【TAKE(武田と哲也)、森 大輔、久保田 利伸がイベントの感想を語ります】
FM COCOLOが主催する一夜限りのライヴ「CROSSOVER JAM “COOL VIBES”」が23日夜、大阪の「フェスティバルホール」で行われた。ブラック・ミュージックに憧れ、いや、偏愛してきたと言ってもいい日本のシンガーたちが出演するオムニバス形式のソウル・レヴュー。その顔ぶれは様々なメディアやリスナーから“実力派”と称される人たちばかりで、世代は10代の若手から60代の大御所までと幅広く、それぞれ目指すところも異なるが、愛するソウルやR&B、ヒップホップを自らの体内に取り込み、誠実に向き合いながら独自の表現方法でアウトプットしていくという意味では、全員が同じ方向を向いている。そんな彼らが、初顔合わせのコラボレーションも含めてひとつのステージをシェアするという事実だけでも歴史的なイヴェントと言っていいだろう。
バンドによるソウル・ジャム的な前奏曲に続いて、まずトップバッターとして登場したのは地元大阪出身のNao Yoshioka。全曲を英語詞で歌い、3年前のデビュー時から日本を含む世界を舞台にしてきた彼女は、昨年全米デビューも果たし、玄人筋からの評価もすこぶる高いシンガー。
ステージは、そんなNaoの出世曲で、「変化は自ら起こす」と自身を鼓舞するように歌い上げる“Make the Change”からスタートした。米ワシントンDCのR&Bラジオ局(WHUR)でもヘヴィ・ローテーションとなったこれは、途中のリズム・チェンジが独特なネオ・ソウル調のナンバーで、初っ端から彼女の世界に観客を引き込む。そのスケールの大きい堂々としたヴォーカルは、エタ・ジェイムズのヴァージョンでよく知られ、Naoが初期からライヴの十八番にしてきたリズム&ブルースの名曲“At Last”のカヴァーでも、ホールのてっぺんまで響き渡る。歌い終えた後の客席の静けさは、その歌ぢからに吸い込まれてしまった客席の正直な反応だったと思う。
さらに、今年9月に発表したばかりの3枚目のオリジナル・アルバム『The Truth』からリード・トラックの“I Love When”も披露。アリシア・キーズの最新作でも演奏やプロデュースを手掛けていたミュージックマン・タイが制作した曲で、ここでは繊細さや色気も漂わせ、表現力の豊かさや懐の深さを見せつけた。そうして彼女が気持ちよく歌えたのは、本ライヴのバック・バンドが自身のバンド・メンバーを中心に構成されていたからでもあるのだろう。ベースでバンマスを務める松田博之、ギターの田中“Tak”拓也、キーボード/オルガンのJamba、バック・ヴォーカルの鎌田みずきがそのメンバーで、さらにドラムスの中村亮、キーボードの宮崎裕介といった国内屈指の敏腕プレイヤーがバックを支える。ソウル・マインドを持った彼らのプレイはNaoだけでなく他のアーティストとも抜群の相性を見せ、最後までグルーヴとテンションをキープしていく。
続いて、学校帰りの制服を着たまま登場したのが、“17歳 現役女子高生シンガー”として注目を集めるRIRI。“放課後のソウル”を謳い、英語詞の曲をUS R&Bのシンガーさながらに歌う彼女もまた驚異的なヴォーカル・スキルの持ち主で、キュートな見かけからは想像できない力強く芯の通った歌声で観客を驚かせる。
歌ったのは、今年11月にリリースしたばかりのファーストEP『I love to sing』に収録された“Next to You”。トロピカル・ハウス的な匂いもする現行R&Bの最新形を緩急つけて歌いこなす姿には、容姿とのギャップも含めて観客に大きなインパクトを与えたに違いない。
女性シンガーがふたり続いた後は、男性アーティストのトップバッターとして、現在FM COCOLOで自分の番組も持つ大阪出身の森大輔が登場。久保田利伸のツアーにもキーボードやバックグラウンド・ボーカルなどで参加する弟分的なシンガー/ソングライターで、クラシックの素養も窺わせながらピアノ弾き語りで歌う姿は、現在のUS R&Bアーティストに喩えるならジョン・レジェンドに近いとも言えそうだが、どこまでも伸びやかで透き通った歌声は“ソウルフル”という形容とは別次元の昂揚と瑞々しさを感じさせる。
最初に歌った躍動感あふれる“Our Song”は初期の代表曲で、シティ・ポップス的な粋も感じさせる洒脱な旋律を高いトーンの美声で歌い上げる姿は彼の真骨頂だろう。続いて、今年3月に発表したアルバム『Music Diner』からバラードの“ごめんねと言って”を真っ直ぐな声で披露した。
その森大輔が「尊敬する先輩」としてステージに呼び込んだのが武田と哲也だ。タケテツの愛称でも親しまれる彼らの正体は、Skoop On SomebodyのTAKEとゴスペラーズの村上てつや。
2006年から毎夏開催しているソウル・イヴェント「SOUL POWER」にて鈴木雅之の指令で結成されたジャパニーズ・セクシー・ソウル・デュオで、不定期で活動を行いながら今年で結成10周年を迎えた。登場するなり漫才のような掛け合いで会場を沸かせたふたりは、その後ステージに立つたびに司会者を気取って笑いを取ることになるが、まずは今年多くの偉大なミュージシャンが亡くなったことを受けて、10日ほど前に他界したサザン・ロックの巨匠レオン・ラッセルを追悼。ということで取り上げた曲は、カーペンターズなどでお馴染みの“Superstar”。これを森大輔との3人でエモーショナルに歌い上げたのだが、カーペンターズ的な匂いも残しつつもルーサー・ヴァンドロスのヴァージョンに近い雰囲気になるのは、武田と哲也のソウル愛が自然にそうさせてしまうのだろう。盛大な拍手に見送られて森がステージを去った後は、結成10年目にして初めて発表したミニ・アルバム『LOVE TRACKS』から2曲を披露。マクファデン&ホワイトヘッドへのオマージュとなるアルバム・ジャケットよろしく白いスーツでステージに立つふたりは、力漲るアップの“LOVE SOUND”とミディアム・バラードの“4U”を大人の余裕と色気を発しながら快唱し、ヴォーカリストとしての風格を見せつけていく。
名前がアナウンスされた途端、会場から大きな歓声があがったのがKREVA。本日唯一のラッパーということで、本人も曲間のトークで「今日は歌の上手い人ばかりで上手くない自分はアウェイかと思った」といったようなことを話していたが、アウェイどころか、淀みないフロウでシンガー的な側面もアピールしてきた彼だけに違和感は全くない。
それどころか、客席は総立ちに。ソロ初期の名曲“音色”でスウィートな歌ゴコロを滲ませながらパフォーマンスしていく姿はソウル・スタイリストと呼んでもいいほど。この曲の途中で久保田利伸を呼び込むと客席からはこれまでにない歓声に包まれ、久保田の滑らかなヴォーカルによって、よりソウル・ムードが高まっていく。
続いてKREVAは曲間のトークで、4年ぶりのオリジナル・アルバムを来年2月1日にリリースすることを発表。『嘘と煩悩』というタイトルまで明かし、その中からの曲として“居場所”を披露した。僅かにオートチューンをかけたような声で歌われたこの曲の最後で「2016/11/23 COOL VIBES…ここが俺の“居場所”」と締めくくるあたりは本当にクールとしか言いようがない。
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