合わせます。
Randomer – 『Bring』
ライブ中からSNSで話題になっておりましたが、VJには日本の有名人(良くも悪くも)たちが大量にコラージュされ、会場は笑いと困惑の渦へ。そのうえ、セットリストの99%がハードコアな構成の中に、1%程度仕込まれたアンビエント・ワークス。全てが予想の斜め上を行きます。何が言いたいのかまるで分からない。
変態性の強い彼ですが、僕は何となくイノセントなキャラクターを感じたのです。悪ガキが大人へ悪戯を働くような、ピュアな悪意。ラスト10分の悪夢のようなノイズに全身を貫かれた後、ドッキリにかけられたような、軽妙な嘘に騙されたような、不思議な感覚に襲われました。やっぱり僕はエイフェックス・ツインが好き。
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